KenMiki & Associates

de sign de >

水都大阪の堂島大橋から玉江橋までの全長400mの親水空間『中之島BANKS(バンクス)』に、2011年春、デザインミュージアムが開館します。
服部滋樹さん間宮吉彦さんムラタ・チアキさん柳原照弘さんといったデザイナーの方々と松原眞由美さん、大野裕子さんといったキュレーターの方々と一緒にコミッティメンバーを務めさせていただくことになりました。そして、そのデザインミュージアムのネーミングとロゴマークを僕が担当させていただくことになったのです。
このミュージアム、ちょっと変わった名称で「de sign de > ( デザインで)」といいます。de sign de > は「デザイン=design」に日本語の格助詞「で=de」を組み合わせた造語で「デザインで、はじまる」や「デザインで、つながる」といった、デザインで起る事象や行為を想起させるような新しい言葉です。de sign de > には、行動や運動を指し示す強い意志が込められています。また、de sign de に加えられた記号「 > 」は、「次へ…」を表すもので、デザインで、人や暮らしに「喜びをリレー」していく指針を示しています。
よって、「人を、暮らしを、街を、デザインでときめかす」de sign de > の理念を素直に「言葉」で伝えるデザインに置き換えれないものかと考えました。また、参加する多くの方の考えを柔軟に受け止めれるプラットフォームのようなデザインができないものかとも考えました。
結果、de sign de > とすることで、どなたの思いもこの「デザインで…」の言葉の後につなげることができると思ったのです。つまり、「理念の声」を可視化しようと考えたのです。ちょっと、ユニークな発想だと思いませんか? 象徴としてのシンボルマークの概念とは違う、参加する人の思いを柔軟に受け入れるロゴマークなんです。僕は、これを「プラットフォーム ロゴマーク」という概念で呼んでみようかと思ったりしています。
さて、de sign de > の活動は、次の4つ。
1 : 都市の魅力をデザインで掘り起こし、ローカルブランディングについてさまざまな提案をすること。2 : クリエイティブな人材をデザインで育て、つくる人、依頼する人、選ぶ人の美意識を目覚めさせること。3 : 語れるモノづくりをデザインで可視化し、社会にその価値を環流させること。4 : 気づきをデザインで提示する展覧会やセミナーを開催すること。
また、その活動を厳しく見守る de sign de > のコミッティを結成し、理念を遂行する原動力となること。そして、de sign de > の活動を世界に問うこと。de sign de > が目指すのは「喜びをデザインでリレーする」ことです。そして、そのバトンを受け取ったあなたが、次の誰かにその喜びを伝えたくなるような活動を進めることです。デザインで、はじまる。 デザインで、つどう。 デザインで、ときめく。そんな、de sign de > になればいいなと思うコミッティメンバーが集まって「デザインで 」どんなことができるだろうか。「デザインで 」こんなことがしてみたい。と、いったパネルディスカッションをすることになりました。あわせて、中之島BANKS前に開港する船着場のセレモニーが大阪府により行われるそうで、小河大阪府副知事も来られるとのことです。
「なんか、デザインで楽しいことしたいな」と思われているみなさん。一緒にデザインについて語りませんか。「デザインの小さな苗木をていねいに植えていって、気づいたら水都大阪に『デザインの森』が出来ているような、そんなミュージアムになったら素敵だろうな」。なんて、僕は考えています。あなたの考える「デザインで…」をお聞かせください。みんなと一緒に作る de sign de > のディスカッションにご参加ください。お待ちしています。

日時:2010年8月6日(金)17:00より
会場:中之島BANKS (大阪市北区中之島5-3-36 中之島BANKS EAST棟及び船着場 )
17:00-17:20
小河大阪府副知事と de sign de> ミュージアムメンバーによる水都アピール(船着場)
17:30-18:00
中之島デザインミュージアム de sign de> 設立構想 記者発表(中之島バンクス・EAST 棟)
18:00-19:00
de sign de> コミッティメンバーによる記念トークイベント(中之島バンクス・EAST 棟)
19:00~ 21:00
レセプションパーティ(中之島バンクス・EAST 棟)
[夕刻-21:00にかけて、船着場で1日限りのビアテラスが登場します。(有料)]

de sign de> コミッティメンバーによる記念トークイベント
パネリスト:服部滋樹(クリエイティブディレクター・デザイナー)・三木健(グラフィックデザイナー)・ムラタ・チアキ(プロダクトデザイナー)・柳原照弘(プロダクト・空間デザイナー)・モデレーター:間宮吉彦(空間デザイナー)
※ お席の数に限りがございますので、予約優先とさせていただきます。
お申込は、下記のお問い合わせへ。
お問合せ先:(株)バンクス中之島デザインミュージアム de sign de >
事務局(担当:大野裕子) Tel:06-6245-4330 Fax:06-6245-4332(有)イン内

