この講演は、空間デザイン事務所 KURU からの依頼を受け、KURUJAMで開催した90分の講演です。三木健が執筆中の書籍『日々是案図 Everyday is Design 365』の構造を立体化し、インスタレーションを兼ねた実験的な講演を行いました。展覧会を意識した講演を行うことで、観客がどのような反応を示すのかを探ってみたいと思ったのです。無機質な空間の中央には、天井から9mのロングチャートを吊るしました。それは本の設計図であると同時に、僕の思考を空間の中へ解放する試みでもありました。観客は、その思考の中を歩きながら、自分自身の思考との対話を繰り返していきます。僕はその空間を、「借脳(しゃくのう)」の実験場として捉えていました。会場には、「右」と「左」、「上」と「下」、「入口」と「出口」といった言葉を配置しました。ひとつの「口」が加わることで、「入口」が「出口」へと変わること。向きが変わるだけで、右と左が反転すること。「頭上注意」の「上」の下に「下」の文字を置くことで、天井に「下」が現れること。そんな小さなズレや違和感を、空間の中に散りばめました。さらに、ロフトのような荒々しい壁の隙間には、小さな三又の枝をひっそりと忍ばせました。そして講演の途中、スライドの中でその存在を示すことで、観客の視線は再び会場へと戻っていきます。そこにあったはずなのに、見えていなかったもの。気づいた瞬間、世界との関係が、ほんの少し変わります。この講演は、思考を説明する場ではなく、思考の中を歩く場でした。本を読む前に、本の中を歩いてみる。思考の地図を、身体で読む。それは、講演という名の思考のインスタレーション。空間全体を「気づきを生み出す装置」として設計し、本書『日々是案図 Everyday is Design 365』のコンセプトを立体化しようとした、小さな実験でもありました。世界は変わらない。変わるのは、世界を見る自分の位置。世界との関係が、ほんの少し変わる。