KenMiki & Associates

「よしっ!」三木組奮闘記

前回のコラムで書いた『彼らの心は素直に刺激し合って「本気」になる機会を探している』という内容に、複数の方から「そうだよね!」と、共感のお言葉をいただきました。僕は大学に通い始めて彼らと接するようになり、この「本気」が芽生えることで彼らの力が、僕のおよびもつかない所へとジャンプすると気づいたのです。とはいえ「ただ今から本気になりま~す!」なんて、急に「本気」になれるものじゃないし、何かの刺激による「気づき」がないと「本気」のスイッチは入らない。「彼女が欲しい。彼氏が欲しい」といっても、誰でもいいから好きになれないように「嫌いじゃないけど…。本気じゃない」でゴールインはしないよね。遊びでも学びでも「本気」でないと、何となくでは「つまらない」。新しい環境になって「よしっ!」と気合いを入れても、ダイエットを始める時のようにすぐに効果が出ないものだからちょっと試しては諦めてしまう。実は、そこを乗り切ると、ある時期から目に見えるように成果が表れ始めるんだけど…。そうすると、どんどん嬉しくなってくる。ダイエットでもみんなから「痩せたね。きれいになったね」といわれると、ルンルンしてきてより頑張る気持ちが増してくる。ゴールの明かりが見え始めると不安が急に消えて、変われそうな自分にあらためて「よしっ!」と気合いが入る。まさに「喜びが可視化されていく瞬間」。ここに到着する前に諦めちゃうから「本気」になれない。「本気」は、二回目の「よしっ!」からが本番。
そんなわけで、今回の三木組奮闘記は、締め切りに間に合わなかった学生の「遅刻プレゼン」と「やり直しプレゼン」がメイン。前回のOさんのプレゼンに刺激を受けた学生達の「よしっ!」をご覧あれ。「やり直しプレゼン」のGさん。関空に到着する海外便の機内で配る『OSAKA 折り紙 MAP』。大阪道頓堀周辺の100箇所の見所を独自の視点で撮影。その100カ所の写真が全て折り紙サイズの正方形になっていて、それぞれの写真に四角いポイントが示されています。別紙のトレーシングペーパーに刷られた道頓堀周辺の地図と重ねるとその100箇所の場所が分かる仕掛け。また、紙飛行機の折り方がパッケージに刷られていて、日本文化の折り紙と国際便の飛行機、そして大阪道頓堀のローカリティ観光を見事にドッキングしたナイスアイデア。ディープな大阪に誘惑される素敵な地図です。
続いて、自分で決めた「かわいい」のコンセプトと課題の「地図」の接点に悩みに悩み、僕とのメール往復書簡を繰り返したKさん。「エロかわいい」や「キモかわいい」という独自のサブカルチャーを生み出してきた日本の「かわいい」を「20代のかわいい図鑑」として編集することで浮き彫りにしたいとのこと。「地図」の課題を広義に捉えた「かわいい」に特化した日本サブカルチャー地図の書籍です。それぞれの写真に「◯◯かわいい」というタイトルをつけ、その意味を独自に解説。すごい量の「◯◯かわいい」を収集。厚み35mmぐらいの辞書のような書籍に仕上げてきてのプレゼンです。ページを捲っていくと「なるほど!」。若い女性がよく口にする「かわいい」が、まるで等高線を積み上げるように浮かび上がってくるではありませんか。これも一種の「地図」かもしれない。
これは、面白くなってきました。みんなが、前回のOさんのプレゼンに刺激を受けてか、「本気」の「よしっ!」を連呼し始めてきました。これを観たOさん。「前回のデザインをさらに膨らますように」と伝えていたのですが、持参した作品の今日の発表を取りやめ、さらに「よしっ!」と気合いを入れ直すというのです。とてもいい感じです。僕は、そんなみんなに「ジーン」ときちゃっています。これらの作品以外にも、まだまだ面白い作品が仕上がりはじめており、三木組「よしっ!」は、こだまとなって響きそう…。
今日の教訓。「本気」は、二回目の「よしっ!」からが本番。