三木組奮闘記 前期「卒業式」

前回の三木組奮闘記を読まれた他校の大学の先生方から学生達の課題に対する取り組み方とその完成度に「すごい!」と感心のご連絡をいただきました。学生諸君、「自信を持ってください。芸大に入って2年と数ヶ月。プロのデザイナー達からもみなさんの活動に感心の声が寄せられています」。いわゆるポスターやパッケージといった媒体が設定されている訳でもなく、ブランディングやサイン計画といったフレームがあるわけでもない。課題に対して、とことん考えて、考え尽くしたと思っても、さらに考えてコンセプトを見つけ出す。観察と想像を繰り返し、コミュニケーションを起点に新しい価値を創造する。手法や媒体計画もコンセプトに合わせ全て自由。考え方を考えて、つくり方をつくる。既成のフレームに束縛されない。気づきに気づけば勝手に発想がジャンプする。そんなことを言い続けてきた15週。
学生達は本当に身を粉にして努力してきたと思います。最初のうちは、既成のフレームを取り外されて戸惑ったことだと思います。いや、いまでも戸惑っているかもしれません。ただ、15週前よりも僕の目には、確実に考え方に対するスタンスが変わってきたように思えます。「いいえ、変わっていません」なんて人もいるかもしれませんが、時間が経つとじんわりと創造のボディブローが効いてくるはず。クリエイティブの楽しさは、テーマをしっかり見つめ、相手の喜ぶ顔を想像して発想がジャンプをした時に発見する「気づき」から始まるのです。そして、その気づきに共感した相手がさらに次の方へと、その「気づき」が多くの方に伝わり、その発想が支持された時の嬉しさがたまらないのです。
さて、学生達の最終プレゼンテーション。前回のOさんグループに一歩も引けを取らない企画が目白押し。そのいくつかをご紹介します。

まずは、八尾にある「山本団地」の再生プロジェクトを通じて「人と人のつながり」を考えるグループ Kさん、Gさん、Dさんの登場です。「観光」というテーマの最も重要な「地域資源」を輝かせるために「持続可能な社会の運用」といった視点から人を輝かせ、人が集うコミュニティーをつくる発想です。団地を「談知 」と読み替えることでコミュニケーションと知恵が集う「人to人 MUSEUM」を展開するというのです。つまり現存する団地を再生させながら、コミュニケーション環境をより快適で親密な状況へとつくり出そうとしているのです。「観光」を広義に捉えたなかなか奥行きのある発想です。昨今、地域主権や地域経営といった「権限」や「経済」の重要性を叫ぶ地方自治体を多く見受けますが、それらを動かす人と人の関係性をもう一度深く築く「地域交流」とでもいうか「つながり」に注目してきたのです。なかなか深い所に根ざしています。ここにご紹介するツールは、団地再生に対してのコンセプトから具現策までを可視化させようとしています。全てのツールが団地型のBOXに納められ、このプロジェクトの考えを自由に運ぶことのできるインフォメーション・アーキテクチャーへと仕立ているのです。
「すごいでしょ!」。
B倍のポスターをご覧ください。全てのツールを芝に広げて楽しそうなポーズを取る3人の女性。彼女達がこの企画の発案者です。なんだかワクワクするようなプロジェクトがいまにも始まりそうだと思いませんか。考え方、楽しさ、表現力、申し分ありません。いやはや、すごい力の入りようです。その力が苦しそうじゃないんです。このプロジェクトに取りかかった当初の彼女たちの必死な顔つきが、どこ吹く風といった生き生きした作品になっています。
「必死」から「必生」へ。このプロジェクトに参加することで「トキメキ」に出会えそう、そんな生きる力をもらえそうな仕上りです。ちなみに「必生」なんて言葉ありません。僕の造語ですが「必死」の「死」が感じられる悲愴なデザインは、それを受け取る方がつらいのです。よってその苦しさをみじんも見せないことが大切なの…。でも頑張りすぎると、どこかに「死」が漂うの。彼女達の仕事には、それが全くない。
すごいなー、君たち。ほんと、すごい。感動超えて、恐怖になってきました。いつの日か、彼女達とプレゼン競合するかもしれないなんて想像すると「ぞーっ」としちゃいます。


