KenMiki & Associates

三木組奮闘記「ねぇ、ねぇ、聞いて…」

学生達の路上観察が始まりました。立体看板、地図、矢印、インターホン、郵便ポスト、落書き、袋の持ち方、車のホイル、頭のつむじ、ドアノブ、車止めのポール、自転車、グリーンカーテンなどなど。大阪を題材にした考現学百貨店の観察記録。「どこが大阪?」と疑問の出る採集もいくつかありますが、一つの題材をとことん観察して『世界一の研究家』になる。僕たちは、意外と見ているようで何も見ていない。そんなもんだろうと勝手に思い込んでる。穴の開くほど見つめてみる。これでもかと思うほど採集しまくる。すると、何かに気づく。「ヘェー」とか「本当に」なんて気づいたら周りの人に伝えてみる。「ねぇ、ねぇ、聞いて…」。これを繰り返す。すると、伝え方も上手くなるし、みんながおもしろがるポイントも見えてくる。学生諸君!ここがポイントですよ!
誰かが「こんなものもあるよ」とか、「こんな風に考えられるよ」など、さまざまな意見が集まってくる。これを僕は『借脳(しゃくのう)』と呼んでるんだけど、みんなの脳をちょっと借りる。見えなかったものが、みんなの脳を借りて見えることがある。一度見え始めると何もかもが繋がってアイデアが「ポロポロ」と出てくる。すると、その「ポロポロ」が急に固まってコンセプトになるという訳。僕の授業は、『観察と想像』がベース。「観察」して、「想像」して、源をたどって「気づき」を探す。『観察→分解→想像→気づき→編集→可視化』その全ての工程で『創造』を繰り返す。みなさんわかりましたか。まず、『世界一の研究家』になることを目指してくださいね。後は、「ねぇ、ねぇ、聞いて…」ですよ。
理解の巨匠で『情報建築学』を命名したリチャード・ソール・ワーマンは、こんなことを言っています。『腕のいい情報建築家は、「複雑」を「明解」に作り変える。ものごとをわかりやすくする鍵は、「理解できないとはどいうことなのか」を理解することにある。また、他人に説明できれば、自分が理解している証拠だ』と。
だから、あなたの目で見て、あなたの頭で考えて、あなたの言葉で「ねぇ、ねぇ、聞いて…」。

いっしょにやりまひょ!

