KenMiki & Associates

オー・マイ・ゴッド!

TAIPEI WORLD DESIGN EXPO 2011の関連イベントで台湾に来ています。台北から台南へと新幹線で移動して翌朝講演。そして、すぐに台北に戻る強行軍。台南に着くや否や市長を交えての晩餐会。「ところで、リハーサルはいつするの?」。「えっと、えっと…明日」。何だか不安が募ります。というのも文化の違いなど、海外での講演で問題が起きずに進んだ試しがありません。今回は、台北と台南で異なる講演者が予定されており、僕がトップバッターを任されています。「じゃ、明日は本番の2時間前で…」。「2時間前ですか?」。どうやら、事前のリハーサルが組み込まれていない様子。翌朝、約束の時間に会場へ行くと、まだ設営中。「いつテストが出来るんだろう?」。「いつでもどうぞ」。いつでもって、映像は映し出されているものの正面のスクリーンではなく、会場左右のスピーカーや凹凸のある壁。正面にスクリーンらしきものがありません。「じゃ、緞帳を上げて正面のスクリーンを出して」。「…」。「だから、早く!」。「正面にスクリーンはありません。投影するのは、今映ってる左右の壁です」。「ちょっと待って、1800名ものオーディエンスが来るんでしょ。ここじゃ1階の奥の席や2階、まして3階は全く見えないよ」。「…」。「それに、壁に埋め込まれたスピーカーがあり、これじゃスライドに大きな絆創膏を貼ってるみたいじゃない」。「…」。「加えて、建築物の構造が壁にいっぱい飛び出しているから映像がいたるところで歪んでる」。「映像をしっかり見て!ちゃんとスクリーンに映さないと画質がドヨーンと濁ってる。こんな状況で講演できるわけないでしょ!」。「でも、これしか用意できない」。僕の怒りは、爆発寸前。見かねた関係者の一人が「これはあまりにひどい。国をあげてのデザインイベントなんだから、何とかしないと!」。「これしか用意できない」。「大型プロジェクターはないのか?」。台南の隣『高雄』(車で1時間以上かかる距離)までいかないと大型プロジェクターが手に入らないと説明してくる。よって「今からでは無理」の一点張り。「こんな状況で講演なんて出来る訳ない!」と大爆発。そこに台南市の市長が主催者として挨拶のために登場。このただならぬ緊張した空気を察知した市長が「大変申し訳ない。ただ、受付に学生が溢れていて入場させないと収拾がつかない。なんとか、講演を…」と頭を下げられます。「でも、国際的なデザイン会議で映像がまともに映らない講演なんてあり得ない」と、引き下がらない僕。海外でのトラブルにはしょっちゅう巻き込まれますが、今回は最大級のピンチです。そこに、入り口付近で溢れていた観客が入場してきました。市の関係者が飛んで僕の所にやってきて「お願いします。事故が起きてからでは…」。
「オー・マイ・ゴッド!」。「うぅ…」。スライドのテストどころか…。怒りを抑えながら控え室に。市長の話が始まりました。こうなったら開き直ってやるしかありません。国際問題になっちゃう。冷静になって50分の講演、なんとかやり終えました。拍手は舞うものの、観客に響いたかどうか不安です。そこに、ある大学教授がやって来て「素晴らしかった。感動した。あなたを私たちの大学の客員教授でお招きしたいのですが…」と、これも唐突な話。「えぇ…」。即答は控えましたが落ち込んでいた気持ちが少し晴れたような…。いや、さらに不安なような…。そして、昼食。引っ切りなしに台南市の文化局や主催者がお詫びにやって来て食事どころではありません。そして、午後からの講演会場に戻ると、「えぇ……!」の最大級。大型スクリーンが設置されているではありませんか。市長の命令で『高雄』へプロジェクターを借りに行った様子。「出来るんじゃない!」。再び「オー・マイ・ゴッド!」と、頭を抱える僕に、他の講演者からは「Kenのおかげでスライドがきれいに映った」と喜ばれる始末。講演後すぐに新幹線で台北へ。すごい強行軍です。そして、台北では、オーディエンスとなって他の講演者の話を聞く予定が、主催者から「台北でもう一度講演をしてくれないか」と前日の夜に依頼がありました。「こうなったら、やけくそ。何でもやったるわい」で、26日11時30分から台北で再度講演することに。「神さま、今度は設営が上手くいっていますように…」。

