KenMiki & Associates

犬島

連休に岡山県南東部にある『犬島』に出かけました。宝伝という船着き場から80人乗りの定期船で5分ほどで着く小さな島です。目的は、この島にある『犬島アートプロジェクト』と名付けられた『精錬所』を訪ねるためです。ベネッセ・アート・サイトが瀬戸内海で展開する一連の美術施設の一つがこの島にあります。
さて、100年ほど前に瀬戸内海の島々に建設されたという『精錬所』。銅の精錬時に発生する煙害対策や原料輸送の利便性からこの地が選ばれたそうで、銅の大暴落と共に約10年ほどで操業を終えたと聞きます。その『犬島』にある『精錬所』を建築家、三分一博志さんが岡山大学環境理工学部と協働して自然エネルギーを有効に使う循環型の環境システムを導入してリノベーションしたのがこの施設。植物の力を借りた高度な水質浄化システムや太陽や地熱を上手く再利用する空調や照明。そして、周辺環境に即した植物を植えることで自然環境を取り戻す計画など、持続可能な環境システムについてずいぶん考慮されたプロジェクトです。また、近代化産業遺産群として経済産業省から認定されているこの『精錬所』は、当時のカラミ煉瓦や大煙突をそのままに保存しながらミュージアムとして再生されています。ちなみにカラミ煉瓦とは、銅の精錬過程で発生する鋼滓(こうさい)と呼ばれる酸化鉄などの不純物からなるもので、実際に触れてみると太陽熱によって暖かく感じます。このプロジェクト、新たな地域創造のモデルとして循環型社会を意識した取り組みと捉えることができるように感じました。
そして、柳幸典さんのアートワーク。ここでも建築と協働するように5つのスペースに作品が展開されています。僕が柳幸典さんの現代美術に興味を持ったのは、ずいぶん前。『ザ・ワールドフラッグ・アント・ファーム』という「蟻が国旗を浸食する作品」で衝撃を覚えたのがこの作家を知るきっかけでした。そして、屋外に出ると今度は、いまにも崩れそうな立ち入り禁止区域も残されていてる『精錬所』の廃墟の中を散策することに。自然と産業遺産と建築と美術。これは一見の価値有りの代物です。そして、今後予定されている第二期の犬島アートプロジェクトの設計者が妹島和世さんというから、今後ますます楽しみなプロジェクトです。
僕は、そんな興奮を誰かに伝えたいと思い、最近はじめたツイッターでつぶやきます。それにいち早く反応してくれたのが、grafの服部滋樹さん。ベネッセ・アート・サイトの本拠地とでもいえる『直島』でアーティストの大竹伸朗さんと創った「『直島銭湯 I ♥湯』もよろしく!」と、つぶやき返してくれます。丁度、僕がミュージアム内でその銭湯のチラシを見ていた時でした。あまりのタイミングに「ビックリ!」です。これぞ、シンクロニシティ。僕も直ぐさま、つぶやき返すという一幕で時間と場所を超えて繋がっていきます。
それから数日が過ぎた昨日のことです。僕と服部さんがつぶやいていたその時、『精錬所』のレストランで僕の隣で「食事をしていました」とtwitterでつぶやく人が出てきました。それもその方、偶然にも服部さんの知り合いときたものだから、またまた「ビックリ!」です。twitter 恐るべし。離島『犬島』でつぶやいたら、僕の隣にいた方が偶然にも知り合いの知り合いで繋がっていたのです。同じ時間に空間を超えて人間が行き交う。 そして、なななんと、その僕の隣に座っていた方の名前が「犬島」さんだというから再々「ビックリ!」です。もう、最大級の「ウヒョー」です。『犬島』の『精錬所』の中でtwitterを通して、偶然にも知人の知人の『犬島』さんが横に座っているとう不思議な体験。僕は、まるでtwitterによって、入れ子の中に閉じ込められたような気分です。以前、服部さんが「twitterは建築だ」と、高らかに宣言していましたが、同じ時(間)に、空(間)を超えて、人(間)が行き交う。これぞ、間(ま)をつなぐメディア。確かにtwitterは、ある種の建築といえるかもしれないと思った次第です。それにしても『犬島アートプロジェクト・精錬所』とても楽しかったです。
大阪からだと日帰り出来るプチ旅行。ちょっと、お勧めですよ!

