KenMiki & Associates

三木組奮闘記『逆転カンパニー Part 2』

大阪芸術大学デザイン学科グラフィックデザインコース、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。2012年度前期、3回生の学生たちの『逆転カンパニー Part 2』。ユニークな学生たちの奮闘ぶりをご覧下さい。
路地裏探検隊
「逆転カンパニー進んでいますか?」。「はい。町の表通りと裏通りなんですが、表通りに注目が集まることが多いと思うのですが、裏通りにこそ暮らしに根付いた町の魅力があるように思います。そこで、表から見る町の景観ではなく、裏からみる町の景観を通して町の魅力を語ろうと思うのですがいかがでしょうか?」。「いいですね」。「それで、町を探検するのが大好きな犬『探犬』をキャラクターに据えて、その犬の視点から町の魅力を見つけ出そうと思います」。「どんな性格の犬なんですか?」。「性格ですか?」。「はい。キャラクターは日本語で性格。つまり、キャラクターの性格を明解にした方が見る側も楽しいし、作る側も制作しやすいんじゃないですか」。「はい」。「では、このプロジェクトの目的は?」。「…」。「では、このプロジェクト名は?」「え~っと、これからです。次回までに考えてきます」。
翌週、Y君が準備してきた内容は、プロジェクト名が『路地裏探検隊』。『探犬』のキャラクター設定は、探検が好きなちいさな犬で、鼻がとてもよく効き、楽しいことをすぐに嗅ぎつける、そして好奇心旺盛。目的は、町の魅力を再発見するワークショップを行うことで、町の活性化を計る。プレゼン当日、Y君はこんな話から語りかけます。「路地裏は発見と気づきでたくさん。町の裏側、路地裏を舞台に自分の住み慣れた町や知らない町を探検好きの犬『探犬』と一緒に、気づきと発見をみつける探検隊プロジェクト。これが僕の逆転カンパニーです」。キャラクターの『探犬』を見た女子全員が「かわい~い。この子と探検に出た~い」。にっこりするY君。鼻を真っ赤にしています。

かまぼここぼまか 
表と裏、白と黒、男と女といった、はっきりとしたモノばかりが逆転ではない。日本の食文化にあるような「甘い辛いは、分かるけど、ほんのり苦いやかすかに渋いに気づく」といった繊細な味覚の中で逆転に気づく感性もある。
何か質問をすると「わからへん!」が口癖のN君が題材にしたのは、なぜか『かまぼこ』。30種類の味の違いをそれぞれのキャラクターに見立て、味の個性をダイアグラムで表してきました。食べ比べることで口に広がる味の逆転。そんな繊細な逆転の味を個性の強いポップなデザインで仕上げてきました。ダイアグラムにみるキャラクターの性格図は、味のバランス。「ねえ、どうして『かまぼこ』なの?」。「わからへん!」。

まちある
フィールドノートを持って町に観察に出かける。Dさんの逆転カンパニーは、日常の風景にある窓のカタチや電信柱のカタチなど、そのカタチを意図して作ったものではないのに、あるカタチに見えてしまう『見立て』。子どもの頃からアルファベットの『H』に見えてしまう煙突が気にかかっていたというDさん。そんな想像力を生かしながら町に出かけてAからZまでの26文字のアルファベットを探す旅に出かけるという。偶然の幸運に出会うように町を旅する。探しても探してもみつからないアルファベット。「探していたカタチがみつかると、なんだかうれしいの。町全体を使ってアルファベット探しゲームをしているようで、いつもと同じ風景が違ってみえるの!」。そんな感想を聞かせてくれたDさんが作ってきたのは、『まちある』というタイトルのタイポグラフィ絵本。町にあるアルファベットを略して『まちある』らしい。みんなの町の『まちある』をネットで共有したら、いろんなアルファベットが集まる。地図と一緒にローカル情報を添えれば、アルファベット観光ができるかも…。

pocket pocket 
刺繍大好き、ボタン大好きのSさんの提案が始まりました。「もしも、ポケットを自由に取り付けることができれば、ポケットがリバーシブルだったら、いつも定位置のポケットが自由に付け替えられるとしたら、逆転カンパニーだと思いませんか? ボタンいっぱいの服もかわいいし、時に鞄にポケットを付け替えてもチャーミングだし、ポケットをもっと自由にするの…」。「ほう~。ポケットという名の小さなポーチなのね」。「かわいいと思いませんか」。「そうだね」。「気分で変えたり、機能でかえたり、ネーミングは『pocket pocket』」。楽しそうなデザインは、楽しもうとするデザイナーから生まれる。みなさん、デザインを楽しんでますか?

うんちのはなし 
動物園に出かけたKさん。運悪く、後ろ姿の動物にばかり出会う結果になり、非常に残念な思いをしたことがあるそうです。そんな状況を逆手に取って、後ろ向きの動物に出会っても楽しくなるような楽しい動物園のあり方を提案したいと意気込んで、後ろ向きの動物を粘土でたくさん制作していたのですが…。「あの、アイデア変更してもいいですか」。「ええ、どうして?」。「なんか上手くアイデアが定着しなくなったんです」。「いけると思うけどな~」。「それで、今度は、子どもたちの健康を親子で考える「うんち」をテーマに進めようかと思います。今まで作ってきた動物の後ろ向きキャラクターはそのままにして、子どもたちと「うんち」の話をする時のインターフェイスに使用しようかと思うのですが…」。「いいけど、急激な変更ですね。いまから間に合う?」。「なんとかやってみます」。プレゼン終了後、「いかがでしたでしょうか」と不安気。「うん、後半に急遽なアイデア変更をしたことが痛かったですね。内容の詰めなどに時間が取られ、グラフィック的には文字を流し込んだだけのエディトリアルになってしまった感がある」。「そうですよね。次の課題で頑張ります」。自分の仕事を俯瞰して眺める姿勢、これこそが伸びる人。がんばれ、Kさん。
と、いうわけで三木組奮闘記『逆転カンパニー 』、まだまだユニークな学生たちがいるのですが、一旦これで終了。「難しい!」「わからない!」と戸惑いをみせていた三木組のみなさん、考え方や作り方からデザインを始めなきゃ、新しい価値はなかなか見つけ出せないですよ。源を見つめる。物事の本質に触れる。社会の課題を探す。つまり、与えられるものから、見つけ出すことへと意識を変えないといけませんね。『逆転カンパニー』は、気づきのデザイン。造形も大事だけど、造形ばっかりを追いかけているとカタチが消えてしまった時に手も足も出せないよ。見えない所にもデザインはいっぱいあるんだから…。