矩形のグレーがスピーカー。構造物により歪む映像。壁の目地が画像に見える。



三木組奮闘記[気づきミュージアム]

後期の授業が始まりました。僕の授業は、15週で学生が「ガラッ」と入れ替わる選択科目。夏休み最後の土曜日に前期の学生達を僕の事務所に招待して『三木組卒業式』という名の茶話会を開いたのが9月10日。翌週の17日は『三木組入学式』という名の初授業。またまた始まりました三木組奮闘記。楽しくやるよ。みんながんばってね!
それでは課題の説明。今回の課題は、『気づきミュージアム』です。『観察力』と『想像力』を活かして『デザイン力』を身につける課題です。町に出かけ路上観察を行ってください。いつもの見慣れた風景に目を凝らして、気になるモノやコトを採集してください。最低でも一つのテーマで50以上。規定の『フィールドカード』に記録してください。その観察した素材を元にあなたのユニークな想像力で『気づきミュージアム』の企画とデザインを考えてください。考え方の参考に事例をあげます。

事例1
アスファルトのすき間やコンクリートの割れ目に生える雑草や苔ばかりを記録して『町中雑草庭園』と名づけてみます。あなたの観察力と想像力で町で目にする雑草を庭園と見立てたとします。大きな地図に採集した場所を示し、それぞれの写真を巨大に拡大して展示。観客はガリバーになったつもりで会場を観覧。告知ツールのポスターは、苔をコラージュしたタイポグラフィで表現。チケットは、道路の写真に草のカタチが切り抜かれた平面でありながら立体感のあるデザイン。ミュージアムグッズや作品集も採集した雑草でデザイン。ミュージアムCafeのメニューは、摘み草サラダを期間限定で準備。このように路上観察で発見したモノやコトをあなたの想像力でデザインへと繋げてください。

事例2
『文字』をテーマに路上観察に出かけてみる。くるくると巻かれたホースがアルファベットの『O』の形に見えてきたとします。すると工事現場の脚立が『A』に見えてくる。あなたの想像力を活かして路上観察をしながら『A』から『Z』までを採集してみる。それを拡大して展示。ミュージアムグッズや作品集にも展開して販売。また、それらのアルファベットで文字を組む。展覧会のツールやサインは全てその文字を使用する。何だか楽しそうに思えませんか。『気づきミュージアム』にやってきた人が「あっ!」とか「ほぉー」と感心する展覧会を企画してください。ミュージアムのアクティビティ(活動)を想定しながらデザインへと仕上げてください。

1. Exhibition 展覧会(気づく・感じる)
2. Education 教育(学ぶ・育てる)
3. Design 商品開発(作る・売る)
4. Society 交流(語る・繋がる)
5. Publication 出版(伝える・広げる)

『気づく・感じる・学ぶ・育てる・作る・売る・語る・繋がる・伝える・広げる』。「ほらっ!」動詞で考えてみるとミュージアムの活動領域が動いて見えるよ。あなたの『気づき』で心が動く。そんな提案を期待してますね!

三木組卒業式


夏休み最後の土曜日に三木組『前期』の学生達を事務所に招待して『三木組卒業式』と銘打って茶話会を開催しました。茶話会といってもアルコールも準備したので結局は飲み会になってしまったのですが…。ちなみに、僕の授業は選択制で、『前期・後期』と15週で学生が入れ替わります。グラフィックデザイン学科の3回生を対象に『コミュニケーションデザインとは何か?』について研究しています。言い換えれば、「伝わる・気づく・感じるといった人の心に響くデザインって何?」と自らが問い続けることで、『コミュニケーションデザインにおけるおもてなし』を学ぶ授業なんです。「『おもてなし』ですか?」なんて声が聞こえてきそうですが、「そう、『おもてなし』なんです」。『茶の湯』の世界に『利休七則』ってあるのをご存知ですか?