三木組奮闘記

大学での授業、予想していた以上に大変です。
2回目の授業から『地図』という課題に対して彼らとマンツーマンで話し合っています。真剣に議論をしていて、気がつくと授業時間が6時間をはるかに超えています。スクールバスの最終が近づいているのを学生に教えてもらい慌てて授業を終了する始末。結局、数名の学生の話が聞けずじまいです。話を聞けなかった学生諸君ごめんね。学生達に僕のメールアドレスを知らせましたが、これがまた大変。相談のメールに対して返事を書くのが一苦労。コンセプトの導き方についての内容ですから考え方の考え方を文章にして返信せねばなりません。文章にするのに半日は軽く取られてしまいます。時間配分をもう少し考えないといけません。しかし、36名のクラス。一人10分と単純計算をしても360分。軽く6時間はかかってしまいます。
ひとクラスの人数がちょっと多すぎやしませんか。これじゃ、毎回の課題ごとに合宿でもしないとやっていけない状況です。授業の仕組みそのものをデザインしないといけません。だけど、僕のデザインの根本は、話すようにデザインをする「話すデザイン」。みんなとの対話が最も重要。一方通行じゃ何も始まらない。「ウゥ〜」。そんな訳で3回目の授業もまたまた最終のバスまで。「トホホ…」。そんな過酷な状況ですが学生達の真剣な眼差しを見ていると、彼らにデザインの楽しさやコンセプトを見つけた時の喜びを味わってもらいたいと僕の脳にムチを入れます。学生の中には、僕との議論が終了しても教室でコンセプトを見直し再度打ち合わせにやってくる人もいますし、お喋りに余念のない人もいます。コンセプトの固まっている学生から帰宅をさせますが、僕は最後の一人まで解放されません。当然なんですけどね。
前回の授業前、嬉しいことに僕の「三木組」のコラムを読まれた絵本作家の先生が「課題面白いですね。地図の絵本がありましたので、よろしかったら参考にどうぞ」と、わざわざ資料をお持ちくださいました。(駒原先生ありがとうございました。)
周りの先生にも応援していただきながらの三木組奮闘記の様子、今日は学生達のユニークなコンセプトをいくつかご紹介したいと思います。まず、香川県出身の女子。「私、身体を使って地図を表現したい」。よって「自転車で大阪から実家の香川まで移動しながら空と大地の写真を撮り続け、その記録をデザインする」。フィールドワークで地図をつくるというのです。Googleマップのストリートビューを身体を張って実践するかのようです。3回目の授業を休んで移動中の状況を僕のiPhoneにレポートしてきます。その状況をクラスの学生にも伝えます。途中「先生、天気予報が嘘つきました。豪雨です」とメールが届きます。心配ですがどうしようもありません。ただただ、事故をせず無事完走することを祈るしかありません。翌日、心配で「どんな状況ですか?」とメールをしておくと「今、高松。これから丸亀にいきます」と元気な返信があり、ひと安心。次に「自転車で移動中の自身の写真も誰かに撮ってもらうように」と、メールしておくと、今度は「先生!自転車に乗っているところを写してもらおうにも香川に入ってから誰ともすれ違いません」と返信があり、のどかだなと感心。「実家到着」のメールが届いて「やれやれ」という感じです。まるで僕も一緒に旅してる気分です。内心「ようやるな」と、思いながら次回の授業にどんなものを持ってくるのか楽しみです。次に京都出身の女子。「傘の裏に京都の地図を描きたい」。雨の日の観光に地図の傘を貸し出すプロジェクトだとか。傘と地図で両手がふさがる雨の日に嬉しいホスピタリティのある企画です。観光客に喜ばれそうなリアリティのある発想に「なるほど!」。城崎の温泉街が雨の日に傘の貸し出しを街中でやっています。突然の雨に僕もずいぶん助かった思い出が脳裏に浮かびます。それにしても『哲学の道の傘』や『嵐山の傘』や『清水寺の傘』なんて傘があったら素敵だろうなと思えます。この企画しっかりデザインすればなかなか面白くなりそう。雨の日の京都観光キャンペーンになるのではと感心します。知人が京都府の山田知事と親しくしているので、仕上り状況によっては伝えてみようかと思うぐらいのアイデアです。続いて、猫好きの女子。ノミの生態について熱く語り始めます。『地球の歩き方』ならぬ、『ノミによる猫の身体の歩き方(グルメツアー)』の地図をつくるというのです。最終的には絵本にするらしいのですが「のみ」についてあまりの熱弁に僕は腹を抱えて笑い転げる始末。マニアックな地図を想像するだけでワクワクしてきます。この他にもユニークな発想がいっぱい。もちろん既成の枠から飛び出すのに苦労している学生もいますが、発想のジャンプ力は僕のおよびもつかない軽やかさです。後は、デザインへの定着。ここからがデザイナーの本領が試されていきます。それにしても2回目と3回目の授業時間の合計が13時間。これはもう「ウゥ〜」を飛び越えて「ドヒャ〜」です。それにしても若い彼らの発想力と行動力に感心と発見の授業です。
三木組奮闘記。これからどうなることやらですが、まずは滑り出しました。

