KenMiki & Associates

三木組奮闘記 [オノマトペ商店街]

新学年の授業が始まりました…。と、コラムを書き始めたのですが、昨年の三木組3回生の最終授業の様子がまだご紹介できていない。急いで書かなきゃ、次の三木組が追い越しちゃう…。
僕の海外講演での体験から始まった課題説明。韓国での話です。通訳者が隣にいる逐次通訳での講演。日本語を少し話しては韓国語に通訳、コミュニケーションのもどかしさから自分のリズムがつかめません。気づかぬうちに身振りや手振りを加えたオノマトペを連発。その内容を再現すると次のような感じです。『僕の考える“話すデザイン”は、「ペチャクチャ、ペチャクチャ」と多くの人と話すことから…。その会話から気になる言葉を「ポンポン」と繋ぎ、コンセプトを探ります。本筋から離れ余談へと「ピョン」と跳ぶこともしょっちゅう。そこにアイデアの神様が「チョコン」と潜んでいたりする。そんな時、仮説を「ドンドン」立ち上げ、行き詰まったらそれを「プチプチ」と刻み再編集をする。大切なのは「ドキドキ」や「ワクワク」といったみんなの喜ぶ顔を想像すること。話すようにデザインをする、これが僕のデザイン手法。まずは、「ペチャクチャ」から…』といった内容。講演後、感想を聞くと「面白かった!漫画みたい!」。「えぇ~漫画?」と落ち込む僕に通訳者が「とても素晴らしかったですよ。みんな、喜んでいました」。「でも、漫画っていわれました」。「それは、オノマトペがたくさん使われ、楽しく分かりやすかったという意味」。さて、僕の話からオノマトペだけを抜き出すと次のようになります。「ペチャクチャ、ペチャクチャ。ポンポン。ピョン。チョコン。ドンドン。プチプチ。ドキドキ。ワクワク。ペチャクチャ」。これに身振り手振りが加わるわけですから漫画のように感じて当然ですよね。
さて、オノマトペ(onomatopoeia)の語源はギリシャ語。onomaという語は「名前」の意味。poeiaの語は「作る」を意味していて「名前を作る」が原義です。もともと読みのない音に字句を創りだしたことに由来しています。水が「サラサラ」、犬が「ワンワン」といった『擬音語』と、面白すぎて「ケラケラ」、お腹がすいて「ガツガツ」といった『擬態語』があります。その2つを総称して擬声語(オノマトペ)と呼びます。オノマトぺは、決して理性的な言葉ではありませんが、直感的にその映像が浮かんできます。つまり、音により素早く状況を可視化させるコミュニケーションだといえます。
そこで、課題です。このオノマトペを使って、みなさんと商店街を計画したいと思います。それぞれが商店主となって業態を決めてください。「ベロン、ベロン」という酒屋を計画するもよし、「ドキドキ」という演芸場を計画するもよし、「オギャー、オギャー」という産婦人科を計画するもよしです。表現は、自由です。何か新しい出来事に出会えそうな行為や状況を生み出すデザインを提案してください。


漫画専門店[サイン]
自信なさげにやってきたUさん。「あの〜、あまりにもストレートな発想なんですが、漫画のオノマトペを分類して、漫画専門店のコンテンツにしてみようと思うのですが…」。「どういうことですか?」「私、漫画が大好きなんです。スポ根漫画やギャグ漫画やラブコメ漫画など、いろんな分類があるのですが…。ジャンルを超えて読みまくっているんです。スポ根・SFファンタジー・バトル・ギャグ・シリアス・サスペンス・ラブコメ・エロなど、それぞれの分類によってオノマトペの表情に特徴があるように感じてるのですが…」。「ほう〜、面白いですね。漫画好きならではの視点です。オノマトペは、擬音語や擬態語。漫画で使用されるオノマトペは、まさに身体表現のタイポグラフィの宝庫ですものね。漫画家によって表現は異なるでしょうが、確かに文字がそれぞれのジャンルを体現しているように思えますね」。「それで、オノマトペを漫画の分類に使うサイン計画にしようかと思っています。加えて、書籍カバーやしおりなどもデザインしようかと…」。「いいじゃないですか。どんどん、進めていきましょう!」と肩を押してあげると、彼女の瞳が『キラッ』。「なんだか『ワクワク』してきました」。「『ビシバシ』いくよ!」。「面白〜い。この会話、私の漫画オノマトペと全く一緒じゃないですか〜」『ゲラゲラゲラゲラ…』。


