KenMiki & Associates

三木組奮闘記『駅 Part 2』

課題『駅』、後半のプレゼンテーションが始まりました。「卒業制作を超える」の合い言葉が伝統になりつつある三木組、教室はすごい熱気に包まれています。みんなの緊張が僕にも伝わってきます。それでは『駅 Part 2』のはじまり、はじまり。


光景色駅(こうけいしきえき)
ある日の午後、「三木せんせ~い!」と、廊下で大声で叫ぶUさん。僕がトイレで用を足していたら、何度も何度も聞こえてくる叫び声。「おいおい、トイレぐらいゆっくり行かせてくれよ」。「あっ、いた!すみません」。「どうしました?」。「課題の考え方なんですが、JR阪和線の車窓から見える風景がとても綺麗なんです。京都や奈良とは違う、日常の暮らしと相まった自然の風景なんです」。「ええ」。「それを『光景色駅』という名で呼んで、車窓からの風景を通して、それぞれの駅の魅力を伝えていくキャンペーンにしたいのですが…」。「いいんじゃないですか」。「良かった!三木組のプレゼン、最高に緊張するんです。今日もドキドキしてたんです」。「大丈夫だよ。ところでこの沿線、Uさんの言うように京都のような雅さはないけれど、日本の暮らしの原風景とでも言うか『日々是好日』という言葉が似合う町が続きますよね」。「そうなんです。素朴で落ち着く町並みに思えます」。「普段の素敵な町には、一日一日を丁寧に暮らす人々の営みがあります。そんな視点で町を見つめると、きっと、風景の中から暮らしの声が聞こえてきますよ!」。「はい」。プレゼン当日、緊張がピークのUさん、こんな詩的なコンセプトからスタートします。

駅と駅の間の車窓から広がる美しい景色。
そしてそのとき、その場所で起っている出来事、光景。
春に咲く桜の木々。
初夏に咲く紫陽花の花、蛍の光。
秋になれば真っ赤なもみじ。
朝の清々しい匂いとジョギングする人の呼吸のリズム。
昼の子ども達のはしゃぎ声と風の音。
夕方になれば水面にオレンジの太陽の光が広がります。
車窓から広がる世界は刻一刻と表情を変えあなたを楽しませます。
景色と光景。ふたつが合わさったあなただけの素敵な駅を見つけに来て下さい。
和歌山にはあなたの気に入る駅があるはず。


万葉まほろば線
Kさんのプレゼンテーションが始まりました。「JR西日本の奈良駅から高田駅までを結ぶ路線、桜井線の愛称を『万葉まほろば線』といいます。名前の謂れは、万葉集に多く詠まれた名所や旧跡が沿線に点在していることと、『まほろば』が奈良を想起させるという理由からだそうです。その路線のほとんどが利用者が少ない無人駅なんです。その無人駅の魅力をもっと多くの方に伝えたいと思い、それぞれの駅と万葉集の関わりを深く掘り下げてみました」。「すご~い。社会の先生みたい」。「私が選んだ無人駅は、1.京終(きょうばて)2.帯解(おびとけ)3.櫟本(いちのもと)4.長柄(ながら)5.柳本(やなぎもと)6.巻向(まきむく)7.三輪(みわ)8.香久山(かぐやま)9.畝傍(うねび)10.金橋(かなはし)の10駅です。タイポグラフィを意識したエディトリアルで文化や歴史を可視化させてみました」。プレゼンが終了してホッとしたKさん。「いかがだったでしょうか?」。「前回の、逆転カンパニーの教訓が生かされていて良かったと思いますよ」。「ありがとうございます。黒板に書いていただいたエディトリアルデザインの考え方やお見せいただいた資料の数々にハッとさせられました」。「今回のデザイン、漢字に注目したのが良かったですね。漢字は象形文字。意味をカタチにした文字だから、コミュニケーションが真っすぐ届く絵なんだよね。レイアウトもタテ組ヨコ組を柔軟に組み合わせ、意味に沿ってメリハリも付けられていて、内容をしっかり熟知した事がうかがえます。研究の成果が現れていますよ」。「嬉しいです」。


paletode
『駅』というテーマから、駅→旅→変化→色→メイクと5段活用で化粧品のブランディングを提案してきたT君。まずは、こんなコンセプトから語り始めていきます。

一番素敵な 今日の自分へ

「人生は旅である」という有名な言葉がある
人生とは今日が繋がって出来ている
この旅は何処へ向かっているのだろうか
毎日変わる今日を繋げてみると、そんな事を思ってしまう
人は毎日変わる
変わって当たり前なのだ
その日の天気やスケジュール、一緒にいる人や
昨日観た映画にも影響を受け、変わる事だろう
そう毎日、違う自分なのだ

時に、人は色に例えられる
あの人は赤だろうか、いや青かもしれない
自分は何色だろうか
毎日違う自分なのだから、色もまた毎日違う
そして今までの旅路で育った最新の感性で選び出される
今日の色が一番素敵である
そう信じる事はなんて素晴らしい事だろうか
自分に 気持ちに 素直に送る素敵な色の今日が繋がって
きっと素敵な旅になる

paletode~palette to today~は
そんな素敵な今日の色へ向う旅の駅
一番素敵な今日のために

詩人になったのかと思うほどポエティックなT君にみんなキョトンとしています。その後、オリジナルのタイプフェイス、ファッショナブルなヴィジュアル、ストイックなパッケージへと繰り広げられる展開。三木組のみんな、今度は唖然としています。前回に続き、すごいボリュームのプレゼンです。授業が終わって「いかがでしたでしょうか?」。「すばらしかったよ。ただ、テーマと化粧品との関係性が希薄に感じました。コンセプトを強引に組み立て、自分のやりたい表現に持ち込もうとし過ぎていたかもしれないな」。「ええ」。「T君は、無意識かもしれないが作品化しようとするあまり、コミュニケーションを置き去りにしているところがあるかも…」。「コミュニケーションって、何なんでしょうか?」。「いい質問ですね。『かっこいい』の捉え方が単なる色やカタチだけではなく、明解な理念に裏打ちされて商品が作られているかどうかをみんなが見てるわけ。本当に『かっこいい』のと、『かっこうがいい』のとはずいぶん違って『かっこいい』は、多くの人に共感されることです。コミュニケーションが通じ合うデザインは、お客様との間に絆が芽生えていきます。それが買いたいという気持ちになっていくわけです」。「あの…。プレゼン前に妹にこのデザインを見せたのですが、『かっこいいと思うけど、私は買わない』って言われてしまいました」。『気づきに気づく』。三木組、三回生、前期の授業は、これでおしまい。三木組のみなさ~ん、お疲れさまでした。