KenMiki & Associates

三木組奮闘記『ジワジワ』

久しぶりのコラムです。今日は、三木組の延長授業の話。
課題『学校』のプレゼンテーションを授業最終日に開催したものの、あまりにもお粗末な内容。「時間がなかった…」「就活で忙しくて…」と、言い訳三昧。「僕の授業、単位を落とすと留年しますよ!」と、伝家の宝刀を「チラッ」と見せて、2週間後にプレゼン会場を大学から僕の事務所に移動して15週+1週の延長授業をやることに…。スタッフもオーディエンスとして参加。さて、どうなることやら?
今回の課題『学校』は、グループでも個人でも可。
まずは、自分たちの展覧会の準備で前半の授業にあまり姿を見せなかった4人組がグループ制作で挑んできました。「いたずら」をテーマに楽しい学校をつくるというのです。当初、学園ドラマにありがちな、過激な演出の『いたずら学校』のような企画でしたが、口を酸っぱくして「いたずらをする時の心理ってなんだろ?いたずらの楽しさはなんだろう?」と尋ねてきました。それでもどうしても学園ドラマのような発想から抜けきれません。例えば「廊下を走る子ども達に『走るな!』というのではなく、廊下にトラックのようなラインを引いて走らせる…」といった具合の内容です。理念やコンセプトをそっちのけで面白いや楽しいにばかり意識がとらわれています。ある日の授業で、グループの一人が自分のバンドが出演するフライヤーを僕にくれたのです。「君、バンドやってるんだ。ボーカル?」。「いえ、ベースです」。「どんな音楽?」。「ロックです」。「君たちのグループは、ロックを通して何をメッセージしてるの?愛、希望、不安、生、死…?」。「……」。「今度、クラスのみんなの前でメンバー連れてきてガ〜ンとやってくれよ。その時の演奏はオリジナルで、テーマは学校」。「……」。「その演奏が君たちの今回提案してくる学校の校歌だとしたら、どんな曲をつくる? それが、理念。それが、コンセプトになるんだ。歌や表現は、デザインってところかな」。「あっ!…」。この会話の翌週から彼らの中に本気モードが漂い始めました。
『愉博学(ゆうはくがく)』という独自の理念で「いたずらをするように夢中で学んでほしい」という思いを込めて、学校中のいたるところにワクワクやドキドキといった学ぶことに積極的に向かいたくなるような仕掛けを提案してきました。教育方針は、「いたずらをときめきや夢中になる行為と位置づけ、子ども達の自発的な興味をのばす目的のために組み込む。また、体験的な学習を通して主体的な判断力や行動力を育むものとする」とあります。校則は、「毎日面白い事を見つける」と定められていて「1. 何が面白いかを判断する。2. ワクワクする6年間を過ごす。3. 一人を作らない。4. 物を大事にする」と綴られています。そして、それらの理念をダイアグラムで表現し、そこから導かれるツール類を通して理念を具現化させようというのです。「ほぅー。コンセプトの組み立て方、わかってきたじゃない」。好きな音楽に比喩することで伝えたいことが明解になってきたようです。
さて、彼らの提案の中でユニークなデザインをいくつかご紹介します。まずは、ノート。ページのいたるところに吹き出し型のフレームや漫画のコマ割りなどが刷られています。授業のポイントを吹き出しの中に書き込んだり、難しい内容を漫画にすることで分かりやすく理解するのだとか。「なるほど!」。松岡正剛が実践する書籍に赤や青のペンでどんどん書き込んでいく読書の手法や、リチャード・ソール・ワーマンの「他人に説明できれば自分が理解した証だ」の理解の手法を彷彿させる独自のアイデアのように思える。その他にも机の天面いっぱいがスケッチブックになっていて落書きをするように学べる机や、名札に複数の色や柄を差し込んで自由にカスタマイズできるようになっていて、その色や柄を友達と交換し合える仕組みだとか。