KenMiki & Associates

三木組奮闘記『旅』後編

三木組奮闘記『旅』の後編、学生達はどんな『旅』を提案してくれるのだろうか?なんだか楽しそうなフィギュアを持って出迎えてくれる『三木組ツアーズ』の添乗員がいます。『旅』は道連れ。どうぞ、みなさんもご一緒しませんか?
『DEEP ABENO』
大阪市阿倍野区に暮らすT君。前回の課題でアニメーションに挑戦して、数千枚の絵を描き始めましたが提出の期限に間に合わず沈没。途中のプロセスを見ていて、デッサンの確かさ、シナリオのユニークさ、独自性など、表現力のある人です。今回は、何としてでもゴールを目指してほしいと思います。「テーマ『旅』、場所はどこでもいいんですか?」。「いいですよ」。「ボク、阿倍野に住んでるんですけど…。阿倍野って、誰もが知ってる場所なのであまり面白くないですよね?」。「阿倍野、いいんじゃない。みんなが知っいてれば、なおいいんじゃない。知ってるはずの阿倍野を深く掘り下げれば、誰も知らなかった阿倍野が浮き彫りになるかもよ」。「深い阿倍野ですか?」。「そう、『ディープ・アベノ』」。こんな会話から始まった彼とのやり取り。T君が作ってきたのが自分のフィギュア。彼そっくりの『Mr.DEEP ABENO』が阿倍野の夜を放浪する。本人と『DEEP ABENO』が共演するシーンなどもあって、プレゼンが始まるやいなや、三木組みんながキャッキャ、キャッキャと大興奮。ゆるキャラブームの中で、阿倍野育ちのリアルな『DEEP ABENO』が、実際に阿倍野区のキャラクターとして採用されたりしたら面白いんだけどな~。再開発の進む阿倍野を『DEEP ABENO』がラップ・DJ・ブレイクダンスといったようなヒップホップなクリエイティブを引っさげて文化を語る。時々、T君と共演してサプライズを巻き起こすなんていいんじゃないだろうか。「ところで、T君!僕のフィギュアもつくってくれない?『DEEP APPLE(ディープ・アップル)』。僕のやってるワークショップ『りんご』を掘り下げるのに一役かってもらいたいんだけど!」。

『談山神社』
「奈良県桜井市の多武峰(とうのみね)にある『談山神社(たんざんじんじゃ)』を舞台に『旅』を提案したいんですが…。『談山神社』ってご存知ですか?」。「いいえ、知りません」。「先日、出かけたのですが、すごい山奥にあって、『大化の改新』の前、藤原鎌足と中大兄皇子がこの地で談合を開いたことが名前の由来らしいのです」。「ほう」。「この山、『談い山(かたらいやま)』とも呼ばれていたそうです。よって、ここから日本の歴史が動いていったんです」。「『談い山』、面白い名前ですね」。「ただ、ここから『談山神社』と『旅』がうまくつながらなくって…」。「では、『談山神社』を『山と話す』と捉えてみると、コンセプトが広がっていくかもしれませんよ」。「『山と話す』?」。「はい。『山と話す旅』をナチュラル・ツーリズムと捉えてみるといいかもしれません。自然に触れて、自然体になって、心を癒す」。「あっ!これって『談山神社』と『旅』がつながる!」。「そうですね。もう一つヒントを。奈良で日本の歴史が語られたってことは、『やまと話す』とも言えるんじゃない」。「えっ!」。「奈良は大和。『大和話す』でしょ」。「わっ!すごい。『山と話す』=『大和話す』。どんどん、つながっていく。私『談山神社』でやります」。「おい、おい、『談山神社』で提案したいと、君が伝えてきたんじゃない?」。「そうなんですけど…。ちょっと、どうしようかなと思いながら…。『先生と話す』だったんです(笑)」。そんな会話の後、I さんが提案してきたのが『談山神社』のブランディング。おみくじとお守りで『人と話す』らしい。三木組の『話すデザイン』、こんな感じで進んでいきます。