OSAKA 折り紙 MAP
20代のかわいい図鑑

続・三木組奮闘記

大学の課題『地図』。学生によるプレゼンテーションを先週の土曜日に実施。実は、先々週の授業でいきなり「課題提出日を来週にします」と発表。つけ焼き刃なアイデアを持ち込む学生に「喝!」の気合いと、人前で自分の考えを話すことで考え方を考えざるを得ない状況を作り出すための荒技。というのも、長い時間を裂いてコンセプトの指導をし、人によってはメールでの相談に丁寧に応えているにも関わらず、次の授業で顔を合わせると「あの考えは辞めて、違う方向で…」と平気でいう学生が出てきます。「えぇ〜」。「君のあやふやな考えを整理してコンセプトの入り口を指し示す文章にするのにどのくらい時間をかけたと思うねん!」と、ぼやきながら「僕の勉強、僕自身が学ぶ場」と自分に言い聞かせていましたが、気づかぬうちに彼らの発想の未熟さを丁寧に指導しているつもりが、「彼らの考えにない発想を植え付けているのではないか?」「コンセプトの耕し方の指導がコンセプトそのものになっていないか?」「一番やってはいけない自分のコピーを作ろうとしていないか?」と、疑問を持ったのです。彼らの肉体を自らが酷使してコンセプトを絞り出さないと彼らの満足感や達成感に到達しない。彼らが手を動かし、試行錯誤を繰り返さずして、便利な回答機の先生になってはいけない。とりあえず思いつきを回答機に投げて「こんなん出ましたか。やっぱりやめた」じゃ、どうしようもない。「やる気」や「その気」といった「本気」になることが自分を最も磨くのに、どうすればいいんだろう?現状の学生の進捗状況からすると一週間後に提出となると、ちょっとタイト過ぎるかもしれないけれど、時間をかけても締め切りまでの間、のんびり過ごす学生が多いと判断。ダッシュを与えることで「やる気」を導く。さらに今回のプレゼンで不十分な仕上りの人、また、未提出の人はさらにダッシュを与え「本気」になるまでダッシュが続く。三木組はダッシュ、ダッシュで気づきに気づく。「学生諸君!これが後で効くんだよ」。あきらめないこと。とことんやること。僕は、「あの時、やっていたら」と、学生時代の苦い経験をずっと後悔していて、「君たちと真剣に学びたいの…」。「おいおい、金八先生になってるぞ!」と、どこかから突っ込まれそうですが、「三木組、ダッシュ!」。
というわけで、今日の三木組奮闘記はプレゼンテーションの話。最初のプレゼンテーターに僕が選んだのはOさん。何やら机の上にオブジェのような立体が置かれています。この彼女のプレゼンが、ちょっとゆるくなりかけていたクラスの雰囲気を一気に変え、本気モードにしてくれます。「自分の知らなかった自分に気づき、新しい自分に出会うための地図」がコンセプト。本人が描いている自分のイメージについて「クールぶっているが、実は涙もろい面がある」と自己分析。まずは、客観的に自分を見つめるために友人、知人40人以上に彼女自身のイメージについて本音で語ってもらうアンケート調査を実施。(回答者33人)。大学の友人以外にも幼なじみなど違う環境での自分イメージも知るためフィールドを拡大。アンケートの依頼文に「短所などもズバリいっていただけると嬉しく思います」と、調査の目的を明解にすることで自分の知らなかった自分に出会うきっかけを探すとのこと。集まった言葉から133のキーワードを拾い出し、重複した内容は文字を大きくすることで可視化。アンケート結果の生のデータは、自分の感情を加えないようにクールにモノトーンで表現。続いてそれぞれの言葉から感じる色を選び出し、感情と色についての考察。加えて、133のキーワードをそれぞれのイメージで図化し『133の感情のカタチ』を制作。そして、そのカタチと言葉と色を自由に組み合わせることのできる『感情の変化を表す立体地図』へ。もちろん僕は、この内容について本人とコンセプトミーティングをしており事前に知っていますが、一週間でここまで整理して分析して、デザインに仕上げてくるとは、まさにスーパーダッシュです。本人曰く「もっと偏った言葉が集まり、感情を表す色やカタチがある一定の方向に向かうのではと内心思っていたが、自分の予想を反してカラフルでバラエティに富んだ。経験や環境や状況で変化する心の動きを『変化し続ける地図』として表現することで、新たな自分に気づく機会を得た」という。クラス全員が吸い付けられるように彼女のプレゼンシートに集まってきます。
その後、複数のプレゼンテーションが終わり学生達による講評へ。推薦の弁と題して、気に入った作品の応援演説をしてもらいます。ある学生、『感情の変化を表す立体地図』に対して「一番最初のプレゼンを聞き、愕然とした。同じ時間を与えられているのに、私は…。ここまでやらなきゃいけないんだと痛感しました。凄いです!」僕は、その応援の弁を聞いて涙が出そうになるのを必死にこらえていました。素敵な学生達です。そうです。僕が悩むより彼らの心は素直に刺激し合って、「本気」になる機会を探しているのです。
三木組のみんな、マハトマ・ガンジーがこんな言葉を残しているよ。“Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever.”「 明日死ぬかのように生きなさい。永遠に生きるかのように学びなさい」。

