KenMiki & Associates

コト・バ

『JAGDAと地元デザイナーによる地域中小企業活性化プロジェクト』という長〜い名前の難しそうなプロジェクトに参加するため22日と23日の連休を福岡で過ごしました。このプロジェクトは、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)の教育委員会と福岡県が一緒になって、中小企業の活性化とデザイナーのクオリティアップを計ろうとするものです。平たく言うと、地元企業の悩みを地元のデザイナーとJAGDA教育委員会のメンバーが一緒になって解決方法を探り、そこから導かれたデザインにより成果を上げ、福岡の企業とデザイナーの絆を深めてもらおうとするものです。いわば、「デザインの地産地消」とでもいうか、地域に密着したデザイン活動に経験豊かなJAGDA教育委員会メンバーが、一役買おうという活動です。その活動の一部始終が記録され、完成後そのプロセスが一冊の本としてまとめられます。もちろん内容によっては、最終の完成を見ずして終了するものだってあるかもしれません。真剣勝負の福岡版「プロジェクトX」といったところでしょうか。
僕の「三木組」は、福岡のデザイナー武永茂久さん、石田文明さん、前崎成一さんと、コピーライター長畑一志さんの全員で5人です。クライアント訪問前日に自己紹介もそこそこに、いきなりの濃い打ち合わせ。僕のリードで企業分析をしながらのブランディングの道程の整理。そして、仮説を立てての戦略会議へと。3時間近い会議の密度の濃いこと。頭がフラフラになりながらも僕はその場に居残り、教育委員会のメンバーと2時間近い会議が続きます。日曜日というのに…。そして、全員が合流して食事をしながらも話の流れは今回のプロジェクトへと広がっていきます。2次会、3次会と進み終了は午前2時を軽く回っています。翌日のクライアントとの本番でも5時間以上の長丁場。僕は、その間ずっと話し続けながら企業の悩みや問題点を洗い出し、プロジェクト全体の骨格を組み立てていかねばなりません。と、いうかこの初めてのディスカッションが極めて大事で、企業との信頼感や進むべき指針を立てておかないと、次のステップに進めません。取材、問題点の整理、コンセプトを見つけ出すためのキーワードの創出などなど、話し合うことでデザインの骨格を組み立てていきます。まず、商品というモノを取り巻く「事(コト)」を浮き彫りにしていきます。そして、その企業の魅力やポテンシャルを生かしたその企業でしか出来ない立ち位置、「場(バ)」を見つけ出します。
「事・場」→「コト・バ」→「言葉」。
そして、整理した情報を「話すようにデザイン」をして、クライアントや参加クリエイターに今後向かわねばならない方向を可視化させていくのです。可視化。コミュニケーションの設計図からデザインを進めていない段階で共通言語として「見える化」を計っていきます。その可視化がまだおぼろげな状態ですが、一回目のクライアントとの打ち合わせは日没終了。
その後、「三木組」メンバーは食事をしながら、さらに打ち合わせ。飲みながらへろへろになって打ち合わせたメモが下に掲載した写真。Brandingのスペルを誤っていたり、誤字脱字いっぱいのメモで無茶苦茶ですが、僕たちの凄まじい戦いの痕跡です。今回の案件、核心に触れれば触れるほど「コト・バ」に行きついていきます。それにしても、勤労感謝の日にこんなに働いてどうするの?「働いてたかばってん、ほんと時間がなか」と言って、また家族に謝らなければなりません。空港でゲットした明太子で許してもらえるだろうか?本当「フゥー」です。