9月20日(月)敬老の日に大阪市主催の『クリエイティブビジネスフォーラム2010 ークリエイティブ・デザイン都市大阪を目指して』というカタカナの多い、長い名前のフォーラムに参加しました。これ、今秋、大阪市内で開催される数多くのデザインイベントを広報の側面から支援する大阪市の『クリエイティブストリームオオサカ』(また、カタカナばかり…)の活動の一環として計画されたものです。いやはや、あまりのカタカナの多さにこのコラムを書きながらも自分でも何を言っているのかよく分からなくなってしまいそうです。
その催しの前夜、twitterで、なにげに大阪市長のつぶやきを聞いてみると「帰宅途中です。明日は昼から中央公会堂でご挨拶、その後市役所玄関ホールでシンポジウムに参加します。クリエイティブストリームオオサカのキックオフイベントです」とあるではないですか。それに対して「カタカナばかりですね。日本語でいうとどうなりますか?」という市民からのつぶやき。今度は市長が「玄関広間で集団討議、大阪の創造的流れの開始行事です」(汗)…。と、返信。まるで漫才を聞いているような会話です。突っ込みのセンスよさ。返信の見事さ。これは相当のコミュニケーション力です。笑いは極めて高度なコミュニケーションによる相互理解から生まれるもの。この会話に僕も思わず乗って「その集団討議に参加する三木健です。明日、何話そうかな。考えても仕方ないか。言葉は生き物。みんなの言葉を受け止める脳のすき間をしっかり開けておくだけ。借景ならぬ借脳で行こうっと」と、つぶやいてみると、市長から「オォ!三木さんもツイ繋がりですね。明日、楽しみにしています」と。市長の返信に心がなごみます。「いっしょにやりまひょ!」がキャッチフレーズの市長。「ほな、いっしょにやりまひょ!」と心で叫んで翌日を迎えます。
そのカタカナいっぱいの討議(フォーラム)ですが、まず壇上に市長が上がり、特別顧問に就任された喜多俊之さんを迎えての対談。その後が僕たちの出番です。『大阪を「デザイン」で輝かせる』が議論のテーマ。わかりやすさの設計・地域らしさの設計・活力と経済を生み出す設計といった3つの視点から『暮らしとデザイン』豊かさってなんだろう?・『交流とデザイン』 わくわくするってなんだろう?・『観光とデザイン』地域らしさってなんだろう?・『環境とデザイン』持続可能ってなんだろう?・『経済とデザイン』 潤うってなんだろう?と、5つの質問にパネラーが答える流れ。そのパネラーの言葉の断片が、直ぐさま編集者により切り取られてスクリーンに投影されていきます。パネラーの言葉がどんどん積み上げられて、まるで情報の建築物が建っていくような感じです。通常、デザイナーのセミナーは、ほとんどが自らのデザインを持ち出し、その発想や背景を語るものです。しかし、今回はそれぞれのパネラーが言葉でヴィジョンを可視化する試み。よって、自己紹介の5枚のスライド以外は、5つの質問に関するスライドのみ。観客のみなさんの脳の中でも議論が進むと同時にスクリーン上に積み上げられるキーワードによって刺激を受け、それぞれの経験や価値と共にいくつもの情報が建築物のように可視化されていくのではと想像します。
まさに「話すデザイン」が繰り広げられていきます。大阪市の大きな吹き抜けの玄関ホールを特設会場にした議論の場、これぞ公共空間の大きな『すき間』の有効利用です。『すき間』があることで活用が多彩になる。これを機にこの空間で「演劇なんかが開催されたらいいのにな」と僕は、壇上で密かに考えていました。その時です、進行の間宮吉彦さんから「三木さんの考える暮らしとデザインについて,豊かさってなんでしょう?」と、質問が…。
僕は、とっさに「そうですね、暮らしの中に『すき間』をつくることでしょうか。地域主権や地域経営が叫ばれていますが、例えば、大阪市が『デザインの日』と『暮らしの日』を設定して休日という『すき間』つくるとします。9月20日敬老の日、続いて21日を『デザインの日』にする。そして、22日を『暮らしの日』として23日の『秋分の日』に続けて、大阪市の『秋のゴールデンウィーク』をつくる。そうすることで、5月のゴールデンウィークに観光や経済が集中するのを緩和する。暮らしに『すき間』をつくるという仕組みを設計することがデザインといえないだろうか。デザインは、色やカタチも重要だけど…。『すき間』が暮らしに豊かさを生み出すように思います」と、発言。(この続きは、USTで聞いてね!なぜか、市長と喜多さんの始まりは、音声が途切れていますが…。)パネラーの服部滋樹さんの微笑みながらのうなずきに僕は調子に乗って、「大阪市は、5月の連休を返上するとか?」と話すと、会場からクスクスと笑いが。「オォ!笑いによる相互理解です」。
こんな感じの議論でしたが、ちょっと、残念だったのは、この中に女性のデザイナーがいなかったことです。たくさんの優秀な女性のデザイナーがいるわけですから、彼女達の考える大阪について聞いてみたかったと思いました。また、時間の都合上『経済とデザイン』 潤うってなんだろう?が議論されずに終わったことです。とはいえ、デザインが、暮らし・交流・観光・環境・経済、これに加え教育や医療や福祉などあらゆる分野に有機的に繋がり、その関係性の中から『大阪を元気にする』役目を担うことであるという趣旨はメッセージしたつもりです。でも、時間の関係や言葉足らずで、上手く届いていないようなら、このような機会を頻繁につくり、多くの人とデザインについて語れればというのが僕の思いです。
平松市長、またいつか『大阪とデザインについて』語らせてくださいね。「いや、カタカナあらため、『大阪と設計について』いっしょにやりまひょ!」(笑)。

三木組奮闘記『考現学百貨店』

長い夏休みが終わって久しぶりの大学です。僕の授業は、選択科目。よって、前期と後期で学生が「ごろっ」と入れ替わります。まずは、授業方針と僕の活動をスライドで説明。その後、前期の学生達の課題への取り組み方を紹介。観察と想像からコンセプトを発見して、デザインへと繋いでいくプロセスは後期も変わりません。ただ前期とちょっと違うのは、クラス全体で作り上げるプロジェクト。個人のデザインワークを完成させると同時にクラス全体で一つのプロジェクトへと完結させていく醍醐味を学ぶ授業になっています。
さて、後期の課題は『考現学百貨店』

