KenMiki & Associates

三木組奮闘記『〇〇ツーリズム』後編

さあ、始まりました後編の三木組奮闘記。ツーリズムというテーマをいかに解釈して、自らの研究課題を見つけ出してくるのか。学生達の奮闘ぶりをどうぞご覧あれ。体を張った体当たりのデザインプロジェクトからスタートです。

『顔面ツーリズム』
「日本人にとっての『旅』って何だろう。という素朴な疑問から一つの仮説を立ててみました」。「えぇ」。「観光地で『写真』を撮る人をよく目にします。中には撮影に夢中になって観光をおろそかにしている人がいるように思えることがあります。多かれ少なかれ旅行者の心には『旅に来たのだから写真をしっかり撮って旅を楽しんだ証を残さねばいけない』という思いがあるのではないでしょうか」。「確かにそうですね」。「この旅行者に芽生える心理を『記念写真信仰』と名づけてみようと思うのです」。「面白い!日本人の観光に対する心理が見事に言い表せていて、ツーリズムに対する問いの設定として申し分ないですね」。「そこで『記念写真信仰』を念頭におき『旅』というものが何かと考えてみると、例え写真を撮るのに夢中になって満足に旅を楽しめなくとも、観光地の写真が撮れてさえいればそれが『旅の証』だと考えられるのではないか。つまり、日本人における『旅』とは、『記念撮影』そのものではないかと思えてきたのです。この観点から「実際に観光地に足を運ばなくとも、記念写真を撮るだけで旅行に行った気分になるのではないかと『顔はめ看板』を制作してみようと思うのです」。「『顔はめ看板』って、例えば熱海に行けば『貫一お宮』の看板があって顔を出して記念写真を撮るような、あの看板のことですか」。「はい」。「実に面白い」。「本当は、都道府県すべてを作りたいのですが、時間的制約の中で大阪、東京、福岡、北海道の4つを作ろうと思います。大阪だけはB倍にして、街の中にゲリラ的に置いてみようかと思います」。「想像するだけでも面白そうですね。思い切りやってみてください」。
そんな会話から数週間後、彼女のプレゼンテーションが始まりました。原寸の『顔はめ看板』の展示と共に街中に設置した『顔はめ看板』の記録写真が机に所狭しと並べられています。「みなさ〜ん。こんにちは〜」。この段階で三木組のみんなはクスクスと笑っています。この大きな看板を抱えて学校中をウロウロと撮影した後、大阪の中でも最もディープな通天閣の商店街にこの看板を移動させ、その後、梅田の地下街へとゲリラ撮影隊を決行してきたとのこと。隣のクラスをはじめとした学校内で「『顔はめ看板』を抱えていろんなところに出没する学生がいる」という噂が飛び回っているらしいのです。よって、三木組のみんながプレゼン前からその噂を知っていてクスクス笑っているのです。噂を聞いて隣のクラスの学生がプレゼンテーションを観たいと飛び入り参加を申し出てきます。当の本人は、ケロッとしていて、ドキュメントを淡々と話してくれます。通天閣では、陽気なほろ酔い加減の観光客が実際にこの看板を使って撮影をしたり、周辺の居酒屋の店員が興味津々で集まってきたり、梅田では人が集まりすぎて警備員に怒られ、撤退せねばならなくなったとか。まさにこの看板を通じてツーリズムにおける関係性をドキュメントで実行した様子を説明してくれます。実はこのプロジェクト、僕の事務所にも突然やってきてビックリした始末。玄関で変な人が何やら写真を撮っていると覗いてみると、大きなパネルを抱えた彼女を発見。ビックリ仰天の突撃事務所訪問です。いやはや『顔面ツーリズム』最高です。まさに体を張った体当たりのデザインプロジェクトです。「デザインは現場に落ちている」を実践するかのよう。みなさん、いかがですか?見事にモノからコトをつくり出すプロジェクトに仕上げていると思いませんか。この実行力に脱帽です。