一、茶は服のよきように点て
「服」とは、飲むこと。飲む人にとって「調度良い加減」に茶を点てること。「その時、その場所での客の気持ちを察して、よく考えて」と説いています。ただし、これは単に客の好みに合わせなさいといっているのではありません。
[相手の気持ちや状況を考える]

二、炭は湯の沸くように置き
ここでいう「置き」とは、「湯の沸くよう」にするための行為全体を表しています。釜の湯の沸く音を聞き、点前にかなった湯の熱さ加減を知ること。その加減の源となるのが炭。点茶における準備の重要性を説いています。
[本質を見極め、段取りをしっかり組む]

三、花は野にあるように
ここで注意しなければならないのが、「あるように」ということ。「あるままに」ではないのです。野に咲いていた花を感じさせるような生け方を表す言葉で、ただ写真に撮って「あるままに」を再現するのとは違うと説いています。つまり、野に何輪もの花が咲いていたとしても、一輪でそれが表現出来れば「あるように」といえるのです。余計なものを省く程、受け手の想像にふくらみが生まれていくのです。
[表現は、本質を知り、より簡潔に]

四、夏は涼しく冬暖かに
色や音などを使った感性を振るわす演出で『夏は涼しく冬暖かに』を表現してみる。『見立て』を介して、もてなす側と受ける側の知性と感性を刺激し合う。そこに深いコミュニケーションが育まれていくと説いています。
[もてなしは、相手を想う心で]

五、刻限は早めに
これは、単に時間厳守を説いているのではありません。いかなる場合でも、現実の時間よりも自分のイメージの時間が常に先行していれば、その時差が心の余裕となって平常心でいれると説いています。
[ゆとりを持って人に接する]

六、降らずとも傘の用意
「備えあれば憂い無し」とは少し意味が異なります。「憂い」とは自分自身の心配。 ここでは、招く客の立場になり、相手に「憂い」を持たせないために不測の事態を想定しておくと説いています。
[万人の憂いを想定して備える]

七、相客に心せよ
同席した客に気配りをしなさいということです。お互いに気遣い、思いやる心を持つように、と説いています。 これこそが、『茶の湯』の真髄といえる言葉。
[一期一会、無垢な心で]

といったわけで、「『利休七則』は、コミュニケーションデザインに繋がるでしょ!」。この『コミュニケーションデザインの極意』を三木組卒業式で感じてもらおうと、三木健デザイン事務所のスタッフ全員でおもてなしの準備です。午前中から2時間かけてお掃除して、買い出し。手作りでお料理を準備して、サプライズゲストにアコーディオン奏者のAZ CATALPA(アズ カタルーパ)に来てもらい歌ってもらう。はじめて彼女の歌声を聞いたのは、1ヶ月ちょっと前。プロダクト・空間デザイナーの柳原照弘さんのスタッフDavidがスイスに帰るお別れパーティーの日。アコースティックな音色が心にしみて涙が出そうになったんです。この感覚を三木組のみんなにも伝えたいと咄嗟に想い、その場で交渉。気持ちよく承諾してくれて、三木組卒業式のサプライズゲストとしてお迎えしたのです。三木組のみんな、楽しんでくれましたか。遊びも仕事も一生懸命だよ。そんなわけで三木健デザイン事務所では、『おもてなし』テストが今後の採用試験に入りま〜す。(笑)