。聞き慣れない名称にみんなキョトンとしています。「みなさん、考現学という言葉を聞いたことがありますか?」。誰も手が上がりません。「それでは、考古学という言葉を知っている方」。大勢の手が上がります。
考古学は、人類が残した痕跡などの研究を通し、過去の人たちの暮らしや文化を知ろうとするもので、人類の活動とその変化を研究する学問です。これに対して考現学は、現代の社会現象を場所・時間を定めて組織的に調査・研究することで、いまに暮らす人々のありのままの姿を浮かび上がらせ、世相や風俗を分析・解説しようとする学問です。『考現学』は、大正時代の末期に日本で始まった学問で、建築学者だった今 和次郎(こん わじろう) が、1927年に開催した『しらべもの(考現学)展覧会』がその起源だそうです。
まず、考現学の手法を使って現代の大阪を独自の視点で観察してもらいます。学生達とのディスカッションでは、通天閣の界隈や大阪環状線の界隈などいくつかの候補が挙がりましたが、最終的には、多数決で大阪に決定。もう少し、狭いエリアの方が色濃く観察出来るかもと思いましたが、彼らの意見を尊重。続いて、その観察の方法を紹介。例えば、飲屋街の看板ばかりを観察する人、町中のマンホールばかりを観察する人、また、大阪のおばちゃんばかりを観察する人、電車の中での座り方やしぐさばかりを観察する人など、それぞれがユニークなテーマで路上観察や人間観察を進めていきます。暮らしの中から独自の視点で切り取った風景を徹底して観察することで、見ているつもりで見ていなかったモノやコトを発見していきます。30名のクラスであれば30の視点による観察記録が誕生し、そこに思いもよらなかった町の風景が立ち上がり、さらに文化や人の気質までもが浮き彫りになるかもしれません。

そして、その観察記録を手がかりに、独自のモノやコトを発想する個人のプロジェクトへとアイデアを展開してもらいます。例えば、飲屋街の看板ばかりを観察する人は、『水モノ研究所』と銘打ってオリジナルな飲料水を販売する店を作ったり、マンホールばかりを観察する人は、その多様な文様の研究から『地模様製作所』と銘打って地域に密着した文様のデザインで商品開発をはじめたり、また、大阪のおばちゃんを観察する人は、『浪速いちびり案内人』と銘打って、大阪のおばちゃんをナビゲーターとするディープな大阪情報を知らせる出版物を制作したり、電車の中での座り方やしぐさをばかりを観察する人は、『無意識・プロダクト』と銘打って人の行為や状況をコンセプトとするデザインを提案したりと考えるかもしれません。このように今回の課題では、まず大阪をテーマに暮らしを考察するために町に出かけ路上観察をはじめます。「あれっ」や「おやっ」と思うものを各自が最低でも一つのテーマで50以上の観察記録にまとめます。そして、それらを手がかりに独自のプロジェクトのアイデアを発想していきます。そのプロジェクトのネーミングや、扱うモノやコトを各自が企画・デザインして、
最終的にはそれぞれのプロジェクトを持ち寄り『考現学百貨店』という空想の百貨店を計画するのです。

想像してみてください。

30名のクラスであれば、30の視点による各50以上の観察記録で1500以上の風景が一つとなって立ち上がってくるのです。そこに30のプロジェクトによるショップが展開されます。ちょっと、楽しそうな百貨店だと思いませんか?ローカルの楽しさが際立って、ヒューマニティ溢れる暖かさが伝わってきて、知らなかった暮らしの風景にワクワクする。そんな空間でユニークなモノやコトを販売する。『考現学百貨店』。
ちょっと楽しいトキメキを感じる空間が出現するように思えるのです。課題説明後は、まず「三木組クラス全員のキャラクターを観察してみよう!」と、8コマ連続撮影のQuadCameraで彼らの表情を撮影していきます。欠席者は後日の撮影です。GIFアニメの数秒の中で即興のパフォーマンスを行います。たった数秒の中でもカメラを向けられた時の緊張と、アドリブのパフォーマンスをみんなに見られている恥ずかしさと、終わった瞬間の緩和がそれぞれの個性を浮かび上がらせます。僕も撮影してもらって三木組後期のスタートです。この映像が『考現学百貨店』の入り口に掲げられると想像すると、店主の気質が垣間みられる百貨店が出現するように思えます。人と人が対話する。そこには、なんらかのカタチでその人の個性が投影されていきます。学生達の切り取ってくる風景によって、どんな大阪が浮上するのだろうか? 乞うご期待!