『オジコレ』
「あの、私、おじさん好きなんです」。「はぁ!」。「人生経験のあるおじさんの魅力をみんなに伝える『おじさんツーリズム』なるものを展開したいんですが…」。「ほぅ、これまた、ツーリズムをずいぶん広義に捉えてきましたね」。「おじさんがおじさんになった理由を探す旅にみんなを誘いたいと思うのですが…。このまま進めても大丈夫でしょうか」。「まぁ、おじさんを徹底研究することで経験が成す、むなしさやはかなさを知りつくした上に成り立つ優しさとでもいうか包容力を知るのも旅の一つの味わいかもしれませんね。現実を見つめ、夢を抱き、こだわりのために頑固になり、妥協を知るのもある種の旅と位置づけてみてはどうでしょうか」。「そうですよね!人生への旅。おじさん研究に没頭しますね」。「はっ、はい。頑張って進めてください」。
プレゼン当日、「おじさんコレクション=『オジコレ』と銘打っておじさんの生態を徹底して調べ上げてきたTさん。おじさんの哀愁やせつなさまでもが楽しいイラストレーションによってポジティブに捉えられています。「おじさんへの道のりは険しい。高い山を越え、深い谷を越え、やっとここまでやってきたんだなあ」と綴られています。自分の経験をおじさんの経験に置き換えながら経験から滲み出てくるものとは何だろうかと問いかけているようです。彼女の調べてきた「中年ーその不安と希望」によると中年(おじさん)は40代から50代と位置づけられていました。ちなみに彼女の本では、おじさんを53歳と設定されています。「あぁ〜。僕は、とっくにおじさんを卒業して次のステップへと進んでいるんだと気づかされることに…。『フゥー』。思わずため息が…」。ここで一句。「まだまだ頑張ると誓うおじさんツーリズムかな」。

『ジブンツーリズム』
「私の名前は、葉が香ると漢字で書いて『葉香=ようこ』と読みます」。「いい名前ですね」。「はい。一見してどなたも『ようこ』とは呼んでくれないのですが、父が想いを込めてつけてくれました。恥ずかしいことに最近まで自分の名前の由来を知りませんでした。そこで、私は『私』をどのように理解しているのだろうかという疑問に苛まれ、極めて自分ごとではありますが、0歳に授かった名前を元に自分とは何かという旅に出かけ、自分を知るきっかけにする『ジブンツーリズム』を展開してみようと思います」。「ふむふむ」。「これを通して、自分自身を知り、また多くの方に私、『葉香=ようこ』を知っていただき、今後の素敵な関係へと繋がればという思いでこの企画を進めようと思うのですが…」。「いいですね。自分を知る旅に出かけるんですね。自分らしさとは何か。アイデンティティとは何か。つまるところ『探していたのは自分だった』ということかもしれませんね。進めていきましょう!」。「はい」。プレゼンにジャバラ折りの自分史をつくってきた葉香さん。自分の名前にある『葉』をモチーフに植物の成長と自らの成長を重ねたダイアグラムによる表現です。その他にも『ジブンを育てる』キットと名づけたツールをたくさん展開してきました。自分を見つめ直す機会となった『ジブンツーリズム』。彼女の企画書の中に「感謝・素直・謙虚・反省・奉仕」の5つの言葉をみつけました。また、「ジブンの過去を振り返ることで未来へ発信する」とも記されていました。『未来』という夢やビジョンを描いたジャバラ折りのツールが、もう一部あってもよかったかもしれませんね。そして、『過去』と『未来』の間、今を精一杯謳歌してくださいね。

