僕が大学でする授業は、『伝わる』・『気づく』・『感じる』といった3つの視点を深く掘り下げて「コミュニケーションデザインとは何だ?」と研究することです。
まず、デザインに取りかかる前に、デザインに触れる人の心理や行動に注目し、デザインを取り巻く状況をリアルに観察します。そこで気づいたいくつかの手がかりからテーマを導き出し、デザインへと繋いでいきます。そのプロセスの中から従来の枠組みにとらわれない『新しいコミュニケーションデザイン』のあり方を模索するのです。
よって、ポスターやパッケージといった媒体が先に提示されているのではなく、コミュニケーションのあり方そのものを研究する中で学生自らが媒体を設定していくのです。一言でいうと「アウトプットは、自由」ということになります。ですから、メディアに縛られるような固定観念のある人は、戸惑うかもしれません。しかし、これが本来のクリエイティブ。観察→想像→概念→創造というプロセスの中から物語をつくり、そのアウトプットとしてメディアを選択し表現を定着させる。時にメディアそのものの価値を探り、新しいメディアをつくり出すことにおよぶ時さえあるのです。彼らが近い将来、プロのデザイナーになろうが違う職業に就こうが、この考え方のプロセスを体験することで、きっと大きな気づきを生み出すと僕は考えています。
さて、後期の課題『考現学百貨店』で歩道と車道の間にある『ポール』を研究してきたKさん。待ち合わせなどで思わず『ポール』に腰掛けたり、持たれかけたりする人の心理や行為をデザインの対象にしたいと考えてきました。クラスのみんながモノやコトを対象にデザインを進める中で、目には映らない心理や行為をいかにデザインするのでしょうか。彼女曰く「百貨店の買い物や人ごみで疲れた時のホッとする空間を提案したい。疲れた時って、心に余裕がなくなって、何もかもを詰め込んで、溢れそうな状況になるでしょ。現代社会の持つストレスから解放されるには、心に隙間をつくり出すことだと思うの…。よって空間に心の隙間を生み出すスイッチ(気づき)をつくってみたらどうだろうと考えました。題して『くう間スイッチ』。穏やかな気持ちにさせてくれるモノやコトをデザインしてみようと思ったのです」。
「なるほど!」。ユニークな視点です。
そのデザインですが、『ポール』からヒントを得た直方体の椅子らしきものは、アフォーダンスを意識した『空間スイッチ』という名前。買い物に疲れた時の一休みに使用してもらうのだとか。また。会話の途切れは、ストレスを生むきっかけ、会話の弾むメディアにお菓子を選び、ちょっとした言葉を添え『会話の間スイッチ』とするのだそうだ。そして、風景の一部を切り取ったアイマスクを数種類用意して、気分を環境とシンクロさせる『一体間スイッチ』なるものを提案してきました。他に、慌ただしい環境から自分を取り戻す『無音くう間スイッチ』と名づけた耳栓や、買ったばかりの品を床に直に置きたくないといった心理に気づかった『置く間スイッチ』という敷物や、むくんだ足を靴から解放する『女性の間スイッチ』という足置きのツールなども準備しています。クラスのみんなの顔つきが真剣モードになってきました。自分達の発想の中になかった、思いもよらない提案に驚きが隠せません。ポスターやパッケージといったメディアを超えて、心理をメディアにとらえてきたのです。面白くなってきました。学生達の本気モードに火がつき始めました。デザイン領域を横断的にとらえる。そこにコミュニケーションデザインの新たな可能性を探し始めたのです。