借風、借水、すべて地球に借りています。

風や水の力で動く立体造形作品で活躍する新宮晋さんと久しぶりにお会いしました。フランスでの個展が終了して一時帰国されたとのことで、12月に渡仏する合間をぬって僕の事務所を訪ねてくれました。新宮さんの屋外作品は、建築家のレンゾピアノさんや安藤忠雄さんの建築などでも見受けることができ、世界中の美術館や公園に設置されています。室内作品で僕の好きなのは、三宅一生さんのパリコレで会場を埋め尽くした立体造形がモデルの動きにシンクロするように微妙な風に反応して静かに揺れるものです。
僕が新宮さんの作品を初めて知ったのは、17歳の頃だったように記憶しています。神戸の三宮に設置されていたものと兵庫県立美術館がコレクションしていたものでした。いずれも風の作品で、目には映らない風の動きをキャッチして自在に変化する造形に見とれていた覚えがあります。後で知るのですが大阪万博の時にも岡本太郎さんやイサムノグチさんをはじめ7人のアーチストの一人として参加されていたようです。当時僕も大阪万博には出かけましたが、パビリオンばかりに意識が注がれその作品の記憶はありません。その後、僕はデザインの道に入り修業時代を過ごしていたある日、家庭画報だったと思うのですがアートのニュース欄に新宮さんの風で動く作品が小品となって、セゾン美術館のミユージアムショップで販売されているという記事を見つけたのです。確か3種類あったと思います。僕は、なけなしの給料をもってその一点を買い求めに出かけました。
それからずいぶん時間が流れ、プロダクトデザイナーの喜多俊之さんにお花見に誘われた時、初めて新宮さんに出会ったのです。その後、僕の作品集をお送りしておいたら「三田のアトリエに遊びに来られませんか?」とご連絡をいただいたのです。アトリエは、新宮さんのマケット(実際の作品の何十分の一かのミニチュアで、作家が実際の作品を創る前に確認するプロトタイプ)がいっぱい。そのすべてが風や水で実際に動くのです。また、広い敷地のアトリエには現物の作品が何台も置かれていて、大きな池には水で動く作品もあります。このアトリエは、「三田マジック」と呼ばれていて多くのクリエイターが一度訪れるとみんな新宮さんのとりこになってしまいます。ここに掲載する写真、二人で写っているのは先日、僕の事務所で撮ったもの。アトリエのマケットは、半年ほど前に新宮アトリエにお伺いした時の写真です。そして、初めてアトリエを訪ねた時に新宮さんから「今度、アメリカから出版する予定の作品集のデザインをお願いできませんか」と、装幀の依頼を受けたのです。 光栄きわまりない話です。その後、何度も作品集を装幀させていただいたり、食事をしたりで親交を深めてきました。
先日もお食事をしながら2時間以上いろいろと話しました。その時、新宮さんが「しゃくふう、しゃくすい」という言葉を使われるのです。一瞬、僕の知らない言葉に何を話されているのかピンとこなかったのですが、よくよく聞いていると「借景があるように僕の作品は、風や水の力を借りて動くので借風(しゃくふう)、借水(しゃくすい)なんです。つまり、風景も風も水も光も全ては地球に借りているものです」とおっしゃるのです。いま、Breathing Earth(ブリージング・アース)「呼吸する大地」というプロジェクトを計画中とかで、自然エネルギーを生かした村のヴィジョンを描いているとのこと。確かに「自然の恩恵を授かっている」とよく言いますが、「授かったもの」は、ついつい自分のモノという発想になりがちです。「自然の恩恵を借りている」と発想すると「借りたもの」は、丁寧に使い、何らかのカタチで元に戻さねばと考えるように思います。「持続可能な暮らし」。エコロジーとエコノミーの2つの矛盾するエコの間でいかに生きるかが問われてきます。
ところで、新宮さんがいま連載中の神戸新聞の『わが心の自叙伝』、いろいろと考えさせられる話があり面白いですよ。

