KenMiki & Associates

2010 12 31

大晦日。
凛とした空気を吸い込みながら…。

見えないところにこそ、デザインの力を注ぎたい。

事務所のウェブサイトのプログラムを組立ててくれた頓花(とんか)くんが今日で三木健デザイン事務所を退職します。大好きなコンピューターの世界で構造から意匠までをもっと極めたいということで、ITの最先端企業に転職を目指すからです。数年前にFlashというソフトウェアを使って軽やかな動きのウェブサイトを目指してきた僕たちですが、iPadやiPhoneといった新しいデバイスでは、事務所のウェブサイトの全てが見れない状況になってしまっていました。正確には、Selected Worksという作品事例のコンテンツが見れず、コラムやニュースは見ることができました。見れない理由は、Apple社が企業戦略上 Adobe社のFlashを採用しないからです。また、事務所のメンバーの中で頓花くんのようにFlashを自在に操れる人がおらず、彼の退職宣言を機に抜本的にウェブサイトを見直す計画に取り組んできました。
具体的には、今の事務所のウェブサイトのデザインの意匠はそのままで、手軽に素早く更新できる仕組みを組立てる。そのためにWordPressというブログなどに使うソフトウェアをベースに全てのプログラムを再構築する。PCで見る時とiPadやiPhoneで見る時にFlash効果以外は、ほとんど変わらないデザインにする。手軽にブログを更新するような感覚で、二つの異なる構造(PCと他のデバイス)に速やかに変化するようになど、いくつかの課題に向けて彼は、最終日のいまの今までトライ&エラーを重ね調整をしてくれました。
このことを比喩的に伝えるならば、全ての情報が流れ込む「海」でも、人為的に塞き止められている「ダム」でもあらゆる環境で三木健デザイン事務所の情報を受信できるようにするために全力で走り抜いてくれたということです。
インフラ工事を進めることで、どこでもいつでも、みなさんが僕の事務所の情報を知りたいと思った時に蛇口を開けば、すぐに情報が流れてくる仕組みにやり直したということです。もちろんそのために、僕たちの手間が今まで以上にかからないことが重要です。速やかに情報をアップすることで今の僕たちの考えや取り組みをみなさんにタイムリーにお伝えできるからです。一見するだけでは、何も変わっていないように映る僕の事務所のウェブサイトですが、2010年12月29日の今日から構造全てが入れ替わることになりました。iPadやiPhoneをお使いの方、一度アクセスをしてみてください。http://www.ken-miki.net/もちろんそれ以外のデバイスにもできる限りの配慮を心がけたつもりです。
そんな訳で、来年の三木健デザイン事務所は、コラムはもちろんのこと、Selected Worksをどんどん増やしていくつもり…。すでに、情報整理に取りかかっており、2011年からは、新しい情報も過去の情報も「う〜んと」、分かりやすくして考え方を中心にメッセージしていくつもりです。頓花くん、長い間お疲れさまでした。そして、いろいろとありがとう。これからも分からないことがあったら助けてね!
そして、今年もいろいろとお世話になりましたみなさん、本当にありがとうございました。
「見えないところにこそ、デザインの力を注ぎたい」。これが、僕たち、三木健デザイン事務所の2011年に向けての指針です。快適でちょっとチャーミングで、みなさんに「それ、それ!」といっていただけるような記憶に残るデザインを生み出したい。そして、みなさんにデザインを通して「喜びをリレー」できたらいいなと思う年の暮れ…。

