KenMiki & Associates

あみだくじ

一昨日のコラムでご紹介しました『ウサギとカメ』の靴で、歩くや走るといった『行為』によって物語が生まれるデザインに続き、今度は、『状況』を生み出すカップ&ソーサーをご紹介します。このデザインは、数年前に作ったもので『ウサギとカメ』の靴と同様にクリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンの2つのギャラリーによるチャリティー企画に出品したものです。僕のデザインは、『あみだくじ』。カップとソーサーを好きなラインに合わせるだけで、169通りの「くじ」が誕生するデザインです。友達が集まって、おやつを選ぶ時やゲームの時にちょっと楽しいカップ&ソーサーです。一人でお茶する時にもアタリが出ればなんだか嬉しくなってきます。ちょっと一服、「お茶にしませんか?」

ウサギとカメ

クリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンの2つのギャラリーによるチャリティー企画『HEY! SHOES 160人のクリエイターによる履くアート』が11月24日(水)から始まります。この展覧会は、1990年にスタートして毎年この時期の恒例行事になっています。好きなデザイナーの作品を求め多くの人が集まる展覧会で、収益金をユニセフに寄付しています。今年はスニーカーのデザインで160人のクリエイターが競演します。
僕のデザインは、『ウサギとカメ』。歩くや走るといった行為によって物語が生まれるデザインです。ちょっとユニークでしょ!


CREATION Project 2010


HEY!SHOES
160人のクリエイターによる履くアート

会期:2010年11月24日(水)~ 12月24日(金)

11:00am-7:00pm 日曜休館(土曜と12月23日は開館) 入場無料
会場:クリエイションギャラリーG8・ガーディアン・ガーデン

クリエイションギャラリーG8:
東京都中央区銀座8-4-17リクルートGINZA8ビル1F Tel.03 3575 6918
ガーディアン・ガーデン
:
東京都中央区銀座7-3-5 リクルートGINZA7ビルB1F Tel.03 5568 8818
http://rcc.recruit.co.jp/co/exhibition/co_nen_201011/co_nen_201011.html
販売 : 展覧会会期中、各会場で予約注文販売  販売価格:8,000円(予価)予約注文後、製作いたします。遅くとも来年4月下旬までにお届けする予定です。
ご希望のデザインとサイズ(23.5cm~33cm)をご指定ください。 
寄付先 : 収益金(売上からシューズ製作費・送料をひいたもの)はすべて財団法人日本ユニセフ協会を通じてユニセフ(国際連合児童基金)に寄付いたします。

三木組奮闘記 まだまだ続く、追加プレゼンと遅刻プレゼン。

課題、考現学百貨店の追加プレゼンと遅刻プレゼンが始まりました。次第に学生達のピッチが上がってきました。前回のプレゼンで「まだ、やり残していることがあるの!」といっていた『ぐるっとドーナツ』のKさん。3人がけの机7台を満杯にしてプレゼンが始まりました。「かわいい〜!」といっていた周りの学生達の目が、所狭しと並べられるドーナツに真剣な面持ちへと変わっていきます。「前回のプレゼンでは、市販のドーナツをサンプルに入れていたのですが、今回は、自分で考えたオリジナルレシピにそってドーナツを作ってきました。また、それぞれのドーナツを入れる袋には、ドーナツを発想するのに町で見つけた、私の『ぐるっと』のイメージの場所を地図で示しました。ドーナツを食べながら町を散策している様子を想像してみてください。なんだか楽しいと思いませんか? そして、そのドーナツを持って、『ぐるっと』のイメージがある場所に出かけて写真も撮ってきました。商品開発から販売促進まで展開しています」。すごいパワフルなプレゼンです。学生達から拍手が沸き起こりました。「がんばりま〜す」のKさん、恐るべし。クラスのみんなに本気モードを突きつけてきました。次のプレゼンテーターがたじろく程の迫力です。


続いて、『つむじコスモス』のMさんの追加プレゼンが始まりました。お客さまの『つむじ』をその場で撮影して、事前に用意したビジュアル(『つむじコスモス』、『つむじキノコ』、『つむじキャンディ』、『つむじ亀』、『つむじ藍染め』)を選んでもらい、すぐに『つむじ』と合成してオンリーワンのデザインを完成させる。という『つむじ』プロジェクト。前回のパネルのブラッシュアップに加え、今回は、全てのアイテムを実際の商品へと仕上げてきました。モノの力とでもいいましょうか、すごい説得力です。Tシャツにクラス全員の注目があつまります。その中にあらたなアイテムが…。彼女、曰く「スタッフ用なんです」といって見せられたデザインにビックリ! なんと、『つむじ』によるタイポグラフィです。この発想、すごすぎます。「どこから、こんなアイデアがでるのだろう?」いやはや、乗ってきました。とどまる所を知りません。「こうなったら、トコトン飛んでしまえ!」といって、「『つむじ』アルファベットをつくろう!」と発破をかけます。Mさんのジャンプ力すごすぎます。まさに『コスモス』級。『つむじコスモス』、本当に化け始めました。そして、ポスターに添えられたコピー「自分をもっとOPENに。」だって。おいおい、どこまでいくんや〜。