続いて、「観光」のメッカ清水寺の参道に和菓子屋をつくるという、「観光」ど真ん中のアイデアで戦いを挑んできたグループです。清水寺を抱く「音羽山」、「音羽の滝」といった名前をよりどころに「音」を全面に押し出したコンセプトを作り上げてきました。『「五感」を全て使って「音」を感じること、そこに京の「四季」を重ねる』という、独自の理念を打ち出してきました。ネーミングは、「音々庵(ねねあん)」。その音の響きと「清水(きよみず)」の音のリズムが同じであることを発見したYさん。「音々庵」の発音の跳ねる音のカタチをイメージしてシンボルマーク作ってきました。ネーミングは理念の声。デザインは理念の顔。と口を酸っぱくして伝えてきましたが見事に具現化してきました。
さて、普通ならここでアプリケーションに展開して終わるところ。彼女達がすごいのは、清水寺のポイントとなるエリアをヒントに食感を意識した和菓子を開発するというのです。例えば、仁王門は「ふんわり、ずっしり」のイメージ。よって、中モッチリ、外しっとりの二つの食感の薄皮まんじゅうを提案してきました。あんこは、なめらかだけどずっしりとした重量感で仁王門のイメージだとか。清水本堂は「ぱきっ、ざくざく」。「ぱきっ」と響く歯ごたえのある食感は、清水本堂の床板を踏みしめた時に感じる音のイメージ。堅焼き煎餅で、その「ぱきっ」と感を表現して、中はホワイトチョコレートのソフトな食感を挟むとか。音羽の滝は「ぷるぷる、ぱちぱち」。さっぱりした清涼感のひんやりゼリーを設計。「ぱちぱち」は口で弾けるソーダの粒で不思議な食感だとか。すごいことになってきました。清水寺の5つのエリアのイメージを音から発想して商品へとつないでいます。授業中に「ブランディングを人に比喩するならば、心づくり(Mind Identity)・顔づくり(Visual Identity)・体づくり(Behavior Identity)の3つがあって、どれがかけてもブランディングにならない。とりわけデザイナーは、顔づくりに注力するが、しっかりとした心づくりと体づくりがないとだめ。ここでは、明解なコンセプトの商品開発が命」と話しましたが、ここまで音で貫いてくるとは、すごすぎる。なんという吸収力とジャンプ力なんだろう。プロのデザイナーぼやぼやしてる場合じゃありませんぞ。


「女子に負けてばかりはいられない」と、啖呵を切ったK君とI君。JR大阪環状線の各駅の魅力を再発見して観光につなげると意気込んできました。女子軍団が最前線に椅子を並べて彼らのプレゼンテーションを見守ります。いつになく緊張している様子です。おっと、シャツを脱ぎ捨てピンクとイエローのお揃いのTシャツ姿になってプレゼンが始まりました。
「大阪るーぱす」プロジェクト。夏休みのこども向けキャンペーンで大阪環状線の魅力を子ども達に伝えるとのこと。環状線19駅に降り立って取材敢行。それぞれの街の魅力をI君のイラストで綴る楽しい企画です。彼らのお揃いのTシャツは、新今宮駅限定のオリジナルTシャツだとか。自分たちでシルク印刷をして気合い十分。19の駅、それぞれにオリジナルキャラクターを提案してきました。各駅に用意されたキャラクター入りピースを全て集めると、記念の写真入れになるというプレミアムグッズが子ども達の収集癖に火をつけそう。徐々にいつもの調子が出てきました。「大阪のおばちゃん」をテーマに「観光」の課題を作ろうとしていた彼らが悩んだあげく数週前に突如方針変更。「大阪環状線」で仕切り直すとのこと。「おいおい。間に合うのか?」と僕の心配をよそに、よくぞここまで仕上げてきました。「やる時はやるんだ」とでもいいそうな自慢げな顔にクラスメートの女子から拍手がわき上がりました。君たちの力は、こんなもんじゃない。もっとやれるはず。環状線だけにこの課題は、延々に終わらない。


