KenMiki & Associates

出陣前の僕たちの「契り」。


出陣前の「覚悟」と積み重ねてきた仕事への「自信」とチームの「結束」を確認するべく撮った写真です。この数ヶ月、関わってきた『JAGDAと地元デザイナーによる地域中小企業活性化プロジェクト』の最終プレゼンが先日、福岡の九州大学大橋サテライトの会議室をお借りして開催されました。この事業は、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)の教育委員会と福岡県が一緒になって中小企業の活性化を計る目的で開催しており、前期と後期の2回に分けて4チームが結成されました。
僕たちの「三木組」は後期のチームで、もうひと組の「内藤組」とそれぞれ異なるクライアントを担当し、その成果をそれぞれのクライアントと福岡県の担当者を交え発表する会が開かれたのです。異業種とはいえ、互いの企業の機密事項に触れる訳ですから、それぞれの企業とデザイナーが誓約書に捺印しての会議となります。通常、他のプロジェクトのプレゼン風景を見る機会なんてほとんどありません。そんなめったにない機会ですから企業の方もデザイナーも興味津々です。いわゆる講演会などでのサクセスストーリーを聞くのとは違い、生のプレゼン風景に立ち会う訳ですから、いつもとは違う緊張感が走ります。
僕は、こんなドラマチックな展開に出くわすのが大好きで、たくさんの観客がいればいる程ファイトが湧いてくるタイプです。とはいえ、三木組のクリエイターの苦悩の数ヶ月が僕の肩にかかっていて、いつも以上に緊張しているように思えます。僕の頭の中には、クライアントへのプレゼンまでに三木組チーム内でのデザイナー同士のバトルや、消えていったいくつもの案が走馬灯のように流れていきます。それでも、考えて、考えて、脳が引きちぎれるぐらい考え抜いた案ですから自信を持っての提案です。プレゼンに力がこもってきました。クライアントはもちろんのこと、他の組のデザイナーや福岡県の担当者が真剣なまなざしで僕の言葉に耳を傾けてきます。横幅9,600mm、縦幅1,200mmの机全体に僕たちのデザイン案が広がっています。原稿なしのプレゼンですが、しっかりとつくり込んできた企画書の一部始終が頭の中に入っていて、原文と全く同じでなくとも相手の顔を見ながらのメッセージの方がパワフルに届いていきます。ただし、理念を成文化した思想だけは、正確に読み上げます。今回の内容が全て凝縮された物語になっているからです。その時、複数の方が大きくうなづいてくれるのが感じられます。僕の目は文章を追っかけていますが、気配が変わっていくのが身体で感じられるのです。その後、クライアントのみなさんの真剣な顔つきの中に満足げな表情が徐々に現れてきました。僕たちのデザインが生き生きと語りかけ始めているようです。
当初から三木組チームには、すごく高いハードルを提示してきました。僕もその高いハードルを自ら飛び越える覚悟を持っての提示です。僕の持つ限りのノウハウを彼らに全て公開して望んだ今回のプロジェクト。結果、クライアントが僕たちの考えを大きく受け入れてくれました。これからブランディングという長い旅に出ることになります。
武永さん、石田さん、前崎さんと、長畑さん。本当にお疲れさまでした。そして、ありがとう!
なんか、出陣前の写真に僕たちの「契り」が映っているようです。
みんなの真摯な顔がちょっと素敵でしょ。

さて、この続きは3月6日の土曜日、午後4:00から。

突然の電話。
「もしもし、graf (グラフ)の服部です」。
「どうも、三木です。先日のdddでのレクチャー、珍しく緊張してなかった?」

服部 : そうなんですよ。graf のメンバーと一緒に自分たちの展覧会の話をするって、手前味噌じゃないですか…。ところで、三木さんに、お願いがあるんですけど。
三木 : 何やろ?
服部 : その、dddでやってる『感じる箱展』で三木さんと対談したいんですけど。
三木 : 僕と?
服部 : ぜひ、三木さんと。
デザイン領域を横断的に捉えながらコンセプチャルに物語を組み立てるデザイナーって、以外に少ないじゃないですか。
三木 : そう。結構いると思うけど。実際、graf がそうじゃない。
服部 : いや、上の世代で僕はあんまり知らないですけど…。
それと、前にちょっと聞かせてくれた『良き隣人の法則』の話とか、すごく面白かったし。その他の話も楽しくって、あの時、久しぶりに熱くなったんで…。
三木 : 本当に?いいよ。
服部 : いいっすか!ありがとうございます。

