KenMiki & Associates

三木組奮闘記「感服・感動・感激」

僕の授業は、選択科目。今週の7月24日が前期の最終授業。夏休みの後は、いまのクラスが、ごろっと入れ替わり、新しい学生達と後期の授業がはじまる。三木組、前期の学生達(三回生)とは、ひとまずお別れ。「寂しいな…」。よって、先々週から始まった課題『観光』のプレゼンテーションが三木組の卒業制作となります。
今回の課題は、グループによる制作。個人制作の課題よりも質・量ともにハードルを高く設定。心配なのは、グループ制作ゆえに個人の力量が平均化されてしまわないかと懸念するところです。締め切り日を最終授業の2週前に設定したのも、プレゼン内容によっては修正を繰り返すケースがあると睨んだからです。だって、三木組の卒業制作ですから…。学生たちにやりきった仕事の後に残る、誇りと自信を知ってもらうため、最大限の「本気」でデザインに取り組んでもらいたいのです。この「本気」が「やる気」や「その気」を生み出し、すごいパワーとなるのです。前回の課題『地図』で「本気」になったことで、自分も気づいていなかった「自分」を発見した人は、「もう一丁やるか」と腕まくりをしているし、本気になりきれず悔しい思いをした人たちの「今度こそは」の闘志が教室内に漂ってきました。
しかし、先々週のプレゼンでは、ほとんどのグループが「やり直し」。もしくは、自主的に「やり直す」と宣言。前回の課題の『地図』の作品でクラス全体に衝撃を与えたOさんが、今度はグループ制作でどんな提案をしてくるのか、みんな興味津々です。
さぁ、Oさんグループの『観光』のプレゼンテーションが始まりました。コンセプトは、「縁結び」。縁結びを男女の縁の成就だけにせず、心と心を結ぶ、人と人の「結び」と捉え、大阪にある3つの縁結びの神社や寺を結ぶ「大結(おおむすび)」と題した「大阪縁結祭」というイベントを企画してきました。イベントの全体を象徴する「大結」のロゴマークと実際にイベントを展開する高津宮(こうずぐう)・勝鬘院(しょうまんいん)・生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)のロゴタイプが、漢字のルーツや神社や寺のいわれを紐解きながらていねいにデザインされています。イベントの計画をデザイン化するだけでも大変なのに、それぞれの神社や寺のタイポグラフィのリ・デザインまでされているのです。コンセプトの組み立て方にブレがありません。ローカリティについて、アイデンティティについて、ポテンシャルについて、全てをクリアーしています。徹底してリサーチした様子がプレゼンシートから滲み出ています。
あえて、注文をつけるならば各神社のタイポグラフィの精度をもう少し上げると、さらにレベルが上がりそう。しかし、これだけの企画力とデザイン力。モノやコトをしっかり見つめる目を持っているので僕の美意識を重ねる必要なし。本物をどれだけ見るかで目が鍛えられるはず。それぞれのデザインに添えられた文章も過不足なく、しっかりと考え方が伝わってきます。アプリケーションもイベントのパンフレットから各神社のお守りや絵馬まで徹底してつくり込まれています。なんと、お弁当の「おむすび」までが準備されていて、すべてが「結び」のコンセプトで貫かれているのです。プレゼンを聞く学生達は、唖然として彼女達の作品に釘付けになっています。「ローカリティを掘り下げて、文化を見つめること」。「デザインリテラシーを身につけ、物語性のあるデザインをつくること」。「伝わる・気づく・感じるの3つの視点で、新しいコミュニケーションのあり方を提案すること」。口を酸っぱくして伝えてきた僕の授業のポイントをしっかりと定着させてきています。製作期間は、約7週。その大半がコンセプトやリサーチに費やされ、後半の2週間でデザインに仕上げてきています。
たいしたものです。彼女達の本気度、すごいと思いませんか。いや、すごいどころではありません。僕の身体が「ジーン」と熱くなってきました。留学生のKさん「プロですね!」と一言。前回の課題『地図』の提案以降、闘志を内に秘めて今回の課題『観光』に力を注いでいるYさん。「5人のチームなので、力がもっと分散されてしまうのではと思っていたが、すごい」。「うぅ〜」。授業終了後、Oさんのグループの一人に「どうだった?」と尋ねてみると、「しんどかった。すごかった。勉強になった」と、疲れた顔の奥に満足気な表情が現れています。感服・感動・感激。すごいチームの登場です。いやはや、えらいことになってきました。三木組。その気、やる気の気配が教室内にみなぎっています。留学生のKさんも、闘志を燃やすYさんも、一歩も引き下がらない覚悟が出来たのか、目が輝いています。次回の三木組奮闘記。どえらいことになりそうな予感。目が離せなくなってきました。