KenMiki & Associates

第4回エコ・プロダクツデザインコンペの審査員をお引き受けした際に告知ツールのデザインを依頼されました。まず、資源や経済の観点から紙媒体の有無などを検討しましたが、デザインコンペを知らせる情報の入り口としてポスターやチラシが必要であろうと判断。できる限り環境や経済に負担を与えないデザインを目指します。しかし、いざデザインを進めていくと行き詰まってしまいます。悩んだあげく、明解に趣旨を伝えるために必要な情報をタイポグラフィでデザインすることに。徹底した引き算で、スミ1色。インク使用量に配慮して色ベタは使わない。色校正もとらない。文字校正は青焼きのみといった方針をたてます。コンセプトは、以前に読んだ松岡正剛さんの「フラジャイル」から刺激を受けて「弱さからの出発」です。ある種、覚悟を決めた瞬間、僕の脳裏に「ポン」っと浮かんだのは「小さな声を聞き逃さない耳。産毛すら見える目」といった、極めて繊細な感覚が研ぎすまされていくようなイメージが広がってきたのです。A4サイズでわずか0.2ポイントといったトンボ(印刷時の仕上がりサイズに断裁するための位置や多色刷りの見当合わせのため、版下の天地・左右の中央と四隅などに付ける目印)よりもさらに細いラインの集合でデザインを進めます。弱さが共鳴して響く「強さ」をイメージしたデザインです。交差する細いラインに抜かれたECO PRODUCTS DESIGN COMPETITION 2010 の文字、ディスプレイ上のどの白よりも白く見えませんか? 印刷物を見ればもっと鮮明に白が浮かび上がってきます。まるで白が発光しているようにすら感じませんか? 実は、細いラインが共振し合って人の目に錯視が働いているのです。だから白い部分は、線の間も、外側の白も、文字の白も、みんな同じ白。
ポスターやチラシの入稿時に原寸サンプルのデザインを見た印刷会社の方が「グレーの特色いただけますか?」と。「えぇ、どのグレーですか?」。「このあたりの」。「このデザイン、スミ1色なんですけど」。「えぇ! そっ、そうなんですか?」。「やったー」。印刷の専門家が勘違いするぐらい文字が白く映り、他の白がグレーに見えているようです。同じ白を見ているのにの違う白に映る。弱く壊れそうな線の中から浮かび上がる光のような白。観点を変える。気づきに気づく。最小の表現で最大の効果を。僕の考えるエコロジーに対する一つの回答です。

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