オセロ・オノマトペ
前回の課題『気づきミュージアム』で街を犬の視点と人の視点で見つめることで、多くの価値が変換すると提案してきたOさん。視点を交互に変えることで気づかなかった街の風景を浮上させ、街全体を『気づきミュージアム』にするといっていた彼女がオノマトペをどう発想するのか、期待が高まります。Oさんのプレゼンテーションが始まりました。「日本語で犬の鳴き声は『ワンワン』、英語では『BOW WOW』といいます。使う人や文化によってオノマトペの表現が違ってきます。例えば『ゴロゴロ』というオノマトペを聞いて『転がる』と発想する人もいれば、『雷』と思う人もいます。また、『寝っころがる』と感じる人もいると思います」。「なるほど」。「そこで、一つのオノマトペが人や状況や文化によって異なる意味に受け取られることを知らせるゲームを提案したいと思います」。「ほう〜」。「題して、オセロ・オノマトペ。黒と白が表裏にあるオセロの石にオノマトぺを刷ります。同じ響きの擬音語がひっくり返ることで意味が違うオノマトぺになるタイポグラフィのデザインです」。「それは、おもしろい」。彼女のプレゼンテーションにクラスのみんなが吸い込まれていきます。「オノマトペって擬態語でもありますよね。つまり身体のタイポグラフィってわけ!」。「ウヘェ〜。すご〜い。オノマトペをしっかり噛み砕いて自分のものにしてる」。三木組のみんながザワザワとしてきました。


オノマトぺファッション
「私、ファッション大好きなんです」。「ええ」。「それで、オノマトペをテーマにしたコレクションを展開する洋服屋さんを作ろうと考えています」。「ほう」。「実は私の家、昔、金物屋さんをしてました。それで、金物屋さんで取り扱っていた商品をテーマに不思議な世界観のコレクションを作りたいと考えています。ドライバー『GURI GURI』、かなづち『TON TON』、スポンジ『KYU KYU』、スコップ『ZAKU ZAKU』。そんなオノマトぺファッションを展開したいのですが…」。「いいんじゃないですか。実際の服にまで展開できるといいですがね」。「えっえ〜」。そんな会話から始まったFさんとのミーティング。ファッショナブルなイラストとオノマトペスカート。プレゼンの始まりにオノマトペスカートを履いて自らモデルとなって決めポーズ。スカートの「ヒラヒラ」揺れる動きとかなづちオノマトペの「TON TON」がリズミカルにマッチした立体プレゼンテーション。三木組のみんなが「かわいい〜」。


パラパラ
「わたし、がんばりましゅ」といった口調で、どこか幼さの残るMさんの隠れた闘志をご紹介。「せんせい、オノマトペで『ドン・ドン・プチッ・プチッ』を作ろうと思うの」。「はぁ、それなんですか?」。「あの〜、パラパラ漫画でオノマトペを動かすの。せんせい、オノマトペは体の言葉っていってたでしょ」。「あぁ、身体性があるという話ね」。「うん。それで、文字に命をあたえるの」。「ほぅ〜」。「これで進めていいですか?」。「いいけど、アニメってすごい枚数を描かなきゃだめだよ。大丈夫?」。「がんばるっ」。「ところで『ドン・ドン・プチッ・プチッ』の1点だけ?」。「ううん、いっぱい作るの」。「本当にできる?」。「がんばるっ」。こんな会話から始まったMさんとのオノマトペ。内心、大丈夫かなと心配していました。プレゼン当日。「ジャジャーン。せんせい出来たよ」。「えぇ、5種類もあるの」。「映像もあるよ」。「うそー」。「わたし、がんばりましゅ、っていったでしょ」。「あっあ〜」。みくびっていた。彼女のすごい闘志に気づかなかった。アニメの中で会話しているような気分でどこか幼く映っていた。その気、やる気、本気が「がんばりましゅ」の中に潜んでいたのだ。『ドン・ドン・プチッ・プチッ』僕の固定観念がこわされていく。


京言葉『かるた』
オノマトペで始まる五十音の『かるた』を版画で制作してきたHさん。京言葉を盛り込んだ『かるた』がゆったりした時間を感じさせます。関西育ちの僕も知らない京言葉の解説に「ほう〜」と感心のプレゼンテーションです。オリジナリティのあるイラストレーションが強い個性を発揮しています。「版画大変だったでしょ。ずいぶんがんばったね」。「始めは、ややこになって泣きそうやったけど、なまくらしてたらあかん。がんばらな、デザインの神様にそっぽむかれる。始めは、材料費もかかりすぎると思ってしぶちんしてたけど、思い切りやったらしかめっ面のでぽちんが笑いはった。今日はプレゼンやけど心が落ち着いてなんどりどす」だって。みなさんわかりますか?
ややこ=あかんぼう。なまくら=不精でだらしない。そっぽ=よその方。しぶちん=けちな人。でぽちん=おでこ。なんどり=穏やかなさま。