KenMiki & Associates

はじめて考えるときのように

中之島デザインミュージアム de sign de > (デザインで)のオープン先行イベントとして行われているコミッティメンバーによるリレートーク。毎回多彩なゲストをコミッティメンバーが指名して、いわゆる作品紹介とは違う、考え方やつくり方の根源に迫る『デザイン・フィロソフィー』を可視化しようとする試み。
その4回目が建築家・谷尻誠さんとプロダクト/ 空間デザイナー・柳原照弘さん。コミッティメンバーの柳原照弘さんによると、「オーディエンスの脳とスピーカーの脳がこのトークでぶつかり合って、この場でしか生まれない状況を生み出すような言葉による建築物をつくりだしたい。よって、建築や空間の話はもちろんであるが、そこに至るまでのプロセスが組立てられる様をオーディエンスに体感してもらいたい」というのです。つまり、事前に用意されたいくつかの解決方法の中から提示するようなソリューションではなく、その場に居合わす人たちと一緒に言葉を紡ぎ、最も適切に説明しうる仮説を導き出して推論を組み立てるアブダクションへの提示を計ろうとしているのです。いわば、作家性を誇示することに重きを置くのではなく、住み手や使い手や環境といった「暮らし」に重きを置くことで、そこに広がる思想や哲学としての作家性を浮き彫りにしようとしているのです。
谷尻誠さんが感銘を受けたという書籍『はじめて考えるときのように』は、哲学者・野矢茂樹さんが伝える「哲学」のアブダクション。そのタイトルをそのままに、言葉で状況や空間をつくり出す、トークショーという名の建築を展開していこうというのが彼らの狙いです。「この考え方を一枚のポスターに託すなんて…」。あなたならどうします? 
いわゆるポスターって、一瞬で内容を届ける視覚言語。「こんな概念を視覚化して一瞬で届けるなんて無理!」と、この依頼を受けて以来、僕の頭がずっと文句を言っています。「無理、無理、無理!」。アイデアが出てきません。お正月を返上して悩みに悩み、「こうなったら僕もオーディエンスの一人となって、僕の脳をスピーカーの二人にぶつけてガチンコ対決する方が楽じゃないか!」と思った瞬間、「そうか!僕の脳をそのまま言葉で可視化して、ポンっと差し出せば彼らが『言葉の建築』を始めるきっかけになるかもしれない。そこにオーディエンスのみんなの脳が重なって、彼らの脳を刺激するんじゃないだろうか」と、僕のアブダクションが全開し始めたのです。そして、『はじめて考えるときのように』のタイトルから「考える」と「考えない」という2つのキーワードが浮かんできたのです。早速、柳原さんに連絡してみると「僕達の考えとピッタリ!」という返事。加えて「余白を残しておいて、僕たちの考えをどんどん書き込んでいくのってどうでしょうか?」と提案されたのです。これは面白くなってきました。未完成の言葉地図が建築になっていく瞬間が体感できるトークショーなんて前代未聞。ある種ワークショップ型だし、オーディエンスの発言によってどんどん建築が増殖するとは、まさに『言葉の建築』ですよね。彼らの 『はじめて考えるときのように』を想像するだけで、ちょっとワクワクしてきました。僕がつくったポスターの言葉が『土』だとしたら、参加するみなさんの考えや発言は『種』。彼らがそこにどんな『言葉の建築』をつくるのか。
明日1月14日、de sign de > にて一緒に体感しませんか。みなさんの新鮮な言葉の『種』が、彼らをよりいっそう奮い立たせると思います。それでは、午後7時に…。


de sign de > talk 04 >
第4回「はじめて考えるときのように」
話 し 手:谷尻誠(建築家) × 柳原照弘(プロダクト・空間デザイナー)
開催日時:2011年1月14日(金)開始19:00–20:30終了予定(受付18:30 会場入口にて)
参 加 費:¥1,000(1ドリンク付)
定  員:60名(椅子席は先着順/立見あり)予約不要
○ 終了後にコミュニケーションパーティあり(参加自由・ドリンク有料)
会  場:中之島デザインミュージアム de sign de >
大阪市北区中之島5-3-56 中之島バンクスEAST www.designde.jp
主  催:中之島デザインミュージアム de sign de >
問合せ先:Tel. 06-6444-4704 E-mail : info@designde.jp