続いて大阪道頓堀周辺を中心とする立体看板の観察を進めてきたNさん。「大阪の色って派手でしょ。看板もすごいインパクト。これらの看板の中から色だけを抽出したとしたら、日本の伝統色やフランスの伝統色ならぬ、『大阪の色』が見つけられるのではないかと思ったのです。そこで、大阪名物の看板をモノクロのドット絵で表現し、『グリコカラーズ』や『づぼらやカラーズ』といった『大阪の色』で『大阪みやげ』が作れないかと考えました」。面白い発想です。色と文化をつないできました。それぞれの看板に使用されている色のみを色鉛筆や色紙に展開してきました。彼女によると、お調子者の意味である大阪弁の『いちびり』とCOLORをあわせた『いちびりCOLOR’S』がこのプロジェクトのネーミングだとか。このまま商品化されても何ら不思議ではありません。センスのいい『大阪みやげ』に脱帽。彼女の、この「発想」、この「デザイン力」をこのままで終わらせるのはもったいない。本人を呼んでもっとたくさんの『いちびりCOLOR’S』の商品を展開するようにと発破をかけます。さらに、色と文化を発展させれば『都道府県の色』や『世界の色』へとどんどん広がることでしょう。『四季の色』に注目すれば、新緑の季節の『複数の緑の色鉛筆』や紅葉の季節の『オレンジから赤へのグラデーションの色鉛筆』だって作れます。彼女も『ぐるっとドーナツ』や『つむじコスモス』に刺激を受けて、このままでは終われないと感じているはず。さらに期待です。


さて、『michi(道・未知)』というタイトルでアロマカフェを計画してきたKさん。学校への道を迷ったのか、未知の世界に迷い込んでしまったのか、遅刻プレゼンの授業終了間際に大遅刻で教室に飛び込んできました。後1分遅ければ、みんな帰ってしまっていたと思われます。なんとか「ギリギリセーフ」です。当初、自転車を観察対象にしていた彼女。アイデアがなかなかジャンプせずに困っていました。そこで、本人の興味や好きなことについて話してもらい、硬直した発想を柔軟な発想へと切り替えるために『気づきリスニング』を繰り返してきました。『気づきリスニング』? 聞き慣れない言葉ですよね。僕の作った造語で、学生達とのコンセプトミーティングで進めている会話手法なんです。「どうして、自転車を観察をしようと思ったのですか?」「えぇっと…私、どこにでも自転車で行くんです」。「どんな所へ行くの?」。「私、自転車に乗って、いろんな路地を散策するのが好きなんです。雰囲気のあるカフェも好きだし、アロマも大好き」。「じゃ、その好きな場所を観察に出かけませんか?それって、どこにあるのでしょうか?」。「谷町6丁目にいい感じの路地があって…。あっ!私、その場所、大好きなんだ! そこを観察して、好きなカフェでアロマ売る店をつくろかな?」。「いいんじゃないですか。さて、そのお店の名前はどうしますか?」。「えぇっと…」。「自転車で路地を散策するのが好きといってましたよね。どこが楽しいのです?」。「寄り道するのが楽しい…。それと、知らない道も面白いし…」。「知らない道がどうして面白いのですか?」。「うんと…。未知な所。あっ!私『michi(道・未知)』というタイトルにします」。「はい。それじゃ、次回までに路上観察をやり直してデザインを進めてくださいね」。が、数週前のKさんとの会話。こんな感じで学生達とコンセプトを探していきます。会話を可視化する。まさに『話すデザイン』です。
さて、Kさんのプレゼンが始まりました。本人が好きだといっていた『谷町6丁目にあるいい感じの路地』の写真を見せながらのアロマカフェを中心とした『町の魅力再生プロジェクト』のようです。カフェで使用するショッピングバッグがひなびた路地の風景になっています。その写真、色変換することと、アミ点で荒らすことで、風景に触覚性を与えようとしています。本人のいう『いい感じの路地』の気分がデザインの力で届けられてきます。また、町の地図をイメージさせるお香のパッケージも洒落ていてセンスの良さが滲み出てきています。
プレゼン終了後、「大人のデザインですね。君の感性がほとばしるいいデザインです。町の空気や気配が伝わってきますよ」というと、「ほっ」としたのか涙ぐみはじめているではありませんか。「おいおい、泣くなよ。じゃ、写真を撮らせてください」。「私っ!?」。「いやいや、君じゃなくて、君の作品ですよ!」「あぁっ!」といって緊張が溶けたようです。周りの学生から「この感じ、いつもよね!」と言われ、笑いが起きます。『デザインは、人を写す鏡』。彼女の優しい性格が伝わってきた所で今日の授業終了。
さて、まだまだ続く考現学百貨店の追加プレゼンと遅刻プレゼンですが、次回の授業からは、後期、2題目の課題『学校』が始まります。乞うご期待。
学生諸君!僕の周りが、君たちに注目してるよ!!

