KenMiki & Associates

三木組奮闘記『旅』前編

大阪芸術大学デザイン学科、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。三回生後期、二つ目のテーマは『旅』。学生達の誘う『旅』の提案。さて、どこへ連れて行ってくれるのでしょうか。「おっ、始まりました『三木組ツアーズ』の添乗員達のプレゼンテーション」。みなさんも彼らの提案する『旅』にご一緒しませんか。

『ちいさな摂津』
大阪にある『摂津市』の魅力を知らせる書籍をデザインしてきたSさん。ローカルの『摂津市』を知らせるために「宇宙から見た『摂津市』とは?」というコンセプトで語り始めました。宇宙学校に通う3人の学生が地球見学に来るという設定で日本を選択。住所をコンピュータに入力したものの誤作動があり『摂津市』に着陸という物語です。「宇宙のこのへんの、地球のこのへんの、日本のこのへんの、大阪のこのへんの、摂津市という場所に…」から始まる巻頭。宇宙というマクロから眺めた『摂津市』をミクロと捉え「このへんの」という表現で、ローカルの位置関係を知らせるセンスの良さ。彼女のプレゼンを聞きながら、その昔、イームズの『Powers of Ten』を見た時の感覚が僕の脳裏に蘇ってきました。そして、『摂津市』の詳細を身近なモノに比喩しながら物語が展開していきます。例えば、『摂津市』の面積を知らせるのも「たこ焼き100億個ぐらいを並べた大きさで、大阪城、9つ分」といった具合。また、市内の35の町名も語呂合わせで楽しく紹介。個性のあるイラストレーションを使った「わかりやすさの設計」が随所になされています。Sさんのプレゼンに三木組のみんなが魅了されていきます。囲碁将棋や経営の世界でよく使われる言葉、「着眼大局、着手小局」。まずは現状を把握し、仮説を立ててわかりやすく示す(着眼大局)。そのうえで、細部を丁寧に語っていく(着手小局)。きっと、そんな視点が根っから備わっているんでしょうね。見立て上手は、可視化上手。『ちいさな摂津』のタイトルが全てを言い表しています。

『空の停留所』
Sさんのプレゼンテーションが始まりました。静かな口調でコンセプトが語られていきます。「あなたは最近どんな空を見ましたか?空はあなたを元気にします。広い空の下で、ふーっと深呼吸してください。思いっきり吐いて空を全部吸ってください。空っぽの空。力一杯のあなた。たまには深呼吸して、今日は休息、明日からまた再出発。大切なのは、目的地ではなく、旅そのもの。あなたの空の旅を完成させてください」。「さあ、空を見に行こうよ」と、詩の朗読のようです。彼女曰く「『空』は『そら』・『から』・『くう』と読むでしょ。『から』っぽの、何もないけど全てが存在している『くう』の『そら』。その『空』が私の『旅』の対象。つまり、自分を見つめ、何かに気づく、これが『旅』なんです」。「ほう~」。「そんなわけで『空』のキットをデザインしました。中には『空日記』と題したいろんな空の表情を閉じ込めた日記帳や、『今日の空色模様』と題したたくさんの空色色紙や、『空気ハンカチ』と題したふわふわハンカチや、『空っぽ音楽』と題されたCDなどが納められています」。自分自身と対話する『旅』。『空の停留所』は『気づき停留所』でもあるようです。

『ひなたほっこり。』
「ひきこもりがちなあなたへ。ひなたぼっこのように心をほっこりさせませんか。ひなたぼっこでほっこり」と書かれたコンセプトシート。どうやら、Aさんの『旅』は、リラクゼーションへの誘いのよう。彼女によると、芝生の上に寝っころがって昼寝をすると『ほっこり』するらしいのです。「そこで『ほっこりする寝』の旅にみなさんを誘いたいと考えました」。「自然の中で昼寝をすることを『旅』と捉えるの?」。「はい」。「ということは、『大地の敷き布団』と『空の掛け布団』の間で昼寝をするわけだ」と僕がつぶやくと、次の打ち合わせを待つ学生が「素敵!」と。「そうだ!私『ひなたほっこり』のグッズいっぱい作ります。自然の感触を届けてキャンペーンにします」。そんなわけで芝の感触のグッズがいっぱい準備されることに…。『感触のプロダクト』ユニークなアプローチです。

『香川県観音寺市大野原町』
四国の香川県出身のI 君が選んだ旅先は、実家の『観音寺市大野原町』。I 君のプレゼンテーションが始まりました。「ここは何もない町。ビルもない。デパートもない。空と田んぼだけしかない。なんだか少しさびしくなる。だけど…。ここには、すべての源がある。家族がいる。人がいる。自分がある。ぜんぶある町。あの町に戻ろう。心は裸のままで」と、自分の育った町を思う気持ちを切々と語ってくれます。誰にもある居心地のいい場所。『旅』を起点にふる里を見つめる。町と記憶。I 君の遺伝子に刷り込まれた『香川県観音寺市大野原町』の時間と空間と人間。それらをつなぐ「間(ま)」。『旅』は「間」を行き交うことで刷り込まれていく体験の記憶なのだと、彼の瞳が語っているように思いました。

『三木組奮闘記・旅』の前編いかがでしたか?三木組のみんなそれぞれに『旅』をしてるでしょ。コンセプトを組み立てるのに迷子になったり、道草をし過ぎて元に戻れなくなったりと、彼らの中では色々あった様子ですが、そのプロセスの中で何かを発見する。これがまさに『旅』なんですよね。『三木組奮闘記・旅』の後編もご期待くださいね。