KenMiki & Associates

知ってるはずの自分の中の知らなかった自分に出会う

デザイナー募集で多くの方のポートフォリオと履歴書を見せていただいています。作品はそれぞれ異なりますが、履歴書はどなたもよく似た形式です。
ずいぶん前になりますが、ある学生を面接した時のことです。「大学でまじめに課題を制作していなかったもので作品がほとんどなく、ポートフォリオが作れませんでした。そこで履歴書をデザインしましたので見ていただけますでしょうか」と切り出され、履歴書のみでデザイナーを面接することになってしまいました。おもむろに出された履歴書。平面と思いきや、切り込まれた紙が立体的に立ち上がる構造になっています。まるで彫刻家の経歴を紙のオブジェでデザインしたようなイメージです。テクスチャーの違う白い紙を複数組み合わせることで豊かな表情が生み出された美しい造形です。そこに緻密に計算されたタイポグラフィによって経歴とデザインに向かう姿勢が記されています。複数の候補者と迷った末、結局、不採用としましたが履歴書のみで最終選考にまで残り、強い印象を僕に焼き付けた作品でした。
さて、11月に韓国のアジア・クリエィティブ・アカデミー(ACA)という人文学、自然科学、社会学、芸術学などを基礎にした大学院のような機関で講演と3日間のワークショップを行います。僕のワークショップの課題は、「履歴書」。その内容を紹介します。
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あなたの「履歴書」をデザインしてください。
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最も良く知っているはずの自分のことについて、自分自身が意外と知らないことがあります。自分を観察してください。自分の未来を想像してください。自分が最も「ときめく」ことに注力してください。育った場所、育った時代、家族のこと、友達のこと、好きな本、好きな人、そして、夢など、あなたを取り巻くあらゆる関係性から自分を見つめてください。
例えば、好きな言葉を机いっぱいに広げてみると、気づかなかった自分の理念に出会うかもしれません。また、気持ちのいい場所、ドキドキすることを想像してみると、自分の進みたい道が明確になるかもしれません。
ここでいう履歴書は、自分の思考や生き方、そして、自分の感性を存分に表現する「あなたの未来を語る履歴書」です。自分のルーツや自分のヴィジョンをしっかり見つめ、自分の言葉で語りかけるようにデザインをしてください。平面、立体、映像など表現の方法は自由です。見る人がワクワクするような履歴書を作ってください。面接で「ポートフォリオよりも履歴書が素晴らしいので、あなたを採用します」と、いってもらえるようなデザインをしてください。あなたの理念がほとばしる「履歴書」を期待します。
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と、いった課題をワークショップを始める前に知らせています。
自分の思考や生き方を可視化してみる。観察、想像、気づき。知ってるはずの自分の中の知らなかった自分に出会う。自問自答。そこに創造のヒントが芽生えます。