『HAN RIVER』
韓国の留学生Kさんの『旅』は、ソウルにある漢江(ハンガン)という川。韓国の北部を流れる全長514kmもある長い川。その漢江にはたくさんの橋がかかっていて、ソウル市内に18の橋と3つの鉄橋があるそうです。Kさんのプランは、その橋をクローズアップさせながら漢江の魅力を説こうというもの。昼と夜で表情の変わる橋をグラフィカルに表現してきた彼女。「冬休みにソウルにもどり、漢江に行ってきました。夜の橋がとりわけ綺麗でライトアップされた橋が川面に映り上下左右にリズミカルに繋がっていくんです」。Kさんの『旅』は、大地と大地を繋ぎ、モノやコトが行き交い、人と人を結ぶ。「繋ぐ・行き交う・結ぶ」がコンセプト。彼女の話を聞きながら、僕は隣接する国との関係性について想いを寄せていた。信頼や安心をベースとした持続可能な『絆』づくり。これを『架け橋』と呼ぶのだろうと…。

『THE TRAVEL OF VISION』
プランニングに行き詰まり、最後の最後で全く違うプランに切り替えたH君の『旅』は『視覚の旅』。さあ、彼のプレゼンテーションが始まりました。「今日は、みなさんを視覚の『旅』に誘いたいと思います。この『旅』は、いわゆる足を運ぶ『旅』ではなく、みなさんの眼を運んでいただく『旅』です。一言でいうならば、眼を通して脳が錯覚をする体験に触れていただく『錯覚を体験する旅』です」。小箱の中からいろんなツールが取り出されました。『THE TRAVEL OF VISION』と記された正方形の書籍、この中で『錯覚を体験する旅』に出会うのだそうです。錯視を生み出す基本造形を旅で訪れる建物やシーンに見立てて展開しています。そういった錯視の書籍は、過去にもたくさんありますが『確かめのものさし』と名づけたツールで錯視の検証を促し、見るから触れるへという一連の動作を導く『行為のデザイン』へと近づけようとしているところが評価できると思います。三木組の学生達が「どれ、どれ」とツールを使って確かめています。「本当だ!」なんて声も聞こえてきます。「やり直して良かった」という安堵の表情がH君に走ります。さて、こつこつと積み上げてきたアイデアが立ち行かなくなり、このまま進めても解決しそうにないと気づいた時の英断。元に戻ってやり直す勇気。ここが、最も大切。長いものに巻かれてはなりません。『人生の旅』の教訓を一つ「止まらない列車に乗ってはならない」。

みなさんいかがでしたか、三木組奮闘記『旅』。学生達のデザインへの『旅』は、まだ始まったばかり。知らなかった、気づかなかった、分からなかったを体験する『旅』の魅力は、未知との遭遇。行ってみないと分からない。体験しないとわからない。この世は知らないことで一杯。引っ込み思案のあなた、知らないことを探る『旅』に出かけませんか。

三木組奮闘記『旅』前編

大阪芸術大学デザイン学科、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。三回生後期、二つ目のテーマは『旅』。学生達の誘う『旅』の提案。さて、どこへ連れて行ってくれるのでしょうか。「おっ、始まりました『三木組ツアーズ』の添乗員達のプレゼンテーション」。みなさんも彼らの提案する『旅』にご一緒しませんか。

『ちいさな摂津』
大阪にある『摂津市』の魅力を知らせる書籍をデザインしてきたSさん。ローカルの『摂津市』を知らせるために「宇宙から見た『摂津市』とは?」というコンセプトで語り始めました。宇宙学校に通う3人の学生が地球見学に来るという設定で日本を選択。住所をコンピュータに入力したものの誤作動があり『摂津市』に着陸という物語です。「宇宙のこのへんの、地球のこのへんの、日本のこのへんの、大阪のこのへんの、摂津市という場所に…」から始まる巻頭。宇宙というマクロから眺めた『摂津市』をミクロと捉え「このへんの」という表現で、ローカルの位置関係を知らせるセンスの良さ。彼女のプレゼンを聞きながら、その昔、イームズの『Powers of Ten』を見た時の感覚が僕の脳裏に蘇ってきました。そして、『摂津市』の詳細を身近なモノに比喩しながら物語が展開していきます。例えば、『摂津市』の面積を知らせるのも「たこ焼き100億個ぐらいを並べた大きさで、大阪城、9つ分」といった具合。また、市内の35の町名も語呂合わせで楽しく紹介。個性のあるイラストレーションを使った「わかりやすさの設計」が随所になされています。Sさんのプレゼンに三木組のみんなが魅了されていきます。囲碁将棋や経営の世界でよく使われる言葉、「着眼大局、着手小局」。まずは現状を把握し、仮説を立ててわかりやすく示す(着眼大局)。そのうえで、細部を丁寧に語っていく(着手小局)。きっと、そんな視点が根っから備わっているんでしょうね。見立て上手は、可視化上手。『ちいさな摂津』のタイトルが全てを言い表しています。

