KenMiki & Associates

三木組奮闘記『逆転カンパニー Part 1』

大阪芸術大学デザイン学科グラフィックデザインコース、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。2012年度前期、3回生の学生たちの奮闘ぶりをご覧下さい。
まずは、僕のこんな話から…。みなさ~ん、子供の頃にいろんなものを逆さ読みして遊んだことありませんか? Jリーグの『コンサドーレ札幌』は、『ドサンコ(道産子)』を逆さ読みして、ラテン語の『オーレ』を組み合わせた名前です。競馬の『ゾルトンワージ』を逆さ読みすると『ジーワントルゾ(G1とるぞ)』。風邪薬の『EZAK(エーザック)』を逆さ読みするとローマ字の『KAZE(風邪)』。回文の『わたしいまめまいしたわ』は、前から読んでも、後ろから読んでも同じ意味になります。衣服を裏返して新しい価値のファッションを提案するデザイナーもいます。目に映らないところに真実があると、見えない箇所にも徹底してこだわる人がいます。Appleのスティーブ・ジョブスは、一般の人がほとんど見ることのない「プリント基盤が美しくなければならない」とこだわった人です。そのこだわりが無駄のない美しいインターフェイスやプロダクトを生んだといってもいいかもしれません。
今回の課題は、逆転・裏返しの発想で新しい価値のコトやモノを探しだす『逆転カンパニー』。街を観察する。公園を観察する。家を観察する。観察対象は自由です。逆転・裏返しの発想で、いつもは気にも留めていなかったモノやコトの中から気づきのヒントを探し出してください。「あれっ!」「えっ!」「知らなかった!」「こうなってるんだ!」と、気づくと、人は「ねぇねぇ、聞いて!」とコミュニケーションを始めます。これが理解のきっかけです。そんな『気づき』を発見したら、あなたの想像力をフル回転させて、いままでにないユニークな発想で『逆転カンパニー』を想像してください。全てが裏返しのお店を発想する人、回文で本を作る人、リバーシブルにこだわる人…。パンを焼こうが、歌を作ろうが、農業をしようが、広義にとらえてクリエイティブであれば全て自由です。「すまいてし待期に想発の転逆のはでらなたなあ」。

MAKE PHOTO
海外での放浪旅から戻って来たT君。「一丁やるか!」といった闘志が漲っています。
しかし、『逆転カンパニー』という自由に解釈のできる課題に少し戸惑っている様子。コンセプトを説明してくれるも、自分の世界に浸り過ぎています。「ダメっすか?」。「少し無理があるように思うな。ところで、君が一番興味のあるデザインは?」。「タイポグラフィや写真などに興味あります。自分にしかできないオリジナルな作品を作りたいと思っています」。「タイポグラフィって、誰かがデザインしてるよね」。「えぇ」。「僕たちがPCで何気に打ってる文字だって、誰かがデザインしてる。紙だって、コンピュータのソフトだって、カメラのレンズだって、誰かがデザインしてる」。「ハ、ハイ」。「いま、君が使っているプロダクトやソフトは、全て誰かがデザインしてる。オリジナルを目指すなら作り方そのものを見つめなきゃ」。「ハイ」。「つまり、既成のものをそのまま使うんじゃなくって、それを逆転する発想にならないかな?」。「えっ!」。彼の目が輝いた。「そう!作り方を作るということ。というわけだから、期待してるね!」。
翌週。カメラのレンズに装着するフィルターに注目してきた彼。ペットボトルの底をフィルターと捉えたり、平らなペット樹脂を熱でゆがめオリジナルなフィルターを作ったりと、道具からデザインをはじめた様子。加えて、オリジナルのタイプフェイスを作ってそのフィルターで文字を変形。『MAKE PHOTO』なるプロジェクトへと仕上げてきた。「どうでしょうか?」。「いいね。作り方そのものを作ってきたんだね」。コンセプトを知らせる内容もダイアグラム化されていてインフォメーションデザインについても意識されている。「でもさ、このダイアグラム、取説みたいで楽しくないんだけど…」。「えぇ!」。この段階で相当徹夜をしている様子。顔が歪む。しかし、この才能、目覚めさせればまだまだ伸びるはず。「プレゼンまでもう少し時間があるよ。もう一踏ん張りやってみない?」。「ハ、ハイ」。プレゼン当日、机を14台使っての大プレゼンがはじまりました。「photographyの意味は、photo『光の』とgraphy『描く』が合わさった言葉です。写真は、光で描かれた平面作品だと思います。写真をとる“TAKE PHOTO”ではなく、写真をつくる“MAKE PHOTO”をコンセプトにカメラというキャンバスに光を走らせようと思います。そこで、独自のフィルターを考案して、写真のつくり方そのものをデザインするプロジェクトを展開したいと考えました。作り方の作り方からはじめる事で既成を逆転すると捉え、オリジナリティを追求するプロジェクトに仕上げました」。三木組のみんな言葉を失って、唖然としています。気合い入りまくりの『逆転カンパニー』です。
考え方、作り方、そのものをデザインする。僕が彼に伝えたかったのは『 Think different. 』。
http://www.youtube.com/watch?v=nytz2zfJL3I