それでは、みなさま、良いお年をお迎えください。

三木健

三木組奮闘記『学校』

三木組奮闘記、いろんなドラマが起き始めています。
「ゴホン、ゴホン」と咳き込みながら風邪を押して授業に参加する熱心な学生や、僕のコラムを読んで「授業に参加したい」と連絡をくれる隣のクラスの学生や教員のサポートなどをしてくれる副手の人達。また、他校の生徒や先生、そして若手のデザイナーにいたるまで多くの方々から感心を持っていただき始めた三木組。僕のWEBのコラムのコーナーにデザインを取り巻く周辺を綴りはじめて2年と4ヶ月。三木組奮闘記は、今年の春からの授業風景のコラム。思わぬ方から「三木組奮闘記、読んでます。楽しみにしています」なんて話しかけていただき、嬉しいような緊張するような…。そんな中、後期の課題『考現学百貨店』の『One Line』という作品を今年の卒業制作の冊子の表紙に使いたいという依頼がありました。聞く所によると、3回生の作品が毎年表紙を飾ることになっていて、僕のコラムを見られた教授がその作者に白羽の矢を立てたとのことです。クラスで発表した所、一斉に拍手が起りましたが、本人は嬉しさと緊張で呆然としている様子です。三木組、にわかに騒々しくなってきました。こんなカタチでいろんな方から評価を受けるのは、僕にとっても学生にとっても嬉しいことです。さぁ、三木組、気合いを入れてさらに奮闘していきます。
さて、今日は、すでに進行している後期の2つめの課題『学校』についての話です。
今年の四月から大学で教鞭をとるようになって、「学ぶとは?」「学校とは?」とよく考えるようになりました。学生達と週に一度、顔を合わすようになって、彼らが「その気」や「やる気」や「本気」になるタイミングを探しているように感じるのです。しかし、今ひとつ情熱をかけるものが見つけきれずに、何となく過ごしているようにも思えるのです。また、企業の人材確保のための青田刈りに、3回生の後期になると就活などで落ち着かず、ソワソワする学生がいたり、時に「学ぶ」という事をコンビニでモノを買うように「学びを買っている」と誤解している人がいたりと、社会構造や学校のあり方についての疑問が僕の中にたくさんわいてきました。思想家でエッセイストでフランス文学研究者で翻訳家で大学教授の内田樹さんが話している「学校や病院における学生や患者のお客さま化が広がっている」という内容に教鞭をとるようになって、すごく実感したのです。(学生諸君!内田樹さんが受験生のために書いた『学力とは何か』というブログを時間のある時にでも読んでみてください。『学ぶ力』についての気づきに気づかされますよ。)そんな訳で大学に通い始めて間もなくした頃から『学校』そのもを課題にして授業が展開できないだろうかと考え始めたのです。教わる立場と教える立場を逆転することで、「学ぶ」について「学ぶ」授業をやってみたくなったのです。下記に掲載する課題『学校』は、先日、学生に配ったプリントの一部です。

課題『学校』
学校=school(スクール)の語源は、古代ギリシャ語の 『 schole( スコレー)』から発しました。古代ギリシャや古代ローマの市民が、労働をまぬがれて自己充実を積極的に楽しもうとした『余暇(時間)』のことを 『 schole( スコレー)』といいます。当時の人たちは、音楽・芝居・スポーツを楽しむ中で感覚的なものの背後にある普遍的で客観的な原理をとらえようと多くの議論を交わしたといわれています。
さて、今回の課題は、あなたが教師となって、次の世代を育成する学校をつくるとするならば、何を語り、何を教えるでしょうか?そのためには、どんな理念を描くでしょうか?その実現のためにどんなモノやコトが必要でしょうか?教室は?教科書は?カリキュラムは?…。あなたが学ぶ立場から教える立場へとステージを移動させてください。回答を出す側から質問を出す側へとチェンジしてください。その時 「学ぶとは、どういうことなんだろう?」 と 自問自答してみてください。そして、誰に、どんな授業で、どんな気づき を気づかせるかを想像してみてください。例えば、あなたがNHKの「課外授業、ようこそ先輩」のように、出身の小学校へ出かけ、授業をするとすれば、どんな内容にするでしょうか?
小学生が「なんだろう?」と好奇心を描くこと、「なぜだろう?」と深く考えること、「そうか!」と気づきに気づくこと、「こう思う!」と自分の言葉で話すこと。そんな学校があるとすればどうでしょう。『色ってなんだろう?歌うってなんだろう?ドラえもんってなんだろう?喜びってなんだろう?美味しいってなんだろう?恋ってなんだろう?涙ってなんだろう?言葉ってなんだろう?笑うってなんだろう?眠るってなんだろう?話すってなんだろう?デザインってなんだろう?』どんな問いでもかまいません。何を問うかが、問われてきます。
教えるプロセスをダイアグラムにしてもかまいません。教科書をデザインしてもかまいません。あなたの考える学校のヴィジョンに合う教室や食堂をデザインしてもかまいません。学校の名前やロゴマークが建学の精神を色濃く表しているようであればヴィジュアルアイデンティティでもかまいません。グループ制作を基本とするプロジェクトですが、個人のプロジェクトとして参加してもかまいません。あなたの考える学校を提案してください。