旅と同時に進む編集

フランスのビジュアル・マーチャンダイザーでパリの老舗百貨店、ギャラリーラファイエットの仕事を中心に幅広い活躍をするマリー・エレーヌ ベルガセムさんが事務所にやって来ました。彼女が僕の事務所にやって来るのは今回で4度目。初めての出会いは5年前です。
ドイツの出版社、TASCHEN(タッシェン)から出版された『 JAPANESE GRAPHICS NOW ! 』という書籍に掲載されていた僕の作品に興味を持ってくれ、来日の際に事務所を訪ねてくれたのです。彼女は、すごい親日家で今回の来日で10回目だそうです。初めて日本に来た時の滞在期間が2ヶ月。今回も1ヶ月近い滞在ということです。初めて出会った時、彼女はなぜか僕の事務所にギャラリーが併設していると思い込んでいたようで「ギャラリーはどこにあるの?」と尋ねてくるのです。当時は、ギャラリーどころか足の踏み場もないぐらい狭い事務所でした。どうして、事務所にギャラリーが併設していると思ったかはいまだに謎ですが、僕の作品に興味を抱いてくれ来日の際には毎回訪ねてくれるのです。
当時、お互いの作品を紹介し合い、なんとなくヴィジュアルで歓談。深いコンセプトの話にいたれなかったと思います。僕の事務所でのヴィジュアル歓談の後、彼女は当時堂島にあったガラスの箱のようなギャラリーdddへ直行。今は、北堀江に移動してしまいました。そこで、「三木さんの作品集はありませんか?」と尋ねたようです。その時に接客されたのが、下に掲載している写真のマリーさんの横にいる小笹さんです。その後、彼女達は親交を深め大の仲良しになっていったそうです。彼女達曰く、僕をきっかけで「親友になったの。ありがとう!」と言ってくれます。実はこの話、昨日お二人から聞かされて驚いたのですが、お互いを結びつける「親友のキューピット」に知らない間に僕が関与していたようです。ちなみに小笹さんは、フランスに4年以上の留学経験がありフランス語がすごく堪能です。昨日は、お食事も含め4時間近く彼女たちとご一緒させていただきました。小笹さんの通訳に助けられ、コンセプトの話や文化の違いなど、お互いの考えに深く踏み込めてとても楽しい時間を過ごしました。
さて、マリーさんは来日の際、いつもヴィジュアルダイアリーともいえる本を移動しながら制作しています。旅先で彼女の感性に響いたものを写真に撮り、その地でプリント。展覧会のチケットから雑誌の切り抜き、街で配られている販促ツールやお守りにいたるまで、その時に感じたメモやスケッチとともにファイルがされています。旅と同時に進む編集。そこに、彼女の目で切り取られた日本が浮上します。この本、毎回見せてもらうのですが、実に楽しいのです。いわゆる旅のガイドブックにあるような、お決まりの観光ガイドとは一線を画しています。彼女に許可を得て、このコラムでみなさんにもご覧いただこうと思いました。なんか限定のアーチストブックや取材ノートを見ているように感じませんか?彼女と一緒に僕の知らなかった日本を旅しているようで、何だかワクワクしてきます。僕の事務所で撮った三人の写真。明日には、この本に収録されるそうです。

天に生きる生命

韓国のHongiku Univ.(弘益大学)での講演の後、グラフィックデザイナーでタイポグラファーのAhn Sang-Soo(アン・サン・スー)さんと食事に出かけました。
デザートを食べながら話が佳境になった時です。彼が胸に付けていたバッジをはずし、僕にプレゼントをしてくれました。ここに掲載しているGIFアニメは、その時のアンさんの話を元に僕が帰国後、創ったもので実際のバッジでは動いていません。と、いうか動いていたら「かっこいい」と思い、勝手にコラボレーションをしたものです。
アンさんによるとこのシンボルマークは、「朝と夜が循環する空間『地球』に、『人』・『動物』・『鳥』・『魚』・『木』が繋がっていて、それぞれの生命の尊さとその属性を表しており、平和な社会をメッセージするいわば反核のPEACEマークと同様の意味なんです」とのことです。ちなみにアンさんとの会話は、アンさんの堪能な日本語と僕の片言の英語を交えながらです。言葉に詰まった時は、漢字と絵でコミュニケーションをとっていきます。その時の会話の様子をみなさんにもご覧いただこうと掲載したのが下の写真。
食べかけのデザートのナフキンに書かれたメモ、ちょっと行儀が悪いですが、話のライブ感がお届けできるのではないかと思います。意味と形を表す表意文字のようなシンボルマーク。森羅万象を表現しているようにも映ります。コンセプトの組み立て方。デザインの展開方法。どこか、僕の発想の仕方と通じるところがあるように感じます。部分と全体を行き来しながらコンセプトを探る。その関係性の中からデザインを見つける。そして物語が広がる。ナフキンに描かれたPEACEマークとアンさんのマークを比較してみると、僕の目には、アンさんのシンボルマークにアジアの思想が入っているように映ります。
「人」、「生命」、「平和」、「共生」、「共存」、「地球」、「宇宙」、「混沌」、「陰陽」、「持続」などなど。いくつものキーワードが浮かんできます。そして、プリミティブな表現がより根源的な叫びとなってメッセージを届けてきます。そんな会話をしている時に、アンさんが思い立ったように自分のノートを取り出しメモをはじめます。横から覗くと「天に生きる生命」と書かれています。アンさん曰く「いい言葉です」。
「天に生きる」。なんか、大きな器の中で僕たちが生かされているようなイメージが広がってきます。アンさん、「いい言葉といいシンボル」。ありがとうございました。