三木組奮闘記 考現学百貨店「発想のジャンプ力」

三木組奮闘記、後期の課題『考現学百貨店』のプレゼンテーションが始まりました。三回生にとって就職活動が始まるこの時期、そわそわしている学生も目立ちますが、三木組は容赦なし。やり直し、追加デザインが、どんどん出されます。そんな繰り返しの中から、今日は、3人の学生の作品を紹介。後期、やっと、エンジンがかかってきました。
路上観察でインターホンを採集してきた I さんとのコンセプトミーティング。「インターホンってなんだろう?」という話からはじめます。「外部と内部を声でつなぐ装置。目には映らない声を一本の線でつなぐ糸電話のようなもの?」と、発想のきっかけについて話していたら、突然、「私、一本の線でクロッキーを描いてるんです」。「えっ!どういう意味?」。「電車の中でクロッキーを描きながら人間観察してるんです。描き始めたら仕上がるまで紙面からペン先を上げないの! 複雑な線だけど全て一本の線で繋がってるんです! このノート観てください」。「えっ!これって全て一本の線なの? 本当に? どのくらいの時間で描くの?」。「2~3分です。先生、描きましょうか?」と言い出すや否や、あっという間に僕の姿を描いてしまいます。あっけにとられながら、「それなら、来週までに人間観察50人以上を描けますか?」。「ぜんぜん大丈夫! いつもやってることだもの。学校の行き帰りで描けちゃう!」。こうしてインターホンの観察から『One Line(一本の線)』という手法で人間観察を行うことに変更。彼女の日常がまさに『考現学』ではありませんか。
次の授業には、通学の電車で観察した50人のクロッキーをベースに、誰もが一本の線と認識できるデザインにして、カードやポスターを作ってきたのです。眼鏡の人だけを『One Line』で繋いでみたり、メールする人、本を読む人、眠る人を『One Line』で繋いでみたりと、時間や空間を超えて彼女の中にある感性が見知らぬ者同士を繋いでいきます。少しのサジェスチョンで、みるみる作品にクオリティが増してきます。そして、先日のプレゼンでは、自分で撮った路上観察の写真と『One Line』をコラージュしてオリジナリティあふれる作品へと仕上げてきました。加えて、トレーシングペーパーに『One Line』のイラストレーションを刷り、路上観察の際に撮っていた別の写真と重ねて、アートブックへと展開しています。いやはや、どんどん彼女の世界が広がっていきます。「ここまで来たら、もっともっと自由になって、本人も出会ったことのない自分に出会おう!」と発破をかけます。インターホンの声から始まったこのプロジェクト。まるで血管に血液が流れ出すように生命力があふれてきました。みなさん『One Line』と写真のコラージュ、いかがですか? すごく素敵だと思いませんか? なんだか、すごい新人作家が登場してきたようで、僕はワクワクしてるんです。


