KenMiki & Associates

三木組奮闘記『考現学百貨店』

長い夏休みが終わって久しぶりの大学です。僕の授業は、選択科目。よって、前期と後期で学生が「ごろっ」と入れ替わります。まずは、授業方針と僕の活動をスライドで説明。その後、前期の学生達の課題への取り組み方を紹介。観察と想像からコンセプトを発見して、デザインへと繋いでいくプロセスは後期も変わりません。ただ前期とちょっと違うのは、クラス全体で作り上げるプロジェクト。個人のデザインワークを完成させると同時にクラス全体で一つのプロジェクトへと完結させていく醍醐味を学ぶ授業になっています。
さて、後期の課題は『考現学百貨店』

。聞き慣れない名称にみんなキョトンとしています。「みなさん、考現学という言葉を聞いたことがありますか?」。誰も手が上がりません。「それでは、考古学という言葉を知っている方」。大勢の手が上がります。
考古学は、人類が残した痕跡などの研究を通し、過去の人たちの暮らしや文化を知ろうとするもので、人類の活動とその変化を研究する学問です。これに対して考現学は、現代の社会現象を場所・時間を定めて組織的に調査・研究することで、いまに暮らす人々のありのままの姿を浮かび上がらせ、世相や風俗を分析・解説しようとする学問です。『考現学』は、大正時代の末期に日本で始まった学問で、建築学者だった今 和次郎(こん わじろう) が、1927年に開催した『しらべもの(考現学)展覧会』がその起源だそうです。
まず、考現学の手法を使って現代の大阪を独自の視点で観察してもらいます。学生達とのディスカッションでは、通天閣の界隈や大阪環状線の界隈などいくつかの候補が挙がりましたが、最終的には、多数決で大阪に決定。もう少し、狭いエリアの方が色濃く観察出来るかもと思いましたが、彼らの意見を尊重。続いて、その観察の方法を紹介。例えば、飲屋街の看板ばかりを観察する人、町中のマンホールばかりを観察する人、また、大阪のおばちゃんばかりを観察する人、電車の中での座り方やしぐさばかりを観察する人など、それぞれがユニークなテーマで路上観察や人間観察を進めていきます。暮らしの中から独自の視点で切り取った風景を徹底して観察することで、見ているつもりで見ていなかったモノやコトを発見していきます。30名のクラスであれば30の視点による観察記録が誕生し、そこに思いもよらなかった町の風景が立ち上がり、さらに文化や人の気質までもが浮き彫りになるかもしれません。

そして、その観察記録を手がかりに、独自のモノやコトを発想する個人のプロジェクトへとアイデアを展開してもらいます。例えば、飲屋街の看板ばかりを観察する人は、『水モノ研究所』と銘打ってオリジナルな飲料水を販売する店を作ったり、マンホールばかりを観察する人は、その多様な文様の研究から『地模様製作所』と銘打って地域に密着した文様のデザインで商品開発をはじめたり、また、大阪のおばちゃんを観察する人は、『浪速いちびり案内人』と銘打って、大阪のおばちゃんをナビゲーターとするディープな大阪情報を知らせる出版物を制作したり、電車の中での座り方やしぐさをばかりを観察する人は、『無意識・プロダクト』と銘打って人の行為や状況をコンセプトとするデザインを提案したりと考えるかもしれません。このように今回の課題では、まず大阪をテーマに暮らしを考察するために町に出かけ路上観察をはじめます。「あれっ」や「おやっ」と思うものを各自が最低でも一つのテーマで50以上の観察記録にまとめます。そして、それらを手がかりに独自のプロジェクトのアイデアを発想していきます。そのプロジェクトのネーミングや、扱うモノやコトを各自が企画・デザインして、
最終的にはそれぞれのプロジェクトを持ち寄り『考現学百貨店』という空想の百貨店を計画するのです。

想像してみてください。

30名のクラスであれば、30の視点による各50以上の観察記録で1500以上の風景が一つとなって立ち上がってくるのです。そこに30のプロジェクトによるショップが展開されます。ちょっと、楽しそうな百貨店だと思いませんか?ローカルの楽しさが際立って、ヒューマニティ溢れる暖かさが伝わってきて、知らなかった暮らしの風景にワクワクする。そんな空間でユニークなモノやコトを販売する。『考現学百貨店』。
ちょっと楽しいトキメキを感じる空間が出現するように思えるのです。課題説明後は、まず「三木組クラス全員のキャラクターを観察してみよう!」と、8コマ連続撮影のQuadCameraで彼らの表情を撮影していきます。欠席者は後日の撮影です。GIFアニメの数秒の中で即興のパフォーマンスを行います。たった数秒の中でもカメラを向けられた時の緊張と、アドリブのパフォーマンスをみんなに見られている恥ずかしさと、終わった瞬間の緩和がそれぞれの個性を浮かび上がらせます。僕も撮影してもらって三木組後期のスタートです。この映像が『考現学百貨店』の入り口に掲げられると想像すると、店主の気質が垣間みられる百貨店が出現するように思えます。人と人が対話する。そこには、なんらかのカタチでその人の個性が投影されていきます。学生達の切り取ってくる風景によって、どんな大阪が浮上するのだろうか? 乞うご期待!