「本気」の凄さ

ACA(アジア・クリエイティブ・アカデミー)の僕のワークショップで学生達の最終プレゼンテーションが8日のお昼から始まりました。僕が帰国するぎりぎりの時間まで講評が続きます。課題は「履歴書」。ここでいう履歴書は、自分の思考や生き方、そして、感性を存分に表現する「未来を語る履歴書」。自分のルーツやヴィジョンをしっかり見つめ、自分の言葉で語りかけるようにデザインをしてもらう。平面、立体、映像など表現の方法は自由。見る人がワクワクするようなデザインで、その人の理念がほとばしるような「履歴書」を期待しながら彼らのプレゼンを待ちます。彼らとのマンツーマンでのミーティングで本人のコンセプトとスキルを見つめながら、それぞれの解決方法を探ってきましたから課題を広義にとらえている作品に出会うこともあるように思います。いずれにしても楽しみです。
ある人は、映像による表現で自分の人生に影響を与えた人物が重なり合い、それぞれの人の顔に一定の法則で描いた小さなドットを重ね、最終的に自分の顔がさまざまなドットにより構成されるといったコンセプチュアルな作品を発表します。
また、ある人は自分の名前を一文字一文字に分解し、それぞれの文字の発音と同じ発音を持つ文字を集め、その意味の関係性を解き、そこに自分の名前のハングル文字のエレメントからヒントを得たデザインを重ねシンボルマークを創っていきます。表音文字のハングル文字に表意文字のような意味と形を表わそうとしているように映ります。
また、ある人は、ACAで創ってきた自分の作品をアーカイブするためにインタラクティブなウェブサイトを計画します。細胞のような有機的なフォルムのコンテンツが、ゆっくりとしたリズムで重なり合ったり離れたりしながら動いていきます。そのコンテンツにマウスを重ねるとエモーショナルな動きとともにそれぞれの作品へとジャンプしていきます。まるで作者の頭の中のカオスを泳ぐような動きがとても神秘的です。
また、写真家で集合住宅の窓ばかりを撮り続けミニブックでその作品を発表している人は、自分のアイデンティティともいえる窓をテーマに自分の名刺や封筒などV.I.を展開しようとしています。名刺に開けられた矩形の窓が裏面の集合住宅の作品の窓とピッタリと重なり、それはそれはセンスの良さが漲っています。
また、人生の中でのプラス要因とマイナス要因を小さなドットで左右に振り分け、そこに細い糸を張り、糸との関係性を意識したイラストレーションで未来の自分を語る物語性のある作品にも出会います。糸が人生の時間を表しているようにも映ります。その糸を飛び越えようとする人。その糸を摘もうとする人。その糸を引っ張ろうとする人。その糸を渡ろうとする人。チャーミングな表現に「すごい」や「うまい」とは違う、その先にある「にくい表現」に思わず笑顔がほころびます。これらの作品以外にも力量のある作品がたくさん集まりました。わずかな時間の中でも自分の全身全霊をかけてデザインに向き合う姿が手にとるように分かります。こんなにエネルギッシュな充実した時間を若いみんなと一緒に過ごせたことで僕の脳が逆立ちしながら喜んでいるのが自分でも感じられます。
真剣に向き合って、真剣に考え抜いた彼らと言葉を超えた友情のような強い絆が繋がっていきます。帰りの空港に向かう時間をぎりぎりまで延ばして、彼らと喜びを分かち合います。
その気になる。やる気になる。本気になる。そんな気持ちで繋がった韓国でのワークショップ。デザインの楽しさや奥深さを伝えようと思って出かけた韓国への訪問。彼らに「本気」の凄さについて、あらためて教えられた一日。とても印象深い日となりました。
みんな本当にありがとう。そして、お疲れさまでした。カムサハムニダ!