KenMiki & Associates

『秀英体』という書体をご存知でしょうか?
大日本印刷の前身、秀英舎・製文堂が明治末期に完成させた明朝書体で、東京築地活版製造所の『築地体』と並び、「明朝活字の二大潮流」と呼ばれた書体のこと。ちょうど100年前の明治45年(1912)に誕生して、現在のフォントデザインに大きな影響を与えた書体。いわば、日本の明朝体のふる里のような存在。その『秀英体』の生誕100年を記念して、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で24名+1組のデザイナーによるポスター展が開催されることになりました。監修が永井一正さん。テーマは、『秀英体』を使って「四季」を表す。僕への依頼は「冬」。そのデザインが、ここに掲載したポスターです。
「なんじゃ、これっ!」とお想いの方がたくさんおられるでしょうね。PCではちょっとわかりづらいのですが、画面から1m程離れてじっと見つめていただくと、大小の『雪』という漢字がラインの中に浮かび上がってきませんか。もう一度画面に近づき、さらに画面から25cmぐらいまで近づいてみると先程まで見えていた『雪』が消えていきませんか。実際の印刷物(B1サイズ)をご覧いただくと、離れた距離からポスターを見るとくっきり『雪』が浮かび上がり、近づくと『雪』が消え、さらに近づくと『雪』の結晶のようなラインが見えてきます。
僕がイメージしたのは、凛とした表情の秀英明朝の『雪』の文字が舞う情景。近づいて手を差し伸べると、まるで『雪』が溶けるように文字が消えていく。墨一色。漢字一文字。文字と人の対話が距離によって変わっていく。そんな状況を作り出すポスターです。
原寸サイズで1ptの細いラインで構成されたこのデザインをスノーホワイトのような白色度の高い紙に刷る。壊れそうなぐらい弱い表現。黙礼のような静かなコミュニケーション。この書体を使う人や読む人の記憶を甦らせる情景を生み出すデザイン。
つまり、文章を読む人が文字の存在すら消えるくらい流れるように読め、ある時、違う書体で組まれた文章を読んだ時に、あの心地よい流れに戻りたいと思い出す書体が真の美しさであると思うのです。個性と協調。そこに人の紡ぎ出す物語と相まって文字が生成されていくのです。単体の美しさはもちろんのこと、組まれた佇まいに気品が宿る。それが文字の品格となって表れてくるのです。記憶に残る文字。それは、『秀英体』が多くの書体に与えたであろう明朝体の遺伝子のように永遠に受け継がれていくと思うのです。



第294回企画展
秀英体100
2011年1月11日(火)-1月31日(月)
11:00a.m.-7:00p.m. (土曜日は6:00p.m.まで) 日曜・祝祭日休館/ 入場無料
ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg)
東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル tel.03-3571-5206

巡回展
dddギャラリー第179回企画展 2011年3月22日(火)-5月11日(水)
CCGA現代グラフィックアートセンター企画展 2011年6月11日(土)-9月11日(日)

新作「秀英体の四季」
出展作家 25名 : 浅葉克己・井上嗣也・葛西 薫・勝井三雄・佐藤晃一・佐野研二郎・澁谷克彦・杉浦康平・杉崎真之助・祖父江 慎・高橋善丸・立花文穂・永井一正・中島英樹・長嶋りかこ・仲條正義・中村至男・南部俊安・服部一成・原 研哉・平野敬子・平野甲賀・松永 真・三木 健 +コントラプンクト(デンマーク)