本展は、新型コロナウイルス感染症という未曾有の状況下で、兵庫県立美術館にて開催された、ファッションデザイナー・コシノヒロコの展覧会です。企画はコロナ以前から始まり、当初は傘寿を記念した書籍『HIROKO KOSHINO』に沿って、その軌跡を辿る構成を想定していました。しかし開催を1年後に控えた頃、ヒロコさんから展覧会の方向性を見直したいという連絡が入ります。世界が不安に覆われるなかで、いま必要なのは回顧ではなく、未来へ向けた光ではないか。戦時中、母に買ってもらった一箱のパステルが想像力によって未来を切り開いた原体験が、今回の決断の根にありました。「今回の不安は、戦時中に感じた恐怖以上かもしれない」。だからこそ本展は、単なるアーカイブではなく、84歳(2021年時)のコシノヒロコが未来の子どもたちへ『ときめき』を託す「TO THE FUTURE 未来へ」へと姿を変えます。展覧会は、知識を並べる場ではなく、身体で感じる場として構想されています。テーマパークを訪れた時のような高揚感。驚きや笑いが連なり、気づけば心が前を向いている。その体験こそが、本展の「VISION」です。安藤忠雄氏設計の建築空間を舞台に、会場前の大階段には5メートルを超えるヒロコちゃんバルーンを設置。その先にはヒロコさんの顔を写したマネキンが並び、一部は突然動き出します。展示全体はオノマトペによって構成され、言葉になる前の感情を呼び覚まします。ファッションとは、衣服の記録ではなく、生きる姿勢の表明である。この展覧会は、過去を保存するためのものではなく、未来へ踏み出すための想像力を取り戻す場として存在しています。