続く男子チーム、女子のするどい眼差しに少し緊張の色が隠せません。先週まで悩みに悩み、コンセプトが決まらないまま見切り発車をしては僕にブレーキをかけられ、七転八倒していたグループ Y君、M君、I君、U君の登場です。僕の授業に真面目に参加して強い志を抱くも意気込みが優先し過ぎてコンセプトがなかなか定着しません。あまりに心配で、僕の方から2回ほど進捗状況を聞くメールを送るも、途中経過がいまいち見えてきません。論理建てて考えることになれておらず、時間経過に慌てヴィジュアルを急ぐものだから膨大な試作をボツにしてきました。彼らほどコンセプトの重要性について話したグループはいません。苦しみ抜いたことと思います。プレゼン最終日まで、僕にもどんなアウトプットが出てくるのかわかりません。「頑張れ〜」と、心で叫びながら彼らのプレゼンを観ます。奈良と書をコンセプトに鹿の絵を老若男女に描いてもらうワークショップを開催するとのことで奈良観光に集客性を与えると同時に奈良ブランディングのきっかけを作ろうとしているようです。奈良と書と鹿。わかりやすいアイコンです。「わかりやすさの設計」「地域らしさの設計」「活気や活力を与える設計」を意識した地域ブランディングの入り口を指し示すかのようなワークショップです。「モノだけではなくコトをデザインする」。これも授業で口が酸っぱくなるほど伝えたことです。墨と筆の貸し出しの仕組み。参加者に描いてもらった絵を使ってモニュメントを作る発想。プリミティブな鹿の表現による告知ツールの計画など、なんとか、ここまで仕上げてきました。鹿の絵を繰り返したり、思い切ったトリミングで告知ツールに物語性を与えようともしています。センスの良さで上手く展開してきましたが、みんなの力はこんなものではありません。というか、ここからが考え方の始まりなのです。必死のその先にある達成感。達成感のその先に漲る自信と余裕。そこに達するまでにもう一歩というところ。「鹿」づくしの告知ツール。どこかに「馬」一匹ぐらい、こっそり仕掛ける余裕が欲しいな。とことん考えた後は、緊張を緩和する「馬鹿」な発想。ユーモアは、コミュニケーションをとどける「魔法の薬」。サヴィニャックが残した偉大な言葉。そこには、自信と余裕が必要なんです。君たちの真剣な眼差しの中に「馬」と「鹿」を受け止める余裕。これが人生。これぞ、デザインの極意。


三木組の最終プレゼンターの登場です。学校で見かけたのに教室にいない。みんなのプレゼンが終わろうとしているのに、駆け込みプレゼンです。ぎりぎり「セーフ」。3人のYさんとMさんの4人組。大和郡山という地方都市にスパリゾートを計画。その集客で観光を促そうと考えてきました。彼女達もコンセプトのつまづきで苦悩したグループです。始めは、その辺に転がっている「◯◯の湯」を模倣したようなアイデアだったのですが、「カタチから入るのではなくコンセプトをしっかり組み立てる」そのために「スパを体験した時のリゾート感とは?」といった質問からのスタートです。「心と体の関係について」「自分が最もピュアな状態になるとは?」などなど議論の仕方を彼女達に伝えます。彼女達の顔が苦悩に満ちていきます。考え方の入り口を指し示したつもりですが、コンセプトの見えない不安にどこから手をつけてよいのかわからないようです。それでも繰り返しミーティングを重ねると、アイデアがぽつぽつと出始めてきます。そのアイデアをみんなで共有しながら温めていきます。彼女達曰く「うるる」な気分が味わえる施設にしたい。スパでココロもカラダも「潤う」。よって「URURU=うるる」がネーミング。名前が決まった瞬間「感じるとは?」と自問自答する人が現れます。そこから一気に「食は?、音は?、香りは?、観るは?、触れるは?」と「五感」をテーマにしたアイデアがどんどん湧き出てきます。こうなってきたらとまりません。彼女達は、自宅に帰ってからもスカイプを使って議論を重ね、机一杯、いや、溢れ出すほどのグッズをデザインしてきました。気づきに気づく。すごいパワーです。4月から始まった三木組。彼らのエネルギーは、火がつくと押さえきれないぐらいの勢いになっていきます。