フィールドワークで地図をつくるという学生から届いた写真

三木組

初授業。
事務所を早く出発したのに考え事をしながら車を運転していて大学への道を迷ってしまいました。実は、ナビを使っていたのですが新しく出来た高速道路が入っていません。ナビが高速を降りろとアナウンスしますが「まだ、まだ。君、間違っているよ!コンピュータが知らない道なんだから」と、ブツブツいいながら走っていて気がついたら奈良へ。「ウヘ〜」コンピュータが知らない道どころか、僕が未知の道へと迷い込んでいるではありませんか。降り口を探すもずいぶん先。慌てて一般道に降りたら今度はすごく混んでる。初登校でいきなり遅刻のお粗末ぶり。最低です。ハァハァいいながら教室に駆けつけて、最初の言葉が「みなさ〜ん、遅くなりました。すみません」。(トホホ…)いやはや、なんという失態。
気合いを入れ直して授業開始です。スライドで僕のデザインの考え方や発想の仕方を講義して課題の説明へ。登校初日、未知の道へと迷い込んでしまった僕の課題は『地図』。何なんでしょね、この関係性?その『地図』の課題をここで紹介。

Lesson 1
テーマ:『地図』
旅先で地図を開いた時のワクワクする感覚は何だろう?知らなかった文化や、今から起こるかもしれない何かへの期待で心がときめくのだろうか?目を細めて、一つのことを掘り下げて見つめてみると、同じものを見ているのに、違うものが見えてくることがある。
例えば、街中にある文字を採集する旅に出かけてみると、それぞれのエリアで文字を通して何かの特徴や個性を見つけ出すことがあるかもしれない。飲屋街にある文字の個性、オフィス街にある文字の個性、温泉街にある文字の個性を地図に並べてみると、いつもは気づかなかった街の風景が立ち上がるかもしれない。また、色を採集する旅に出かけてみても、音を採集する旅に出かけてみても、匂いを採集する旅に出かけてみても、いつもは気づかなかった街の風景が立ち上がるのではないだろうか。
誰も気づかなかった地図を作る。そんな地図があると、それだけで街の魅力が増して観光客が押し寄せて来るかもしれない。「デザインで、伝わる」「デザインで、気づく」「デザインで、感じる」の3つの視点から対象を見つめ、あなたの感性でつくり出す新しい地図。これが今回のテーマです。対象にするのは、街でも、学校でも、家でも、あなた自身でも、お料理でも、コンビニでも何でも自由です。また、表現媒体もポスターでも、パッケージでも、書籍でも、映像でも何でも自由です。地図を広義に捉え、対象を深く掘り下げ、その魅力をみんなに伝えるために可視化(ヴィジュアライズ)する。あなたの五感をフル活動させて、ワクワクする『感性地図』をつくり出してください。
だれも知らなかった魅力をあなたの視点で探し出す。考え方を考える授業です。

次回からは、それぞれの考える『地図』について議論しながら言葉やヴィジュアルの断片を繋ぎ、未知の道を探し出していく。研究対象にするものから媒体まで自由と制約がなく、ポスターやパッケージやブランディングとフレームを与えられてきたみんなは戸惑うかもしれないけれど、本当の本当は「自分のものさし」でフレームを作り出さないとクリエイティブじゃない。はじめは、みんな迷子になるかもしれないけれど、気づきに気づけば自分の道を歩み出すはず。
僕の教育理念は、自分のコピーを作らないこと。彼らの目で見て、彼らの手で触れ、彼らの言葉で語れるデザインの入り口を指し示すこと。
内田樹のいうところの「学ぶ力」をみんなに気づかせてあげたい。(内田さん、「学力とは何か」をみんなに知らせますね!)言葉で気づきを可視化する『話すデザイン』の実力が試される。僕が学校に行く本当の理由、それは僕自身を鍛えるため。
三木組のみんな。
初日に迷子になった教師と一緒に地図をつくろう!