三木組奮闘記『日本』

日本の魅力について考える課題です。日本の文化、日本の伝統、日本の技術、日本の産業、日本の自然、日本の政治、日本の芸能、日本の暮らし…。いろんな日本があなたのまわりに存在しています。一番身近にある日本についてじっくりと考えてみてください。知ってるつもりで、あまり知らなかった日本。あなたの住んでいる日本の魅力を世界に向けて発信するプロジェクトです。ワクワクする日本、ディープな日本、チャーミングな日本など『トキメク日本』をあなたの視点で再発見してください。「こんな日本だったら、世界がうらやむだろうな〜」なんて考えながら日本の魅力について語ってください。大きな視点で日本を捉えても、小さな視点で日本を捉えてもかまいません。まず、あなたの研究する日本にタイトルをつけてください。例えば、「日常の日本」「スローな日本」「おもてなしの日本」「かわいい日本」といった感じです。タイトルは『理念の声』です。あなたが表現したい内容がタイトルになって現れてきます。いいかえれば、表現したい内容が見つからないとタイトルが決められないということです。そして、そのタイトルにデザインが沿っているかを確かめてください。この時、デザインを通して物語が見えてくるような表現を心がけてください。表現の方法は自由です。商品開発をするもよし、イベントを計画するもよし、コンセプトに沿っていれば歌っても踊ってもよしです。三木組の多様な視点が集まると、どんな日本が現れてくるでしょうか?「気づく・感じる・伝わる」といった3つの視点でデザインを進めてください。「こんな日本なら世界に誇れる。ねぇ、ねぇ、日本に来ない!」と、思わず叫びたくなるような日本をデザインしてください。

JENGA(ジェンガ)
前回の課題で『歯のぬいぐるみ』を制作して圧巻だったHさんが、今度もユニークな発想で『日本』を提案してきました。「みなさ〜ん、ジェンガというゲームをご存知でしょうか?」。「ここにある直方体のパーツをタワーのように組み、参加者が交代でパーツを一片づつ抜き取り、最上段に積み上げていくゲームです」。「タワーを崩した人が負けになるのですが、このゲームを見てると日本の中小企業の経営構造が重なってくるんです」。「えっ、どういうことですか?」。「ジェンガでパーツを抜き取り上へうえへと積み上げていく姿が、会社をより大きくしようと人材の引き抜きや昇進を繰り返す『日本』の『人事異動』に映るんです」。「ほう〜」。「そして、企業が大きくなって『業績拡大』」。「ふむ、ふむ」。「すると、理念を見据えず、慌てて拡大をするものだからカタチばかりが大きくなって中身がスカスカに…。つまり『産業の空洞化』ってやつなんですね」。「ほう〜」。「そうなると、取り返しのつかない状況になり今にも倒れそうになります。いわゆる『経営危機』です」。「なるほど」。「みんな必死に持ちこたえようとしますが…。大きな音を立てて『倒産』。あんなに苦労して積み上げてきたものが一瞬にして崩壊です」。「う〜」。「でも、これで終わりではありません。『再建への道』を模索していきます」。「うへ〜」。驚きました中小企業をテーマにジェンガによるゲーム『JAPAN』を作ってきました。まるで、社会の縮図を見るかのような構造に三木組のみんなが感服しています。別紙には、このジェンガに登場する30人の性格が記されていて、典型的な日本人のキャラクター像を設定しています。そして名前は、佐藤さん・鈴木さん・高橋さんと日本人の苗字の多い順になっているではないですか。「いゃ、参りました。前回の課題に続いて三谷幸喜もビックリするような、笑いあり涙ありの『日本』が表現されています」。クラスの中から「このゲームを売り出して欲しい!」という声が飛び出してきました。どこか発売しないかな。いの一番に買いにいくけど…。

