KenMiki & Associates

三木組奮闘記『駅 Part 1』

大阪芸術大学デザイン学科、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。三回生、前期二つ目の課題は『駅』。『駅』とは何かを考える中で鉄道・船・飛行機の『駅』といった公共の『駅』そのものを捉え研究するもよし、また『駅』をメタファー(比喩)して『音楽の駅』や『ニュースの駅』や『言葉の駅』といった実際の『駅』とは違いながらも、『駅』のもつ機能や価値を見据えブランディングやイベントの企画に展開してもかまいません。列車への乗り降りや貨物の積み下ろしに使用する『駅』のホームを、英語では『Platform(プラットフォーム)』という呼び方をします。また、コンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)やハードウェアといった基礎部分を指す言葉も『プラットフォーム』と呼びます。加えて、それらの組み合わせや設定による環境などの総体を指す言葉としても使われています。その『プラットフォーム』が、いま、あらゆる分野の仕組みづくりで注目を集めています。多くの人やモノやコトが自由に参加できる『プラットフォーム』や『コミュニティ』をどのように考えていくか。デザインが生まれる前の土壌をいかに耕し『みんなのデザイン』にしていくか。個人と社会の関係を見つめながら新しい『駅』の可能性について発想を広げてみてください。

切符[文化と自然がギュッと詰まったプロジェクト]
課題の解釈や発想のジャンプのために、僕は自分の仕事やコレクションしている本やグッズなどを通して「気づき」のヒントをいくつか紹介することがあります。「みんな、集まって!ここに唯一、僕が持っているルイヴィトンの商品があります」。「えっ!なに、なに?」。「じゃ~ん。これ『東京』というタイトルで画家の山本容子さんが描いた旅の本。ルイヴィトンのコンセプトは一貫して『旅』。この本、パリ・ニューヨーク・ロンドン…と、その地域を拠点とする画家達に街を紹介する絵を依頼したもの。この『東京』、すごく味があるでしょ。山本容子さんの絵の中に東京の下町の人間模様が描かれています」。「素敵!すご~い!こんな本があるんだ。鞄しか見てなかった!」と、女性たちの声。それから数時間後、Oさんとのコンセプトミーティングが始まりました。「あの本、感動しました」。「いいでしょ。僕の宝物です」。「今回の『駅』のアイデア、こんなのどうでしょうか?近鉄の鶴橋から伊勢市までの沿線でそれぞれの文化や自然を紹介する小さな本を作りたいと思います。そして、それぞれの駅の切符もデザインして、その本にコレクションする企画です」。「切手のコレクションみたいな感じですか?」。「はい。文化と自然をコレクションするプロジェクトです」。「いいですね。どんな表現方法にするんですか?」。「私、いろんなイラストを描くんですが、今回は、すべてアナログで描きます。山本容子さんの本にシビレました」。「そのシビレが次にOさんの絵を観た方をシビレさせますよ」。数週間後、9つの駅の文化を丹念に調べ、すごく味のある切符と小さな本を仕上げてきたOさんの仕事、とても丁寧に描かれています。それぞれの駅で下車したくなるようなデザインに三木組のみんな感動しています。手の平に収まる小さなデザインの中に文化と自然がギュッと凝縮されています。



ホンマノオバマ
「駅、色々考えたんですが地元の駅にしようかと思うのですが…」。「いいんじゃないですか」。「どこですか?」。「私、福井県の小浜(おばま)市出身なんですが…小浜駅です」。「あの、オバマ大統領就任の時に話題になった小浜なんだ」。「えぇ…。それで、小浜の魅力を歌にしてみんなに伝えようかと思うんですけど…」。「歌って、唱うの?」。「サークルで音楽やってるんですが、作詞、作曲、歌、CDと小浜の本を作ろうかと思うんですけど…」。「いいんじゃないですか。昨年の三木組で彼氏に作曲してもらって唱った人がいましたね」。「知ってます。同じサークルの先輩ですから」。「本当に!」。「ところで、小浜の本なんですが、どんなまとめ方がいいか相談に乗っていただきたいのですが…」。「まずは、小浜の取材から始めることだと思うけど、単なる観光ブックじゃ、どこにでもあるからね」。「そうですよね…」。「僕の知人で親日家のフランス人女性は、日本を訪れる度にヴィジュアルダイアリーともいえる旅の記録を本にしています。彼女の感性に響いたものを写真に撮り、その地でプリント。展覧会のチケットから雑誌の切り抜き、街で配られている販促ツールやお守りにいたるまで、その時に感じたメモやスケッチとともにスクラップをしているんです。旅と同時に進む編集とでもいうか、そこに、彼女の目で切り取られた日本が浮上してきます。その本、会う度に見せてもらうのですが実に楽しい。いわゆる旅のガイドブックにあるような、お決まりの観光ガイドとは一線を画しています。なんか、そんなスクラップブックのようなデザインはどうですか?」。「がんばります!」。みなさ~ん、Hさんのライブいかがでしたか?また一人、三木組からシンガーソングライターが誕生しそうですよ。

ホテル環状線
Y君のプレゼンが始まりました。「JR大阪環状線の周辺で飲んでたり、仕事が押して終電に乗り過ごした人達に低価格で止まれる『ホテル環状線』という企画です。終電から始発までの電車を利用してホテルにするアイデアです。簡易なアメニティグッズも用意して、朝方にはお結びが朝食として配られます」。「おいおい、終電から始発までの電車を利用するって、点検や清掃もあるんだよ」。「あっ!そうですよね!」。「まあ、既成概念にとらわれない大胆な発想が新業態を生み出す可能性だと考えるとして、ところでこの写真、環状線の駅なの?」。「えっと、えっと、環状線で挑戦しようと考えたのですが、あまりの人でどこの駅も終電に乗り遅れたイメージが出せなくって、企画が採用されたと仮定して、環状線ではない、人の少ない駅を選んで撮影しました」。「了解しました。それにしても大胆な写真ですね。中年のサラリーマンが枕をもって電車に乗り込んでるんですから、撮影風景を想像するとすごい光景ですね」。「はい。終電前の電車でガラガラだったんです」。「ところで、このモデルは、どなたですか?」。「父です」。「えぇ〜。お父さんなの?」。すると、三木組の女子から「Y君のデザインには、よくお父さんが登場するんですよ!」。「本当に!」。ビックリです。息子の課題のために、終電前の電車にスーツ姿で枕を抱えてくれるお父さんに拍手です。
素敵な親子関係ですよね。実際に環状線をホテルに使用するのはハードルが高そうですが、目的を『時間』によって変えることや、『空間』の別利用や、多くの『人間』のために場を提供するといった『間(ま)』を意識したアイデアだと思います。それと、もしこの広告に遭遇したとしたら、すごいインパクトでしょうね。「Y君のお父さんに、もう一度拍手!」。三木組、拍手が鳴り止みません。
いかがでしたか?楽しいアイデアでいっぱいですよね。手の平サイズの小さな本と切符に込められた文化と自然。なんだか、ほのぼのとした気分にさせてくれる歌声。お父さんの大きな愛に包まれた広告。三木組のみんな最高でしょ!毎回、何が飛び出すか分からない緊張のステージ。それぞれに潜む物語。次回の『駅 Part 2』もご期待くださいね。