『秀英体』という書体をご存知でしょうか?
大日本印刷の前身、秀英舎・製文堂が明治末期に完成させた明朝書体で、東京築地活版製造所の『築地体』と並び、「明朝活字の二大潮流」と呼ばれた書体のこと。ちょうど100年前の明治45年(1912)に誕生して、現在のフォントデザインに大きな影響を与えた書体。いわば、日本の明朝体のふる里のような存在。その『秀英体』の生誕100年を記念して、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で24名+1組のデザイナーによるポスター展が開催されることになりました。監修が永井一正さん。テーマは、『秀英体』を使って「四季」を表す。僕への依頼は「冬」。そのデザインが、ここに掲載したポスターです。
「なんじゃ、これっ!」とお想いの方がたくさんおられるでしょうね。PCではちょっとわかりづらいのですが、画面から1m程離れてじっと見つめていただくと、大小の『雪』という漢字がラインの中に浮かび上がってきませんか。もう一度画面に近づき、さらに画面から25cmぐらいまで近づいてみると先程まで見えていた『雪』が消えていきませんか。実際の印刷物(B1サイズ)をご覧いただくと、離れた距離からポスターを見るとくっきり『雪』が浮かび上がり、近づくと『雪』が消え、さらに近づくと『雪』の結晶のようなラインが見えてきます。
僕がイメージしたのは、凛とした表情の秀英明朝の『雪』の文字が舞う情景。近づいて手を差し伸べると、まるで『雪』が溶けるように文字が消えていく。墨一色。漢字一文字。文字と人の対話が距離によって変わっていく。そんな状況を作り出すポスターです。
原寸サイズで1ptの細いラインで構成されたこのデザインをスノーホワイトのような白色度の高い紙に刷る。壊れそうなぐらい弱い表現。黙礼のような静かなコミュニケーション。この書体を使う人や読む人の記憶を甦らせる情景を生み出すデザイン。
つまり、文章を読む人が文字の存在すら消えるくらい流れるように読め、ある時、違う書体で組まれた文章を読んだ時に、あの心地よい流れに戻りたいと思い出す書体が真の美しさであると思うのです。個性と協調。そこに人の紡ぎ出す物語と相まって文字が生成されていくのです。単体の美しさはもちろんのこと、組まれた佇まいに気品が宿る。それが文字の品格となって表れてくるのです。記憶に残る文字。それは、『秀英体』が多くの書体に与えたであろう明朝体の遺伝子のように永遠に受け継がれていくと思うのです。



第294回企画展
秀英体100
2011年1月11日(火)-1月31日(月)
11:00a.m.-7:00p.m. (土曜日は6:00p.m.まで) 日曜・祝祭日休館/ 入場無料
ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg)
東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル tel.03-3571-5206

巡回展
dddギャラリー第179回企画展 2011年3月22日(火)-5月11日(水)
CCGA現代グラフィックアートセンター企画展 2011年6月11日(土)-9月11日(日)

新作「秀英体の四季」
出展作家 25名 : 浅葉克己・井上嗣也・葛西 薫・勝井三雄・佐藤晃一・佐野研二郎・澁谷克彦・杉浦康平・杉崎真之助・祖父江 慎・高橋善丸・立花文穂・永井一正・中島英樹・長嶋りかこ・仲條正義・中村至男・南部俊安・服部一成・原 研哉・平野敬子・平野甲賀・松永 真・三木 健 +コントラプンクト(デンマーク)

2011 01 01

元日
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