それ以外にも校舎のいたるところに暗号が仕掛けられていて、それを解く鍵が生徒手帳にあるとか。掃除を楽しみながら出来るようにと、教室の隅や机の足下に哲学的な言葉などが貼れるシールが用意されていて、それを探しながら掃除をするなど、いたずらに夢中になるように、学ぶ楽しさに気づける環境を作ろうとしています。「ところで、シンボルマークのトンボは、どういう意味なの?」と尋ねてみると、「トンボの眼って、複眼でしょ。子ども達の魅力を多様な視点で引き出すという意味。それと、この理念図、よく見るとトンボのカタチに見えてきませんか?」。「えっ!」。「なるほど!理念の図をトンボに見立てたわけか。理念の可視化ね!」。一本とられてしまいました。
続いて、前回の授業『考現学百貨店』の『一本の線』で、今年の大学の広報物、全てを制作することになったIさんの登場です。『どこでも、がっこう』と名付けられたケース。8つのコンテンツと1つの物語が入っています。このツールを使って、実際の小学校に出かけたという設定でプレゼンテーションが始まりました。まずは、1.『記憶バンク』。「ひとは思いや気持をこころに記憶、あたまに記憶」「だけどもそれは目には見えない。自分を知るには自分をみること。思いや気持は記憶バンクにちょきんちょきん。ほうら、これでよく見える」と、立体絵本のようになったノートが準備されています。経験や体験をつなげることで、一つの物語とでもいえるアイデンティティが見つけ出せます。その手がかりを記すノートのようです。続いて、2.『つなげるつながる』。「なぜつながったのかとたずねると、つなげたからといっていた」「それじゃあ、わたしもつなげてみよう。つなげることは、たのしいたのしい」と、子ども達と手作りクリップを制作しながらコミュニケーションの重要性について語っていくとのこと。3.『いろいろいろ』。「あか、しろ、きいろ、あお、ぴんく。いろには、なまえが いろいろ いろいろ」「でもでも、ほんとにそれだけなのかな?そうだ、わたしがなまえをつけよう!わたしが決めた いろんないろたち」。11色のクレヨンが入っていて、子ども達と絵を描きながら色に独自の名前をつけていくそうだ。物語を作るきっかけを色の名前から始めるらしい。理念の声は名前。名前を考えることで考え方を明解にするのだとか。4.『あっ!』。「あっ!と思ったそのことは、あなたになにかのメッセージ」「忘れぬうちにシールをペタリ」。指先のイラストが描かれた付箋がたくさん入っています。「気づき」に気づけばアイデア開眼。「あっ!」こそ、発見のはじまりだとか。5.『なかったことにする』。「あなたの記憶、あなたの記録、あなたの気持」「たまに消すのもひつようだから、けしけしけし」と、修正ペンと消しゴムが用意されています。しんどいことを忘れて元気になる消しゴムだそうだ。忘却。忘れる力は、人に与えられたすごい能力。気持を切り替えることの大切さを伝えようとしている。6.『なくなるを生み出す』。「あなたがなくした いろんなもの 何かに変わって存在してる」「無駄なものなど、なんにもないね」と、鉛筆と鉛筆削りが入っています。描く事は、考え方の可視化。悲喜交々を描くことで新しい価値を見つけようということらしい。7.『とまるうごく』「とまるとうごくのちがいはなあに?」「とまるはとまって、うごくはうごく」「とまるがたくさんあつまって、うごいているのかもしれない」と、パラパラ漫画の束が準備されています。静止画の繰り返しで絵を動かしていく。命が宿る瞬間をメッセージするかのようだ。8.『ルール』「ルールがあってはじめて気づく。そんなことってありますよ?」「たまにはルールをこしらえて やってみるのもありですよ?」と、厚紙に切り取られたいくつものカタチ。重ね合わせて違うカタチを想像する。既成の概念を壊す。自分のモノサシを探しだす。ルールを超えたルールの話をするそうだ。