大阪をテーマとした考現学で人の頭にある『つむじ』を観察してきたMさん。「どこが、大阪なの?」と尋ねると「この人たち大阪に住んでるの!」。
すごく広義にとらえた解釈ですが、彼女のユニークな視点を壊さないように、『つむじ』観察からアイデアをジャンプさせるようにと伝えます。コンセプトミーティングで、「『つむじ』って、なんだか宇宙のようにも見えるね。『つむじコスモス』なんてネーミングどう?」とたずねてみると、「それ、面白いです!」。急に何かに気づいた様子です。次の授業には、『つむじコスモス』をヒントに『つむじキノコ』、『つむじキャンディ』、『つむじ亀』、『つむじ藍染め』など、いろんなものを『つむじ』に見立ててデザインをしてきました。彼女曰く、「考現学百貨店に来られたお客さまの『つむじ』をその場で撮影して、事前に用意したビジュアルを選んでもらい、すぐに合成してオンリーワンのデザインを完成させる。あっ!という間にオリジナルの『つむじグッズ』ができるという訳!」だとか。みなさん、このユニークな発想をどう思われます? それと、何ともユニークなのが『つむじキノコ』。じっくりと観てやってください。「男のキノコと、女のキノコなの!」だって…。
プレゼン終了後、本人に感想を聞いてみると、「こんなふざけたアイデアで課題を進めていいのかと思ったけれど、先生に『いいよ。楽しい発想だから思いっきりジャンプして!』と、いわれ無茶苦茶、面白かったで〜す」と、語ってくれました。それにしても、この発想力とジャンプ力、すごいと思いませんか! 彼女の『つむじ』観察の視点、「闇雲に摘まなくって良かった」が、僕の感想。何となくだけど、こんなユニークな視点を持つ人だから『発想のジャンプ力』で化けるんじゃないかと、閃いたのです。課題を正確に理解して答えを導くことは、極めて重要です。しかし、時に直感の赴くままに走らせる事も重要なんです。理屈より先に身体が動く。理論通りスキャンされた退屈なモノよりエモーショナルなデザインの発想が人を引きつける。これが「やる気」や「その気」の原動力となるのです。人は、後付けでも意味をもたせようとしていきます。感覚が開く瞬間。これが、「本気」になる目覚めなのです。


町にあるいろんな地図を収集してきたKさん。はじめは「どうしましょ!」と悩んでいましたが、コンセプトミーティングで何を思いついたのか「私、ドーナツ屋さんをしたい!」と。「えぇ!…」。唐突すぎます。ショートカットされた言葉に僕の頭がついていきません。よくよく聞いてみると「町にある『ぐるっと』したもの採集して、それをアイデアにドーナツをデザインするの。味も食感もドーナツのカタチもそこから閃きをもらうの…。そして、そのアイデアの元になった『ぐるっと』したものを地図にして、お店の周辺にある『ぐるっと』をパッケージに展開するの!お客さまが、その『ぐるっと』を探す楽しみができるでしょ! 題して、『ぐるっとドーナツ』で〜す」だって…。「ほぅ!」。よくそんな突拍子もない発想が思いつくものです。しかし、お客さまとのコミュニケーションのカタチをその町のポテンシャルを生かした『ぐるっと』というキーワードで繋ごうとしているのですから、単にモノを作るだけでなく、コトへと展開をしようとしています。どんなドーナツになることやら、期待と不安が入り交じりますが「がんばってね!」と、応援します。「ハイ。がんばりま〜す!」といって、彼女、次の週はお休み。「えぇ〜、がんばるんじゃないの?」と、思っていたらプレゼンの日の授業の終わる頃、駆け込んできて「まだ間に合いますか?」と。「さっきまで、デザインしてたんですが、まだ作りたいもの全て出来てないんです。プレゼンどうしましょ?」。なにやら、いっぱい持ってきている様子。「まずは、出来上がっているところまで見せて!」。「おいおい、いっぱい出来てるじゃない!」。奥に秘めたすごい闘志が、30種類ものドーナツをデザインしてきました。「まだ、完成じゃないの!」という彼女。「来週、もう一度プレゼンさせてください」。えらいことになってきました。デザイナーズ・パティシエ の誕生です。本当に「がんばりま〜す」でした。感心しながら、彼女のプレゼンシートを観ていたら「ここのところ、いろんなドーナツいっぱい食べて、ちょっと、飽きてきちゃった!」だって…。
それにしても、すごいパワーです。それぞれのドーナツのシンボルもデザインしてきて、涼しい顔で「飽きてきちゃった!」ですよ。次回のプレゼン(いや、本日の午後の授業)どんな『ぐるっとドーナツ』を展開してくるのだろう? ちょっと楽しみ…。
というわけで、後期の三木組奮闘記。みんなの『発想のジャンプ力』に驚かされています。「すごいね!君たち!」。僕も「がんばりま〜す」。