『空の停留所』
Sさんのプレゼンテーションが始まりました。静かな口調でコンセプトが語られていきます。「あなたは最近どんな空を見ましたか?空はあなたを元気にします。広い空の下で、ふーっと深呼吸してください。思いっきり吐いて空を全部吸ってください。空っぽの空。力一杯のあなた。たまには深呼吸して、今日は休息、明日からまた再出発。大切なのは、目的地ではなく、旅そのもの。あなたの空の旅を完成させてください」。「さあ、空を見に行こうよ」と、詩の朗読のようです。彼女曰く「『空』は『そら』・『から』・『くう』と読むでしょ。『から』っぽの、何もないけど全てが存在している『くう』の『そら』。その『空』が私の『旅』の対象。つまり、自分を見つめ、何かに気づく、これが『旅』なんです」。「ほう~」。「そんなわけで『空』のキットをデザインしました。中には『空日記』と題したいろんな空の表情を閉じ込めた日記帳や、『今日の空色模様』と題したたくさんの空色色紙や、『空気ハンカチ』と題したふわふわハンカチや、『空っぽ音楽』と題されたCDなどが納められています」。自分自身と対話する『旅』。『空の停留所』は『気づき停留所』でもあるようです。

『ひなたほっこり。』
「ひきこもりがちなあなたへ。ひなたぼっこのように心をほっこりさせませんか。ひなたぼっこでほっこり」と書かれたコンセプトシート。どうやら、Aさんの『旅』は、リラクゼーションへの誘いのよう。彼女によると、芝生の上に寝っころがって昼寝をすると『ほっこり』するらしいのです。「そこで『ほっこりする寝』の旅にみなさんを誘いたいと考えました」。「自然の中で昼寝をすることを『旅』と捉えるの?」。「はい」。「ということは、『大地の敷き布団』と『空の掛け布団』の間で昼寝をするわけだ」と僕がつぶやくと、次の打ち合わせを待つ学生が「素敵!」と。「そうだ!私『ひなたほっこり』のグッズいっぱい作ります。自然の感触を届けてキャンペーンにします」。そんなわけで芝の感触のグッズがいっぱい準備されることに…。『感触のプロダクト』ユニークなアプローチです。

『香川県観音寺市大野原町』
四国の香川県出身のI 君が選んだ旅先は、実家の『観音寺市大野原町』。I 君のプレゼンテーションが始まりました。「ここは何もない町。ビルもない。デパートもない。空と田んぼだけしかない。なんだか少しさびしくなる。だけど…。ここには、すべての源がある。家族がいる。人がいる。自分がある。ぜんぶある町。あの町に戻ろう。心は裸のままで」と、自分の育った町を思う気持ちを切々と語ってくれます。誰にもある居心地のいい場所。『旅』を起点にふる里を見つめる。町と記憶。I 君の遺伝子に刷り込まれた『香川県観音寺市大野原町』の時間と空間と人間。それらをつなぐ「間(ま)」。『旅』は「間」を行き交うことで刷り込まれていく体験の記憶なのだと、彼の瞳が語っているように思いました。

『三木組奮闘記・旅』の前編いかがでしたか?三木組のみんなそれぞれに『旅』をしてるでしょ。コンセプトを組み立てるのに迷子になったり、道草をし過ぎて元に戻れなくなったりと、彼らの中では色々あった様子ですが、そのプロセスの中で何かを発見する。これがまさに『旅』なんですよね。『三木組奮闘記・旅』の後編もご期待くださいね。