いやはや、プチ哲学満載の文具キットを作ってきました。三木組のみんなが彼女のプレゼンテーションに引き込まれていきます。「これ、欲しい!」と声が上がります。このまま、自分の卒業した小学校で『ようこそ先輩』の授業ができそうな楽しい発想です。
『わらいの たね がっこう』と題されたMさんの『学校』。「笑いが人を幸せにする」が理念。いいかえれば、笑いを繋ぐことで「喜びをリレー」していく『互恵の精神』をメッセージしていくとのこと。Mさん曰く、授業の始まりは子ども達に笑いに興味を抱かせるための「掴み」が重要との事。プレゼンテーションの際に僕の事務所の電気のスイッチをみつけるやいなや『福笑い』の『口』を近づけ、笑い顔に見立てていきます。「ほらっ、見方によって何でも笑顔になるでしょ!」と。僕もとっさにスイッチをON OFFと繰り返し動かしてみます。「こうすると笑顔に表情がつくよ!」と、即席でコラボレーション。真剣な面持ちの三木組のみんなにも笑顔が…。サヴィニャックがいってるように「ユーモアは、コミュニケーションの魔法の薬だ」。そこで、Mさんと僕の即席コラボレーションの様子をGIFアニメで制作してみると、ONとOFFのスイッチが「パチッ、パチッ」と表情を生み出してくれる。どうです? 誰でも思いつくアイデアだけど、ちょっと、楽しいでしょ!。こんな、単純なアイデアが意外と発展していきます。例えば、子ども達が小枝を拾ってきて角度を変えると「泣きと笑いの顔」が作れるし、笑ってる顔の表情に水滴を「ポタッ、ポタッ」と落とすと、うれし涙になる。そこで、「涙の理由」について子ども達とディスカッションをするのはどうだろうか?悲しい時の涙と、嬉しい時の涙の違いについて…。こんな風に僕の授業では、気づきを学生達とディスカッションをしながら見つけ出していく。「笑い」から転化して「涙」に行きつくことで、大人でも語り合うのに難しいテーマを小学生と話すことができるかもしれない。Mさん、ここがポイントですよ。コミュニケーションデザインの力がつけば、哲学や思想だって、子ども達と語れるかもしれない。
この他にもユニークな『学校』がいっぱいありましたが、学生達は3回生の後期になると就活などでソワソワしてきて授業がちょっとおろそかになってきます。青田刈りする社会の仕組みに踊らされてしまう。学校は、就職のための通過地点じゃない。就職したって終身その企業にいる人なんてほんのわずかなのに…。みんなは、企業に何を求めているのだろうか?もちろん働いた対価を求めることは間違いではないけど、それだけではなぜか満足が生まれてこない。『やりがい』って何なんだろうね?企業や学校に入れば、簡単に手に入るものじゃないんだよね。自分の全力をどこかで出し切ったら、そこに『ジワジワ』と滲み出てくるものだよね。その『ジワジワ』が幸せを感じる時なんだよね。コンビニに行って「ジワジワください」っていっても売っていないよね。学校の中にだってないよ。もちろん企業の中にもないよ。あるのは、君たちの心の中。課題『学校』でみんなが作ろうとしていたものに共通していたのは、その『ジワジワ』だったでしょ。教わる立場と教える立場を逆転することで、「学ぶ」について「学ぶ」授業。理念を紐解く。その理念を具現化した授業を考える。そして、小学生の子ども達と哲学や思想について語り合えるぐらいの内容を組立てる。難しいですよね。そう簡単にはいきませんよね。三木組のみんな、少しは「学ぶ」について「学べた」でしょうか?この授業でみんなにいちばん気づいてもらいたかったのは、『ジワジワ』。だから、みんな三木組卒業。これから一生探すものも『ジワジワ』なんだよ。がんばって!
さて、ここからは茶話会。事務所のスイーツ男子、『Oh! noスイーツ』の小野くんの力作、イチゴタルトやチョコレートケーキをたっぷり用意して…。「みんながんばったね!お疲れさま!」。『ジワジワ』忘れかけたらいつでも遊びにおいで…。