『イモケンピ』
メモ魔ではなく、激写魔のHさん。気になるアイデアがあると「パシャ」と愛用のカメラで激写。そのHさんの提案は、なぜか『イモケンピ』。「自分の好きなことを徹底して研究してください。一つの道を究めれば世界が開く」と常々いっている僕の言葉を素直に受け止めたのか…。「あの、私、『イモケンピ』が好きなんです」。「はっ!」。「今回の課題、イモケンピツーリズムでいこうと思います」。「ずいぶん強引なツーリズムですね」。「はい」というや否や『イモケンピ』の魅力を滔々と語るHさん。「もしもし。ツーリズムはどこへ行きましたか」。「はい。鳴門金時というサツマイモは徳島県で、薩摩光というサツマイモは鹿児島県、その他いろんな場所で味の異なるサツマイモがありまして…」。「あぁ、それぞれの土の産物として『イモケンピ』の個性を表現するわけか」。「はい。『イモケンピ』で進めるのだめですか…」。「いいんじゃないでしょうか。『土の産物=土産物(みやげもの)』。土産物は、ツーリズムの重要なファクターの一つ。その地のポテンシャルが表現されるわけですから。進めていきましょう。『イモケンピ』で世界一の研究者を目指してください」。「はい」。Hさんのプレゼンが始まりました。衣装がすでに『イモケンピ』カラーでまとめられています。いつもとは逆に三木組のみんなが激写モードに入っています。「パシャ、パシャ、パシャ」。「おい、おい、プレゼンはじめてくださいよ」。「は〜い。私『イモケンピ』が大好きなんです」。いやはや本当に『イモケンピ』が好きなようです。パッケージはもとより映像まで準備されていて、最後には「試食してください」と『イモケンピ』が三木組のみんなに振る舞われました。おいしいプレゼンテーションにみんな満足。「好きこそ物の上手なれ」。

『てとてと』
こつこつと丁寧に仕事を進めるYさん。ほとんどの学生が締め切りの1週間前ぐらいからエンジンがかかるのに対して、毎回の授業の確かな積み上げでコンセプトを探していくYさん。もちろんラストスパートもしっかりとしてきます。丁寧に丹精を込めるという言葉がピッタリです。「あの、天王寺というみんなが知っている街の魅力を『作る・感じる・行動する』といったコンセプトを元に再発見できないかと思うのですが…」。「もう少し、具体的に内容を教えてもらえませんか」。「はい。人の手の動きを見ていると、それぞれの考え方を具体的な活動にしていく象徴のように映るんです」。「そうですね。人の指先は『脳のアンテナ』と比喩されるように、たくさんの神経が集まり脳に直結している。人類は直立歩行をすることにより手の自由を獲得し、脳を高度に発達させてきたといわれていますからね」。「そこで、『天王寺の手』と題して『やってみて・はたらきて・みつけて』という3つのコンテツでフィールドワークを実施したいと思っています」。「ほう〜。いい発想ですね。がんばって」。
翌週「天王寺の街のフィールドワークを実施しました。『やってみて』で面白かったのは動物園の『おやつ・ごはんタイム』と称して動物に触れ合えたこと。他にも街中がどこかなつかしいエンターテイメント性におびていて、スマートボールのお店などもありました。次に『はたらきて』では、動物園で働く方へのインタビューも敢行してきました。他にも『見つけて』では、私の視点でみつけた天王寺を撮影してきました」。「うわっ。すべての写真に『手』がはいっていますね」。「はい。これらの情報をまとめて『てとてと』という情報誌をつくります」。「『てとてと』ですか?」。「はい。天王寺の『て』と手の『て』にオノマトペの『てくてく』散歩などを捩って『てとてと』です」。「ほう」。「それ以外に観光に付き物のお土産も『て』に関するもので作ろうと思います」。「いいですね」。Yさんの『手』の発想。一生懸命作り上げた編み物のような編集性に満ちていました。

さて、みなさん、いかがでしたか。三木組奮闘記。考え方の考え方をみつけるワークショップ。「どこから手をつけていいのやら」困り果て「えいや〜」と思いついたアイデアから絵にしていく人。「う〜ん、う〜ん」と、考え込んでコンセプトが定まらないと絵にできない人。「走りながら考えて!」とマンツーマンで並走しながらコーチングするも「走り方がわからない。考え方がわからない」と泣きそうになる人。それぞれが四苦八苦して前へと進む。のたうちまわる根気とでもいうか、右往左往しながら考え方の拠り所をみつける。その瞬間、一気にデザインの神様が微笑みかけてくるのです。デザインの神様が微笑んでくれるツボを一つ伝授。相手の喜ぶ顔を想像しながらデザインをする。自分のためにデザインをするんじゃなくて、お客様のその先のお客様が嬉しくなるようなデザインを想像する。言い換えれば、社会のその先の暮らしが楽しくなるデザインを想像する。「喜びをリレーする」。すると、なんだか自分も嬉しくなってくる。つまり、デザインはリレーションなんですね。いろんな関係を探す旅に出かけようというのが『〇〇ツーリズム』の真のコンセプト。まずは、話すことから始めよう!