こんな電話の会話でgraf の服部滋樹さんと3月6日の土曜日、午後4:00からdddで対談することになりました。みなさんご存知のように、graf は、オリジナル家具をはじめとするプロダクトや、店舗や住宅の設計といったスペース、また、ブランディングをはじめとするコミュニケーションなどのデザインに加え、アートから食に至るまで「暮らしを豊かにするコトづくり」を実践するクリエイティブユニット。その代表の服部さんと一度ゆっくり話をしたいと思っていたので、丁度いい機会です。 先日、dddの方と服部さんが僕の事務所に集合して、近くのレストランで食事をしながら打ち合わせをすることに。その際の会話がすでにトークショーのはじまりだったので、ここで、ちょっとさわりを紹介。

服部 : ここですか、三木さんの事務所。graf と同じ川沿いなのにぜんぜん見え方が違う。水辺が事務所と水平に繋がっているように感じる。
三木 : 『中之島公園』と目の前の『大川』と事務所の前の大きな木。川に、船が行き来して、何層かのレイヤーが重なっているようでしょ。全て借りものの景色だけど、ちょっと気持ちいい感じなんです。
服部 : すごくいい。仕事場も見せてもらっていいですか?
三木 : いいよ。grafのように木のぬくもりのある空間をつくりたかったんだけど、予算がなくって、ともかくシンプルに仕上げた白い箱だけど…。
服部 : わぁ、ここか。『良き隣人の法則』の本箱。(『良き隣人の法則』については、僕の以前のコラムで詳しく語っています。
スタッフに向かって「三木さん怖い?」と、質問しながら3階へ。
三木 : この本箱の奥が全て仕上がった作品のファィリングシステムになっていて、地下の倉庫と繋がっているの。情報の整理整頓というか、インフォメーションデザインを徹底してるんですよ。上手く考えているでしょ。
服部 : すごくいい。いま、grafも空間に少し手を入れようと思ってるんだけど。これいいなぁ。何もしていないようで、全てデザインされてる。
三木 : ちなみに、これアスクルで買った棚、丈夫でリーズナブル。
服部 : いや、棚の側面に情報が入るように溝が切ってある。コンテンツを入れる訳か。本棚の奥がファィリングスペースなんだ。
三木 : 4階へ行く?
服部 : ギャ、ここ何?
三木 : 何も使ってない。ただの白い箱。
服部 : 三木さん、ここ借りてdddとは別の話がしたい。いま、デザインやアートのことなどサロン的に話す場をつくろうとしていて…。ともかく、いろいろと相談にのってくれませんか…。
三木 : うん、いいけど。地下の倉庫も見る?
服部 : 見る、見る。(服部さん、興味津々のご様子。)
服部 : その前に、この階段、屋上に繋がってる。
三木 : うん。
服部 : 見たい。
「すげぇ」。このビル高速道路の横にへばりついてる。なのに全然うるさくない。
三木 : そろそろ、地下へ行こうか。
服部 : うん。
三木 : これが、さっきの3階のファイリングできる棚と繋がっている地下。日々、資料が増えて全然整理が出来ないんだけど、ダンボールに白い紙でインデックスをつくっただけの簡易なファイリングシステム。
服部 : これ、かっこいい。ちょっと、grafの改築にヒントもらえた。
三木 : こういう整理の仕方って、デザインでしょ。
服部 : うん、まさにデザイン。(この整理の仕方の話は、僕のコラム『まずは、倉庫へどうぞ』で詳しく紹介しています。
服部 : ところで、三木さん、grafどう思われます?
三木 : どうって、すごい頑張ってると思うけど…。
さっきの改築の話でいったら、以前のgrafのビルの方が僕は好きだったなぁ。
服部 : えぇ。
三木 : 以前のgrafって、家具の工房が1階にあったじゃない。職人仕事の制作現場をちらっと見ながら、上にあがるとショップがあって、さらに上のカフェで川をのんびり見ながらお茶をする感じが『良質な暮らし』を体現していて、すごく雰囲気あったように思うな。横の階段のタイルが素敵でアプローチがあれしかないのも良かった。垂直に空間が積み上げられているんだけど、何か、grafの目指してる「暮らし」に対する思想が横に繋がっていく感じがして、僕の目には、grafの理念が可視化されて映っていた。
つまり、ビルは垂直なんだけど、思想は、水平に広がっている感じ。
いまは、grafが大きくなってカフェが2階に下がって一回からオープンにアプローチができるようになり、隣のビルにもgrafが増殖され、すぐ近くの横の面に家具の工房が独立して立っている。間違いなく水平に繋がったんだけど、前の方が横に繋がってる感じが僕にはするな。なんなんだろう。ギュッと、凝縮されてたような感じ。こんな内容、dddじゃ話せないよね。
服部 : いや、いいっすよ。dddでも、どんどんいってください。すごく嬉しいですよ。
三木 : ところで、どうするトークショー。何か、あまり準備しないで今みたいにアドリブで話していても、ぜんぜん話つきないと思うんだけど。まさか、僕の作品をgrafの展覧会で見せる訳にもいかないしね。
服部 : ぜんぜん。と、いうかぜひ、見せてください。
三木 : う〜ん。変でしょ。
服部 : 僕たちのこともいいけど、三木さんの話をもっと聞きたい。
三木 : そういわれても…。例えばこんなのどう?以前に名古屋のヴィジュアローグというデザイン会議のプレイベントで、テニスの審判が使う高い椅子にスピーカーが座って会話するの。オーディエンスは、話が進む度に首が右へ行ったり、左へ行ったり、まさに会話というボールでラリーが続く感じがおもしろかったけど。
服部 : それ、無茶苦茶おもしろい。でも、スライドやって。
三木 : えぇ〜。grafの展覧会なのに。うーん。どうしよう?