話すデザイン・ラジオ

先日、グラフィックデザイナーの多様な仕事とデザインアプローチを紹介するJAGDA design Cafe OSAKAというマンスリートークショーに出演しました。そのトークショーの新しいシリーズ、1人のデザイナーにスポットをあて、デザインに対する独自の視点や思考からデザイナーが担うべき役割とデザインの可能性を考察する「dig up series」の最初のスピーカーとしてお呼びがかかりました。モデレーターの清水柾行さんの軽妙な進行のトークショー。その清水さんから「3週前のdddでのgraf 服部さんとの対談とは違う内容でお願いしますね」と、釘をさされました。彼、曰く「同じオーディエンスの方もおられるかもしれないですし、誰も知らなかった三木さんの魅力を引き出したいので…」と。トークショー出演の5日前の打ち合わせでのことです。「えぇ〜」。そんなこといわれても、人前で話すとなればそれなりに準備がいります。休日を返上して話す内容を大きく変更しなければなりません。出演の2時間前までスライドの構成に悩まされる始末。事務所のスタッフからは、「こんなに、あたふたしているのも珍しいですね」と。その、ライブ録音を関係者の方からいただいたのでここでご紹介したいと思います。
題して「話すデザイン・ラジオ」。
会場にお越しになられなかった方のためにライブな「話すデザイン」をお届けします。1時間30分と、長いトークショーですのでお時間のある時にでも聞いてみてください。会場では映像が多用されておりラジオだけで分かりづらい箇所に少しヴィジュアルを添えました。想像力を膨らませながらお聞きください。
ところで、あらためて自分のトークを聞いてみると、自分の話に自分が覚醒されていて、モデレーターの質問を気づかぬうちにスルーして違う内容を語っていたり、誤った名称を話していたりと、全然「話すデザイン」になっていないと反省だらけの内容です。それでも、僕の声を通して話すことが大事と思い、勇気を持ってノーカット版でアップすることにしました。
それでは、「話すデザイン・ラジオ」はじまり、はじまり。

Jagda Design Cafe

































借脳(しゃくのう)

「あぁ〜」と、ため息つくぐらい仕事が片付きません。休日をほとんど返上して、ひとり事務所で格闘。ひとつの仕事で煮詰まってしまうと、二進も三進もいきません。「ウゥ〜」と、コンセプトを絞り出そうとしますが『デザインの神様』知らんぷり。
そんなこんなでコラムの方は、ずいぶん久しぶりです。
始めたばかりのtwitterの方は、仕事の合間にぼそぼそとつぶやいています。まだまだ戸惑い気味ですが、140文字の制限がコンセプトを明解に際立たせてくれます。新聞やテレビにかげりが出て、メディアのあり方が大きく変動しようとしています。ブログとも違う、新しいメディアの登場に僕たちのネットワークがアメーバーのように広がっていく感覚です。
さて、先日、大阪市交通局の情報誌「ノッテ オリテ」の取材を受けました。この情報誌、地下鉄・バス・ニュートラムに「乗って、降りて」が名前のいわれだそうで、毎号8万部も刷られるメディアだそうです。僕も何度か手にしたことがある情報誌です。5月25日に発刊される『水のある暮らし』号でリバーサイドにある僕の事務所に白羽の矢が…。
取材クルーは、ロケハン、インタビュー、撮影と3回も来社。通常は、インタビューと合わせての撮影らしいのですが、当日が雨。事務所からの外の眺めを考慮して撮影のみ延期。「雨も水なのに…。何か変なの」と思いつつ、いつもとは反対の立場で取材される側。「ADの指示には従わねば…」と、不思議な感覚です。立場が変わると見え方が違ってきます。
撮影の当日、研修でやってきた初出社の女性スタッフは、訳が分からないままモデルとして登場。みずみずしさがADの目にとまり、先輩を差し置いて最前列に座らされます。緊張に輪がかかって、さらに緊張している様子がうかがえます。
インタビューは「水の話いろいろ」。ライターの「水辺で暮らすことで、お仕事にどんな影響があるでしょうか?」という質問に、僕の職種に合わせ、シンボルマークのあり方について…。『水』を理念と比喩すると、それを凍らせた『氷』がシンボルマーク。小さく砕いて目的に合わせてアプリケーション。「おいしかった」と活動や商品が讃えられて、「清潔だった、透明だった」と理念が溶けて浸透する。と…。
果たして、「水の話いろいろ」の中で、この話が採用されるかどうかは分からないけれど、水と氷に比喩して僕のブランディング思想をメッセージしました。そんな水にまつわる取材を受けながら、僕の言葉をメモるライターの取材ノートを覗き込むと「情報の根」のような「言葉の地図」になっているではないですか。まるで、僕が考える「話すデザイン」の思考回路を図化されているようです。ライターの福田容子さんにご無理をお願いして、その取材ノートをここでご紹介させていただきます。彼女によるとこの手法、トニー・ブザンという方が考案した知識・思考の整理術で「マインドマップ」と呼ばれるものだとか。取材を受けながら僕はといえば、今日、夕方7時から心斎橋のApple Storeで開催されるJAGDA Design Cafeのトークショーの話にこの取材ノートを組み込もうと興味津々です。
話すことで相手の考えとコラボする。「話すデザイン」。
それは、相手の脳も拝借しながら言葉の地図を絵にすること。
これを借景ならぬ『借脳(しゃくのう)』と呼んでみるのはどうだろう。