おっと、授業終了後「やり直してきてたんですけど、みんなのパワーに圧倒されてプレゼン出せませんでした」と、恥ずかしそうに僕の所に作品を持ってきたNさんとTさん。二人の出身地、青森県のお米と和歌山県の紀州の梅を前面に押し出した「おむすび屋さん」のヴィジュアル・アイデンティティで食文化を通じて2つの県の魅力を発信して観光に結びつけたいとのこと。土から考える。水から考えるで、スローフードの思想で展開するらしい。恥ずかしがることは、まったくありません。ボリュームよりも質が重要。米と梅のロゴマークの完成度がとてもいいです。クラス全員を呼び戻して、再度プレゼン。「かわいい」。「おいしそう」。クラスのみんなから正直な声が上がります。NさんとTさんの興奮した顔が「プレゼンしてよかった」と、いっているようです。これで、本日の授業終了。
机の上にみんなの作品を並べ「プチ展覧会」。教室内の机に収まりきりません。1グループ5台ぐらいの机にぎゅっと凝縮して並べていくと、コンセプトのエキスが際立ちそれぞれの個性が明解になってきます。みんなが一斉に写真を撮り始めました。刺激が刺激を呼んで「もっと、がんばるぞー」がこだましています。ここで紹介できなかった作品もすごいつわものぞろい。いやはや、えらいことになってきました。みんなと別れるの「寂しいよ〜」。
やる気、その気、本気。学生諸君「がんばったね!」。そして「ありがとう!」。
三木組奮闘記、前期卒業。みんな「おめでとう!」。

三木組奮闘記「感服・感動・感激」

僕の授業は、選択科目。今週の7月24日が前期の最終授業。夏休みの後は、いまのクラスが、ごろっと入れ替わり、新しい学生達と後期の授業がはじまる。三木組、前期の学生達(三回生)とは、ひとまずお別れ。「寂しいな…」。よって、先々週から始まった課題『観光』のプレゼンテーションが三木組の卒業制作となります。
今回の課題は、グループによる制作。個人制作の課題よりも質・量ともにハードルを高く設定。心配なのは、グループ制作ゆえに個人の力量が平均化されてしまわないかと懸念するところです。締め切り日を最終授業の2週前に設定したのも、プレゼン内容によっては修正を繰り返すケースがあると睨んだからです。だって、三木組の卒業制作ですから…。学生たちにやりきった仕事の後に残る、誇りと自信を知ってもらうため、最大限の「本気」でデザインに取り組んでもらいたいのです。この「本気」が「やる気」や「その気」を生み出し、すごいパワーとなるのです。前回の課題『地図』で「本気」になったことで、自分も気づいていなかった「自分」を発見した人は、「もう一丁やるか」と腕まくりをしているし、本気になりきれず悔しい思いをした人たちの「今度こそは」の闘志が教室内に漂ってきました。
しかし、先々週のプレゼンでは、ほとんどのグループが「やり直し」。もしくは、自主的に「やり直す」と宣言。前回の課題の『地図』の作品でクラス全体に衝撃を与えたOさんが、今度はグループ制作でどんな提案をしてくるのか、みんな興味津々です。
さぁ、Oさんグループの『観光』のプレゼンテーションが始まりました。コンセプトは、「縁結び」。縁結びを男女の縁の成就だけにせず、心と心を結ぶ、人と人の「結び」と捉え、大阪にある3つの縁結びの神社や寺を結ぶ「大結(おおむすび)」と題した「大阪縁結祭」というイベントを企画してきました。イベントの全体を象徴する「大結」のロゴマークと実際にイベントを展開する高津宮(こうずぐう)・勝鬘院(しょうまんいん)・生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)のロゴタイプが、漢字のルーツや神社や寺のいわれを紐解きながらていねいにデザインされています。イベントの計画をデザイン化するだけでも大変なのに、それぞれの神社や寺のタイポグラフィのリ・デザインまでされているのです。コンセプトの組み立て方にブレがありません。ローカリティについて、アイデンティティについて、ポテンシャルについて、全てをクリアーしています。徹底してリサーチした様子がプレゼンシートから滲み出ています。
あえて、注文をつけるならば各神社のタイポグラフィの精度をもう少し上げると、さらにレベルが上がりそう。しかし、これだけの企画力とデザイン力。モノやコトをしっかり見つめる目を持っているので僕の美意識を重ねる必要なし。本物をどれだけ見るかで目が鍛えられるはず。それぞれのデザインに添えられた文章も過不足なく、しっかりと考え方が伝わってきます。アプリケーションもイベントのパンフレットから各神社のお守りや絵馬まで徹底してつくり込まれています。なんと、お弁当の「おむすび」までが準備されていて、すべてが「結び」のコンセプトで貫かれているのです。プレゼンを聞く学生達は、唖然として彼女達の作品に釘付けになっています。「ローカリティを掘り下げて、文化を見つめること」。「デザインリテラシーを身につけ、物語性のあるデザインをつくること」。「伝わる・気づく・感じるの3つの視点で、新しいコミュニケーションのあり方を提案すること」。口を酸っぱくして伝えてきた僕の授業のポイントをしっかりと定着させてきています。製作期間は、約7週。その大半がコンセプトやリサーチに費やされ、後半の2週間でデザインに仕上げてきています。
たいしたものです。彼女達の本気度、すごいと思いませんか。いや、すごいどころではありません。僕の身体が「ジーン」と熱くなってきました。留学生のKさん「プロですね!」と一言。前回の課題『地図』の提案以降、闘志を内に秘めて今回の課題『観光』に力を注いでいるYさん。「5人のチームなので、力がもっと分散されてしまうのではと思っていたが、すごい」。「うぅ〜」。授業終了後、Oさんのグループの一人に「どうだった?」と尋ねてみると、「しんどかった。すごかった。勉強になった」と、疲れた顔の奥に満足気な表情が現れています。感服・感動・感激。すごいチームの登場です。いやはや、えらいことになってきました。三木組。その気、やる気の気配が教室内にみなぎっています。留学生のKさんも、闘志を燃やすYさんも、一歩も引き下がらない覚悟が出来たのか、目が輝いています。次回の三木組奮闘記。どえらいことになりそうな予感。目が離せなくなってきました。