-1×-1=+1 考え方をデザインする

来春、オープン予定の中之島デザインミュージアム de sign de > (デザインで)のリレートークで、『ニッポンの風景をつくりなおせ』の著者でデザイナーの梅原真さんを高知からお招きして対談をしました。このトークショー 、de sign de > が目指す活動の輪郭をコミッティメンバーがゲストと共に語っていくもので、僕はその2回目を担当。梅原さんとは、東京でカラオケにいって、北海道で酒飲んで…。原研哉さんの紹介で親しくなりました。ずいぶん前に銀座松屋のデザイン・ギャラリーで開催された『梅原真・とさのかぜ展』を観た時に「こんなデザイナーが高知におるんや!」と、驚いたのを思い出します。「鉈でガサッと草を刈り取るような力強いデザインと、その草を目的に向けて丁寧に種分けするような明解な企画力、また、そのプロセス全てを見つめ、新しい価値をつくりだそうとする強かなプロデュース力、そして、誰よりも繊細な美意識」。ヒョロヒョロの考えで出会うもんなら「足下しっかり見んとあかんぜよ!」と、『とさのかぜ』で吹き飛ばされてしまいそうな還暦デザイナーです。そして、口癖は、「これ、あかんやんか!」「そんなん、あかんやんか!」「絶対、あかんやんか!」と「あかんやんか!」連発デザイナーでもあります。「あかんやんか!」は、「駄目でしょ!」の意味。そんな梅原さんに『アカンヤンカマン』と名付けたのがイラストレーターの大橋歩さん。ちなみに僕は「これ、ちゃうやんか!」「ちゃう!ちゃう!ちゃう!」が口癖。「ちゃうやんか!」は、「これ違うじゃない」の意味。よって、「あかんやんか!ちゃうやんか!あかんやんか!ちゃうやんか!」の奇妙な対談にどこの国の言葉とみんな驚くかも。加えて、梅原さんがつけた対談のタイトルが『-1×-1=+1 考え方をデザインする』という不思議な方程式。これをどう読み取り、観客にいかに翻訳するかが僕の今回の大事な役目です。
梅原さんの活動は、ローカルデザインが中心。それも一次産業の漁業や農業や林業にデザインの力で息吹を与えるのが主な仕事。デザインで一次産業に元気を与え『ニッポンの風景をつくりなおせ』が大きな志。このデザイナーの理念をポスター一枚でなんとか紹介できれば…。
マイナス要因を抱える一次産業の問題点を発想の転換で「あたらしい価値」に置き換える、この梅原流デザインの方程式『-1×-1=+1 』。「ジーッ」と眺めていたら急にアイデアが閃いたのです。『-1×-1』を『=+1 』に変換するには?「ポスターの画面から切り取った『-1×-1』の紙片を90度と45度に回転させれば『=+1 』が生まれる!」。名付け親の梅原さんも気づいていない方程式の謎。「これだっ!」と、大きな声を発する僕に怪訝な顔で僕を見る事務所のスタッフ。後は、このポスターをどのように制作するかです。シルク印刷、オフセット印刷、トムソン(型抜き)、CAD型抜きなどなどいろいろ考えましたが、梅原さんの活動にフィットする表現は、もっと素朴で化粧をしていない『素のデザイン』でなきゃだめ。いろいろ考えた結果、ハードカバーの本の芯になっている新聞紙と雑誌の古紙でつくられている分厚いチップボールという板紙をレーザーで切り取る方法を思いついたのです。文字の部分も、レーザーを使って紙の半分ぐらいまで焼く。レーザーエッチングです。「紙と火」。この相反する組み合わせこそ梅原さんに向く。対談当日、梅原さんにその完成したポスターを見せた所、「鳥肌が立った」。「見て!この鳥肌」と、腕まくりして見せてくれるぐらい喜んでくれました。
それにしても、『アカンヤンカマン』の話、面白すぎます。観客のみなさん、すごい興奮して涙出しながら笑いながら、最後は感動の嵐という状況です。いやはや、『とさのかぜ』すごいです。「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」といって、海岸にアートやデザインを刷ったTシャツをヒラヒラさせて、ゴミでポスターをつくって漂流物展を企画する『砂浜美術館』。箱モノ行政へのアンチテーゼも込めて新しい価値を生み出そうとしています。これって、町の人たちも巻き込んで状況をつくり出す大きなグランドデザインでもあります。「すごいな〜。梅原さん」と対談後の客席からみんなの声が聞こえてきます。「梅原さんに来ていただいて本当に良かった」というのが、僕の正直な感想。そして、僕が、梅原さんを指名した本当の理由。それは、このミュージアムへのアンチテーゼ。「箱が先に出来てしまった状況からスタートしたミュージアム」。「しっかりしてよ!de sign de > 」。「あたらしい場への期待にちゃんと応えてよ!」。「ボーッとしてたら、『ちゃうやんか!』っていいまっせ」。