これ以外にも、僕の日常の仕事を紹介しながらコンセプトの導き方や物語の組立て方を指導し、いま、学生達とは、彼らの描く学校について個別の議論をはじめています。理念をつくり出すのに苦しむ学生には、生徒手帳って何?校歌って何?ラジオ体操って何?連絡帳って何?制服って何?卒業証書って何?給食って何?黒板って何?教室って何?先生って何?学ぶって何?など、彼らの等身大の『学校』から根源を探り、疑問を持ち、発想を広げるようにと話しています。
彼らの発想のプロセス、その混沌とした頭の中をちょっと覗いていただこうと、彼らのノートの一部を撮影させてもらいました。僕の授業は、三木組の数十名の演習が基本となりますが、このコラムの読者のみなさんの目を彼らが意識することで、社会の眼差しを浴びながらデザインを考えていくことになるのです。さて、どんな『学校』を発想してくるのやら、ちょっとドキドキしますが、立場が変わることで彼らに『学ぶ力』の真の意味が理解されればと願っています。

三木組奮闘記「心理をメディアにする」

僕が大学でする授業は、『伝わる』・『気づく』・『感じる』といった3つの視点を深く掘り下げて「コミュニケーションデザインとは何だ?」と研究することです。
まず、デザインに取りかかる前に、デザインに触れる人の心理や行動に注目し、デザインを取り巻く状況をリアルに観察します。そこで気づいたいくつかの手がかりからテーマを導き出し、デザインへと繋いでいきます。そのプロセスの中から従来の枠組みにとらわれない『新しいコミュニケーションデザイン』のあり方を模索するのです。
よって、ポスターやパッケージといった媒体が先に提示されているのではなく、コミュニケーションのあり方そのものを研究する中で学生自らが媒体を設定していくのです。一言でいうと「アウトプットは、自由」ということになります。ですから、メディアに縛られるような固定観念のある人は、戸惑うかもしれません。しかし、これが本来のクリエイティブ。観察→想像→概念→創造というプロセスの中から物語をつくり、そのアウトプットとしてメディアを選択し表現を定着させる。時にメディアそのものの価値を探り、新しいメディアをつくり出すことにおよぶ時さえあるのです。彼らが近い将来、プロのデザイナーになろうが違う職業に就こうが、この考え方のプロセスを体験することで、きっと大きな気づきを生み出すと僕は考えています。
さて、後期の課題『考現学百貨店』で歩道と車道の間にある『ポール』を研究してきたKさん。待ち合わせなどで思わず『ポール』に腰掛けたり、持たれかけたりする人の心理や行為をデザインの対象にしたいと考えてきました。クラスのみんながモノやコトを対象にデザインを進める中で、目には映らない心理や行為をいかにデザインするのでしょうか。彼女曰く「百貨店の買い物や人ごみで疲れた時のホッとする空間を提案したい。疲れた時って、心に余裕がなくなって、何もかもを詰め込んで、溢れそうな状況になるでしょ。現代社会の持つストレスから解放されるには、心に隙間をつくり出すことだと思うの…。よって空間に心の隙間を生み出すスイッチ(気づき)をつくってみたらどうだろうと考えました。題して『くう間スイッチ』。穏やかな気持ちにさせてくれるモノやコトをデザインしてみようと思ったのです」。
「なるほど!」。ユニークな視点です。
そのデザインですが、『ポール』からヒントを得た直方体の椅子らしきものは、アフォーダンスを意識した『空間スイッチ』という名前。買い物に疲れた時の一休みに使用してもらうのだとか。また。会話の途切れは、ストレスを生むきっかけ、会話の弾むメディアにお菓子を選び、ちょっとした言葉を添え『会話の間スイッチ』とするのだそうだ。そして、風景の一部を切り取ったアイマスクを数種類用意して、気分を環境とシンクロさせる『一体間スイッチ』なるものを提案してきました。他に、慌ただしい環境から自分を取り戻す『無音くう間スイッチ』と名づけた耳栓や、買ったばかりの品を床に直に置きたくないといった心理に気づかった『置く間スイッチ』という敷物や、むくんだ足を靴から解放する『女性の間スイッチ』という足置きのツールなども準備しています。クラスのみんなの顔つきが真剣モードになってきました。自分達の発想の中になかった、思いもよらない提案に驚きが隠せません。ポスターやパッケージといったメディアを超えて、心理をメディアにとらえてきたのです。面白くなってきました。学生達の本気モードに火がつき始めました。デザイン領域を横断的にとらえる。そこにコミュニケーションデザインの新たな可能性を探し始めたのです。