第4回エコ・プロダクツデザインコンペの審査員をお引き受けした際に告知ツールのデザインを依頼されました。まず、資源や経済の観点から紙媒体の有無などを検討しましたが、デザインコンペを知らせる情報の入り口としてポスターやチラシが必要であろうと判断。できる限り環境や経済に負担を与えないデザインを目指します。しかし、いざデザインを進めていくと行き詰まってしまいます。悩んだあげく、明解に趣旨を伝えるために必要な情報をタイポグラフィでデザインすることに。徹底した引き算で、スミ1色。インク使用量に配慮して色ベタは使わない。色校正もとらない。文字校正は青焼きのみといった方針をたてます。コンセプトは、以前に読んだ松岡正剛さんの「フラジャイル」から刺激を受けて「弱さからの出発」です。ある種、覚悟を決めた瞬間、僕の脳裏に「ポン」っと浮かんだのは「小さな声を聞き逃さない耳。産毛すら見える目」といった、極めて繊細な感覚が研ぎすまされていくようなイメージが広がってきたのです。A4サイズでわずか0.2ポイントといったトンボ(印刷時の仕上がりサイズに断裁するための位置や多色刷りの見当合わせのため、版下の天地・左右の中央と四隅などに付ける目印)よりもさらに細いラインの集合でデザインを進めます。弱さが共鳴して響く「強さ」をイメージしたデザインです。交差する細いラインに抜かれたECO PRODUCTS DESIGN COMPETITION 2010 の文字、ディスプレイ上のどの白よりも白く見えませんか? 印刷物を見ればもっと鮮明に白が浮かび上がってきます。まるで白が発光しているようにすら感じませんか? 実は、細いラインが共振し合って人の目に錯視が働いているのです。だから白い部分は、線の間も、外側の白も、文字の白も、みんな同じ白。
ポスターやチラシの入稿時に原寸サンプルのデザインを見た印刷会社の方が「グレーの特色いただけますか?」と。「えぇ、どのグレーですか?」。「このあたりの」。「このデザイン、スミ1色なんですけど」。「えぇ! そっ、そうなんですか?」。「やったー」。印刷の専門家が勘違いするぐらい文字が白く映り、他の白がグレーに見えているようです。同じ白を見ているのにの違う白に映る。弱く壊れそうな線の中から浮かび上がる光のような白。観点を変える。気づきに気づく。最小の表現で最大の効果を。僕の考えるエコロジーに対する一つの回答です。

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