犬島

連休に岡山県南東部にある『犬島』に出かけました。宝伝という船着き場から80人乗りの定期船で5分ほどで着く小さな島です。目的は、この島にある『犬島アートプロジェクト』と名付けられた『精錬所』を訪ねるためです。ベネッセ・アート・サイトが瀬戸内海で展開する一連の美術施設の一つがこの島にあります。
さて、100年ほど前に瀬戸内海の島々に建設されたという『精錬所』。銅の精錬時に発生する煙害対策や原料輸送の利便性からこの地が選ばれたそうで、銅の大暴落と共に約10年ほどで操業を終えたと聞きます。その『犬島』にある『精錬所』を建築家、三分一博志さんが岡山大学環境理工学部と協働して自然エネルギーを有効に使う循環型の環境システムを導入してリノベーションしたのがこの施設。植物の力を借りた高度な水質浄化システムや太陽や地熱を上手く再利用する空調や照明。そして、周辺環境に即した植物を植えることで自然環境を取り戻す計画など、持続可能な環境システムについてずいぶん考慮されたプロジェクトです。また、近代化産業遺産群として経済産業省から認定されているこの『精錬所』は、当時のカラミ煉瓦や大煙突をそのままに保存しながらミュージアムとして再生されています。ちなみにカラミ煉瓦とは、銅の精錬過程で発生する鋼滓(こうさい)と呼ばれる酸化鉄などの不純物からなるもので、実際に触れてみると太陽熱によって暖かく感じます。このプロジェクト、新たな地域創造のモデルとして循環型社会を意識した取り組みと捉えることができるように感じました。
そして、柳幸典さんのアートワーク。ここでも建築と協働するように5つのスペースに作品が展開されています。僕が柳幸典さんの現代美術に興味を持ったのは、ずいぶん前。『ザ・ワールドフラッグ・アント・ファーム』という「蟻が国旗を浸食する作品」で衝撃を覚えたのがこの作家を知るきっかけでした。そして、屋外に出ると今度は、いまにも崩れそうな立ち入り禁止区域も残されていてる『精錬所』の廃墟の中を散策することに。自然と産業遺産と建築と美術。これは一見の価値有りの代物です。そして、今後予定されている第二期の犬島アートプロジェクトの設計者が妹島和世さんというから、今後ますます楽しみなプロジェクトです。
僕は、そんな興奮を誰かに伝えたいと思い、最近はじめたツイッターでつぶやきます。それにいち早く反応してくれたのが、grafの服部滋樹さん。ベネッセ・アート・サイトの本拠地とでもいえる『直島』でアーティストの大竹伸朗さんと創った「『直島銭湯 I ♥湯』もよろしく!」と、つぶやき返してくれます。丁度、僕がミュージアム内でその銭湯のチラシを見ていた時でした。あまりのタイミングに「ビックリ!」です。これぞ、シンクロニシティ。僕も直ぐさま、つぶやき返すという一幕で時間と場所を超えて繋がっていきます。
それから数日が過ぎた昨日のことです。僕と服部さんがつぶやいていたその時、『精錬所』のレストランで僕の隣で「食事をしていました」とtwitterでつぶやく人が出てきました。それもその方、偶然にも服部さんの知り合いときたものだから、またまた「ビックリ!」です。twitter 恐るべし。離島『犬島』でつぶやいたら、僕の隣にいた方が偶然にも知り合いの知り合いで繋がっていたのです。同じ時間に空間を超えて人間が行き交う。 そして、なななんと、その僕の隣に座っていた方の名前が「犬島」さんだというから再々「ビックリ!」です。もう、最大級の「ウヒョー」です。『犬島』の『精錬所』の中でtwitterを通して、偶然にも知人の知人の『犬島』さんが横に座っているとう不思議な体験。僕は、まるでtwitterによって、入れ子の中に閉じ込められたような気分です。以前、服部さんが「twitterは建築だ」と、高らかに宣言していましたが、同じ時(間)に、空(間)を超えて、人(間)が行き交う。これぞ、間(ま)をつなぐメディア。確かにtwitterは、ある種の建築といえるかもしれないと思った次第です。それにしても『犬島アートプロジェクト・精錬所』とても楽しかったです。
大阪からだと日帰り出来るプチ旅行。ちょっと、お勧めですよ!