さて、さて、この続きは3月6日の土曜日、午後4:00から。お楽しみにね…。


日時 : 2010年3月6日(土)4:00-5:30p.m.
出演 : 三木健×服部滋樹(graf)
会場 : 〒550-8508 大阪市西区南堀江1-17-28 なんばSSビル
入場無料 要予約 定員70名
●参加ご希望の方はdddギャラリー(tel.06.6110.4635)までお申込みください。


みんな『うんち』で健康を見とるんよ!

『JAGDAと地元デザイナーによる地域中小企業活性化プロジェクト』の3回目の打ち合わせで、またまた福岡にいってきました。今日のコラムは、『うんち』の話。打ち合わせ終了後の夕食での会話です。三木組の武永さん、石田さん、前崎さん、長畑さんに加え、もう一つのチーム、内藤組のデザイナー、サダマツさんご夫婦が飛び入り参加しての夕食。お料理は鶏。お酒も入っていい気分になってきた頃、サダマツさんの奥様、千歌ちゃんが「お肉を食べるの久しぶり。家では野菜しか食べんとよ」と。「えぇっ?」。みんな驚きの顔です。よくよく話を聞くと、ご夫婦で健康に気をつけておられるとのこと。そのくせ、たばこは「プカ、プカ」。「どこが健康かね!」と、自分たちで話を落としながら僕たちを楽しませてくれます。事務所も自宅もず〜っと一緒の仲良し夫婦のようで、何もかも一緒のご様子。
僕も思わず、「仕事も一緒。遊びも一緒。食事も一緒なら、同じものを食べて『うんち』も一緒」と、食事中にもかかわらず下品に突っ込んでみたら全員にバカうけ。あまり受けたので僕も調子に乗って、サダマツさん達が今回のプロジェクトで担当している『健康食品のブランディング』に引っかけて、「美しい『うんち』で健康になるといったコンセプトは、どう?」。「同じものを食べたのに、違う『うんち』が出た」という始まりで、くだりは、「健康な人は『うんち』も美しい」。「こんなの出ましたが、どう?」と言ったら、またまたバカうけ。みんな腹を抱えて笑うし、言った僕も涙を出しながら笑い転げて、楽しいやら、おかしいやら…。その後、『うんち』健康法でブランディング講義になる始末。千歌ちゃんが乗りに乗って「それ、すごくよかコンセプト!」。「みんな『うんち』で健康を見とるんよ!」と、大まじめ。
僕も引くに引けず、『うんちく』並べまくって物語をどんどん膨らませていきます。
お酒の席のバカな話の喩えで、クライアントに聞かれたらお叱りを受けるかもしれませんが、こんな話の中からアイデアが吸い上げられてコンセプトが見つかることもあるのです。
例えば、「健康とは?」といったテーマが与えられて、ど真ん中から考えてコンセプトが出ない時は、逆立ちしてみる。それでもだめなら飛び跳ねてみる。それでもだめなら走ってみる。
本番のプレゼンまで、あと7日。サダマツさん、アイデアに詰まっていませんか?
僕たちのチームは快食快便。みんな健康そのものですよ。

