KenMiki & Associates

絵具の雨とい

僕の事務所の打ち合わせ室に飾っている絵の作者で、現代美術作家の山本浩二さんのアトリエで素敵なものを見つけました。彼とは古くからの友人で、展覧会の図録や著書の装幀などを僕がデザインしていていろんな刺激をもらっています。秋にイタリアで開催する大きな展覧会のためにアトリエにこもりっきりというので、陣中見舞いと打ち合わせを兼ねてお邪魔した時の話です。彼の作品の企業秘密だそうですが、絵の背景にあるマチエールを創り出すのに試行錯誤を繰り返した結果、キャンバスをある角度に傾けて絵具を上からたらしてベース地を創っていくそうです。その際、使用済みの絵具の空箱をずらっと並べてキャンバスを流れる絵具を受け止めるとのこと。その空箱、いろんな色の絵具が重なってまるで陶器のような不思議なオブジェになっているではありませんか。
偶然の代物なのですが、作家のアトリエでの創作活動に立ち向かう凄まじい格闘を受け止めてきた気迫のようなものがこの箱の中に閉じ込められているようで気に入ってしまいました。そして、何より「美しい」と感じたのです。
画伯に無理をお願いしてアトリエの隅に積み上げられた沢山の中から選りすぐりの3点をいただくことになりました。それに、ちゃっかりサインをしてもらって僕の事務所のコレクションに。
また、彼の作品の中でも僕の好きな『赤味のある黒』や『黄味のある黒』の作品を制作する際には、「黒だけの同様のオブジェがもう一つ欲しいので、他の色を混ぜずに残しておいてね」という図々しさ。おまけに「『陰翳礼賛』のイメージで、かすかな黒の差異の中にもう一つの黒が浮かぶように」と依頼して呆れられてしまう始末。
名付けて、傾いたキャンバスの屋根を流れる『絵具の雨とい』。自然光の入る白い壁にこの3点のオブジェを並べると、絵具の雨に光る『虹』のようで素敵です。