de sign de > talk 03 場の形成

来春、開館する中之島デザインミュージアム de sign de > (デザインで)のオープン先行イベントとして行われているコミッティメンバーによるリレートーク。その3回目としてランドスケープデザイナーでコミュニティデザイナーの山崎亮さんと空間デザイナーの間宮吉彦さんの対談が行われます。僕は、2回目のトークで高知のデザイナー梅原真さんと対談。このリレートーク、橋本久仁彦さんと服部滋樹さんの1回目から評判を生み、どんどん面白くなってきています。コミッティメンバーの間では、ハードルがどんどん高くなると、ため息まじりの声が出るほどです。リレートークは、来年の春までに5回の予定があり、その全てのポスターを僕が担当します。今回のポスターで間宮さんから依頼されたのは、「ポスターの中にキーワードを入れてほしい。そのキーワードを見ながら山崎さんと話します。タイトルが『場の形成』。キーワードが『街場・広場・酒場・市場・職場・地場』の6つの『場』、あとはおまかせします」といった内容でした。
さて、山崎亮さんは、公共空間のデザインはもとより、公共空間をいかに使いこなすかといったプログラムやマネジメントに携わられているデザイナーです。少子化が進み、一人当たりの公共空間に対する面積の割合が広くなり、また、景気低迷の時代に新たな公園をつくろうとする動きが減少し、現状の公園をいかに使うかが求められています。山崎さんによると、公園を利用するゲストが、公園を上手く使いこなしていくホストとなるような、主客が逆転する仕組みづくりが公共空間のマネジメントにとって極めて重要であるといわれています。平たく言うと、僕が公園に学生達を連れて『公園を考える』という課題でフィールドワークに出かけたとします。そこで、公園の問題点について議論させます。「ゴミについて、安全について、利用規則について、豊かさについて、意義について…」などなど。その議論に積極的に参加する学生は、帰り際にこんなことをいうように思うのです。「自分たちの出したゴミは持ち帰るようにしようぜ…」と。その段階でその学生は、この公園を使用するゲストの立場からホストの立場へと変化し、『みんなの公園』を楽しく利用しようとする極めて積極的な公園利用者となります。
山崎さんは、このような立場のホストをたくさん集めるために、この公園を利用したいと考えているサークルやNPOを探し、それらの団体へのヒアリングを行い、積極的な公園利用者を募っていくシステムづくりを考える『パークマネージメント』という発想で活動するデザイナーです。つまり、コミュニティをつくり公共空間の持続可能な運営を計画していく方なのです。よって、僕が山崎さんを一言で紹介するとすれば『カタチを作らないデザイナー』と伝えます。
間宮吉彦さんは、商業施設や公共施設の設計で、人が集う仕組みを計画するデザイナーです。界隈性を意識したデザインが多くの人に支持されている方で、大阪のカフェの名店『ミュゼ オオサカ muse osaka』のデザインを手がけられ、カフェブームの発端を作った方です。間宮さんを一言で紹介するとすれば『豊かな集いのためにカタチを作るデザイナー』と伝えます。
この二人のトークショーをポスターにする。難しすぎます。悩み抜いた結果、1,030mm × 728mmのB1サイズのポスターそのものを『場』と捉え、そこに集う人々のコミュニティによって『場』が形成されていくような『風景』をデザインしようと考えたのです。白と黒の2種類のポスターは、昼と夜を表しています。昼と夜の世界にいる人たちは250人以上。誰一人として同じ人はいません。上の方にあるベンチに座るカップルに目を凝らしてみてください。昼のベンチに座るカップルは、二人の間に少しの距離があります。夜のベンチに座るカップルは、肩を寄せあっています。昼の職場には出会いがあり、夜の職場には別れがあります。昼の広場には子ども達が集い、夜の酒場には大人達が集っています。建物や木などは一切ありませんが、建築やランドスケープの原型が見えてきませんか?みんなの楽しそうな声が聞こえてきませんか?山崎亮さんと間宮吉彦さんの対談は、きっと『暮らしの豊かさ』について語られるような気がします。
「何もないが、そこに全てがある」。そんなコンセプトでこのポスターを作りました。
二人の対談を聞きに11月25日(木)de sign de > にぜひお越しください。250人以上の仲間がお待ちしています。





de sign de > talk 03 
『場の形成』
山崎亮×間宮吉彦
2010年11月25日(木)
開始19:00 – 20:30終了予定(受付18:30 会場入口にて)
参加費 :¥1,000(1ドリンク付)
定員:60名(椅子席は先着順/立見あり)予約不要
会場:中之島デザインミュージアム de sign de >
大阪市北区中之島5-3-56 中之島バンクスEAST
主催:中之島デザインミュージアム de sign de >
問い合わせ先:Tel.06 6444 4704 (大野)
http://www.designde.jp