de sign de > talk 01 >

来春、開設予定の中之島デザインミュージアム de sign de > (デザインで)のプレイベントとして開催されるトークショー(5回シリーズ)の1回目が9月9日(木)に行われます。第一回は、服部滋樹さんと橋本久仁彦さんの対談。テーマが「コミュニティのための場とプログラム」だとか。どんな話になるのかは当日の楽しみとして、僕がこのテーマを聞いた時に「ピン」と閃いたのは、「コミュニティという人と人がつくりだす場は、自然の摂理や生命の仕組みとよく似た形態ではないだろうか?」という仮説でした。つまり、人という動物が集まって場やプログラムを考えるのだから、淘汰や分裂や融合をしながら生成を繰り返すのではと考えたのです。もちろんそこには、秩序やルールやヴィジョンといった知恵も存在しますが、もっとプリミティブな「暮らし」の中にみる「営み」や「持続性」から導かれる「生きる」といった極めて根源的な所に根ざしているのではないだろうかと思った次第です。そこで、何億という精子が卵子とランデブーする「妊娠」に生命の根源的なコミュニティの始まりを想像したのです。母体は、いわば偶然の出会いともいえる小さな生命を育てるコミュニティの場ではないだろうか?人間における十月十日という妊娠期間は、最小のコミュニティが育まれるプログラムといえないだろうか?と、どんどん妄想が広がってきたのです。服部滋樹さんと橋本久仁彦さんの考え方がどのような話に進展するかは、まったくわかりませんが、このテーマを独自の仮説で彼らにぶつけてみることで、いわゆる情報を正確に伝えるアナウンスとしてのデザインの役目から、モデレーターやニュースキャスターやジャーナリストのような視点で問いかけるデザインのあり方を模索してみたくなったのです。
この de sign de > talk は、講演者が一方的に話し、オーディエンスが聞き役にまわるようないわゆるトークショーではないカタチが望ましいと思っています。僕は、コミュニケーションのデザイナーとして多くのデザインの生成に立ち会ってきました。勝手な思い込みかもしれませんがコミュニティの形成と自然の摂理や生命の仕組みに因果関係があるのではと思えてならないのです。その辺りをスピーカーに尋ねてみたいという想いが、このポスターの制作意図です。みなさん、ぜひ、服部滋樹さんと橋本久仁彦さんのトークショーに参加してみてください。僕もオーディエンスの枠を超えて参加できればと思っています。ちょっとドキドキしてきました。みなさんの声でつくる de sign de > talk 。まもなく、はじまり、はじまり。


de sign de > talk 01 >
第1回「コミュニティーのための場とプログラム」
話し手:橋本久仁彦(プレイバックシアタープロデュース代表)X 服部滋樹(クリエイティブディレクター・デザイナー)
開催日時:2010年9月9日(木曜)/開始19:00 – 20:30終了予定(受付18:30 会場入口にて)
参 加 費 :¥1,000(1ドリンク付)
定  員:60名(椅子席は先着順/立見あり)予約不要
○ 終了後にコミュニケーションパーティあり(参加自由・ドリンク有料)
会  場:中之島デザインミュージアム de sign de >
大阪市北区中之島5-3-56 中之島バンクスEAST www.designde.jp
主  催:中之島デザインミュージアム de sign de >
問合せ先:中之島デザインミュージアム de sign de > 事務局 (担当:大野)
〒542-0082 大阪市中央区島之内1-19-15 高吉堺筋ビル9F(有限会社イン内)
Tel. 06-6243-4330 E-mail : info@designde.jp

de sign de > talk とは:中之島デザインミュージアム de sign de > のオープン先行イベントの一環で、de sign de > コミッティメンバーによるリレートークです。2011年春のグランドオープンを前に、de sign de > が目指す活動の輪郭を対談形式のトークセッションで伝えていこうとする試みです。