心づくり、顔づくりも大切ですが、しっかりと体づくりをせねば

先週末に福岡に行ってきました。『JAGDAと地元デザイナーによる地域中小企業活性化プロジェクト』の2回目の打ち合わせです。出発前、大阪の伊丹空港で驚いたのがプロペラ機によるフライトです。てっきりジャンボ機だと思い込んでいました。乗客稼働率に合わせ、時間帯により飛行機のサイズに変化をつけているようです。航空会社はANA。経営効率を考えたフライト・ローテーションのようです。タラップを昇りながら「安全でお願いしますよ!」と、お祈りしながらの機上です。ずいぶん前にプロベラ機で怖い思いをしたことがあります。ネパールのカトマンドゥからポカラに移動する際にチョモランマの強い気流で飛行機が大揺れした経験が甦ります。今回も離陸して少し経った頃です。「気流の関係で少々、機体が揺れることがございます。みなさまシートベルトの着用をお願いいたします。客室乗務員もサービスをやめ、シートベルトを着用させていただきます。なお、安全上の問題はございません」と、機内放送が流れるやいなや「フヮッ、フヮッ」と機体が揺れはじめました。僕は、ジェットコースターに乗っても酔ってしまうぐらいの体質です。目をつぶりながら「早く着いて〜!」と祈っているしかありません。徐々に気分が悪くなってきました。「神様、お願い!」。その時です。「ドーン、ドッドーン」と大きな音と揺れに驚かされ着陸です。到着時間も大幅に遅れています。乗り物酔いも醒めない状況ですが、大慌てで打ち合わせ会場へ。クライアントへのプレゼンテーションまでにはなんとか体調が戻りそうです。
さて、今回のプロジェクト、『新マーケットへ向けてのブランディングと販売戦略』という依頼内容。一つのビジネスモデルを組み立てるのにものすごいエネルギーが必要なのに、『ブランディング』という言葉が掲げられています。ブランディングを一言でいうと、企業とお客さまとの「絆」づくり。商品やサービスはもちろんのこと、企業全体の活動を通して信頼や安心や期待といった「ときめき」を発信し続ける行為。一過性のプロジェクトでは終わりません。中長期の経営計画にしっかり組み込んでいかねばならないのです。ブランディングを人に比喩するならば、「心づくり」、「顔づくり」、「体づくり」の3つに分けられます。「心づくり」は、マインド・アイデンティティといって理念を分かりやすく成文化して社内外に浸透させること。「顔づくり」は、ヴィジュアル・アイデンティティといって理念から導かれるデザインのこと。「体づくり」は、ビヘイビア・アイデンティティといって理念から広がる具体的な活動や方針のこと。その、いずれがかけてもブランディングにはなりません。つまり、しっかりした哲学や思想のもとに価値のある生き方を示し、多くの方にその活動に共感してもらうことです。
「長いお付き合いになりそうですね。社長」と、お伝えして考え方に大きく理解をいただきました。内容はもちろん企業機密。
会議を終えてお食事の後クライアントと別れ、福岡のデザイナーのみなさんと2次会、3次会へ。気がつくと朝の5時です。「ウヒョ〜」。翌日、午前10時からの三木組デザイナーチームとの打ち合わせ。「大丈夫だろうか?」。大丈夫なわけありません。午前中、みなさんに僕の仕事事例を紹介しながら考え方や組み立て方をお伝えしたまでは良かったのですが、午後から二日酔いでグロッキーです。みんなゴメンネ!
飛行機で酔って、プレゼンに酔って、焼酎に酔って、もう、フラフラ。「心づくり」や「顔づくり」も大切ですが、しっかりと「体づくり」をせねばと考える福岡への出張でした。