まだ僕はあくびしてる
いろんな動物を描きしたためているK君。「逆転カンパニー、なかなかアイデアが定着しなくって…」。「では、すこし雑談をしましょう。皮膚科の医者の中には、皮膚は内蔵や心が表面化したものという見方をする人がいます。皮膚の異常は、食生活やストレスが大きく関係してるという考え方なんでしょうね。見方を変えれば、逆転の発想ですよね」。「はい」。「ここにいる、動物たちが、もし着ぐるみを着ていたとしたらどうしますか?」。「えっ?」。「例えば、ゾウが大きな体をくねらせて、着ぐるみを脱いでウサギになったとしたら?そのウサギがまた着ぐるみを脱いでキリンになったとしたら?」。「あっ!それって、マトリョーシカの入れ子構造。映像で作ったら面白そうですね」。「映像作れるの?」。「いいえ」。「… 」。「あの〜、でも、やってみます。いや、やりたいです。どんどん服を脱ぐように変化する動物の絵を描いてみます。アニメも自分なりに研究してみます」。「やれる?」。「はい、やります」。急に本気モード全開のK君。翌週。「できましたか」。「はい。あくびしながら動物がどんどん変化する映像を作ってきました」。クラスのみんなが集まってきます。「すご〜い」。「かわい〜い」。K君、にっこりともせず「この動物たち、しりとりで変化して、また元に戻る循環のデザインなんです」。「えっ!」。「こうのとり→りす→すずめ→めだか→かば→ばった→たぬき→きつつき→きつね→ねこ→こあら→らくだ→だちょう→うし→しか→かもめ→めんふくろう→うま→まんた→たこ→こい→いるか→からす→すかんく→くじゃく→くま→まんとひひ→ひょう→うみうし→しか→かも→ももんが→がらぱごすぞうがめ→めじな→なまけもの→のどあかはちどり→りすざる→るりこんごういんこ→こりー→りゅうぐうのつかい→いぬ→ぬびあんやぎ→ぎんざめ→めがねざる→るりかけす→すいぎゅう→うーぱーるーぱー→ぱぐ→ぐんかんどり→りびあやまねこ→」。「本当だ。すご〜い!」。「すごいよね!」。K君の鼻が思わずピクリッ。目元が微笑んでいます。K君の心模様が皮膚に映し出されています。

cloth toy
「あの〜、野菜や果物の皮をむいて中を見る行為、外側から内側への逆転カンパニーにならないでしょうか?」。「なると思いますよ」。「その…。実はそこから先がうまくつながらなくって…」。「では、モンテッソーリが考案した幼児教育法を知ってますか?」。「いいえ」。「イタリアの医師、モンテッソーリが知的障害児を診断していて考案した玩具があります。指先を動かすことで感覚が刺激され知能が向上されるというものです」。「ええ」。「紐の結び方やボタンの留め方など他にもいろいろな玩具が考案されているようです。それらの玩具を通して質量や数量の感覚を養ったりもするようで、暗記とは違う経験に基づいて幼児の知能を向上させようとした手法です」。「へぇ〜」。「その道具を使って言語教育へと発展させることもあるそうです」。「ふ〜ん」。「そこで、Oさんの野菜や果物の皮をむいて中を見る行為という発想を『子どもたちの知育玩具』へと発展してみるのはどうでしょうか?」。「あっ!フェルトで枝豆をデザインして、皮をむくと中から豆が出てくるってのどうでしょ?」。「いいと思います。ただ、子どもたちにその行為を通して何を感じ取ってもらえばいいでしょうか?」。「えっと、枝豆の外側と内側の違いを感じてもらう。それから豆の数も数えられるし、それぞれの豆に子どもたちと名前をつけて物語も展開できるし…」。「いいですね。子どもたちが好奇心を持つ、体験をする、何かに気づく、対話が始まる、そんな行為を生む道具がいいですね」。「わっ!なんか作れそうな気がしてきました」。プレゼン当日。彼女は、こんな会話からスタートしていきます。「子どもたちは手で触れて遊ぶ事で多くのことを学びます。ここに用意した『cloth toy』は、子どもたちの疑問を大切に「なんだろう?」から始まって「どうなってるの!」へと好奇心から観察、そして想像へと導く知育のための玩具です。つまり、見て、触れて、感じて、ひらめいて、すくすくと想像力が目覚めるような道具なんです。子どもたち自らの力を導きを出すことを大切にしています。みなさん、どうぞ、触れてみてください…」。三木組のみんな「かわい〜い」とはしゃいでいます。指先がこんなにトキメク掌(たなごころ)のデザイン、素敵ですよね。
さて、みなさん『逆転カンパニーPart 1』いかがでしたか? 作り方の作り方をデザインしたり、初めてのアニメに独学で挑戦したり、行為という体験をデザインしたりと、みんな柔らかな発想でしょ。近々ご紹介する『逆転カンパニーPart 2』もお楽しみにね!