かすか
日本人が持つ、かすかに渋いやほのかに苦いといった極めてセンシティブな『味覚』の感性と、五味という味覚分類から発想する『東洋医学』の思想をコンセプトに『薬味』の商品開発を提案してきたSさん。『見る』や『聞く』とは少し違う、直接カラダに入れる『食べる』という行為で『味覚で体感する日本』を表現してきました。
「みなさ〜ん、ネギやショウガやワサビに代表される『薬味』を『薬の味』と書くのはご存知ですよね。じゃあ、なぜ『薬味』と呼ぶようになったかご存知でしょうか?」。「う〜ん。ネギやショウガやワサビが薬の味がするから?」。「私もそうかなと思ったりしたのですが、ちょっと調べてみると、もともとは、医学用語として使われていた言葉だったようです。薬の書物「神農本草経」によると、食物には五味があり、それぞれに応じた効能があるとされていたようです。五味とは、甘・苦・酸・辛・鹹(塩味)のことで、甘い、苦い、酸っぱい、辛い、塩っぱいといった5つの味覚から食べ物を分類し、一人ひとりの体質や病態などに応じた摂り方が大切だと考えられていたそうです。そこで、この五味を『薬味』と呼ぶようになり、薬としての品質や成分の特徴が定まったらしいのです」。「ほ〜う」。「そこで、甘い、苦い、酸っぱい、辛い、塩っぱいといった五味から『東洋医学』の健康思想にあてはまる5つの食材を選び、私たち日本人の極めてセンシティブな『味覚』の感性を海外の方に伝えるプロジェクトにしたいと思ったのです」。「すご〜い!」。「そこに日本の健康思想を表現することわざを選びデザインへと仕上げました」。「・・・」。三木組のみんな唖然として言葉を失っています。授業中「デザインを始める前に物事の源を見つめること」と、口が酸っぱくなるほど伝えてきました。「その酸っぱさが、五味の一つだったの?」と洒落てみることで次のプレゼンテーターの肩をほぐさないといけないぐらい三木組全体が真剣モードになってきました。


I ♥ Japan
授業以外でも多くの展覧会やデザインイベントに積極的に参加する意欲満々の二人のYさん。今年の日本グラフィックデザイナー協会の新人賞、大黒大吾さんの個展作品『人体百図』に虜になっている様子。「私たちの制作する『日本』なんですが47都道府県をテーマに『人体百図』のような作品を作りたいんですけど…」。「えぇ…」。「…」。「学ぶの語源が真似るだから気に入った作品に影響されるのはいいとして、コンセプトはなんですか?」「はい。Glocal(グローカル)です。Glocalは、Global(グローバル)とLocal(ローカル)の造語で部分から全体を見るという意味です。今回の課題『日本』を考えるにあたって私たちは日本のLocal、つまり地域性や文化性こそが日本を作り出しているのではと考えたのです」。「ほぅ、ほぅ」。「そこで、都道府県それぞれに根付いた文化を調べ、それをロゴタイプなどに落とし込みヴィジュアル化することで独特の文化性を直感的に感じてもらえるようなデザインにしようと思うんです」。「ということは、47都道府県の全てをデザインするということなんですか?」。「ハイ」。見事にハモリながらの返事です。「ちゃんと考えてきてるじゃないですか。要は、『人体百図』のようにたくさんの部分と全体の関係を見つめてみようということですね」。「ハイ。Glocalですから」。「なるほど」。「タイトルは、I ♥ Japanにしようと思います」。「いいんじゃないですか」。そして、プレゼンの日。「今日のために二人で合宿してきました。ほとんど寝てませ〜ん」。「それじゃ、始めてください。みなさん、かなりの枚数があるようですのでシートを並べるのを手伝ってあげてください」。すると、手伝ってくれたクラスメートから「あの…。都道府県が一つ足りないのですが…」。「うへぇ〜。『宮崎県』が抜けてる!どうしよう!後で作ります!許してくださ〜い」。その後、夏休みを迎え採点も終了したが、僕の手元には、いまだ『宮崎県』は届かない…。


COSCAP(コスキャップ)
「今回の課題、難しすぎますぅ〜。どこから手をつけていいか分からないです」。「そうですか?あなた方の住んでる『日本』の文化や暮らしを見つめればいいんですよ」。「だって、文化って…。それが難しいんです」。「じゃ、日本が世界に誇れるものって何ですか?」「えぇ?」「二人の好きなアニメなんて日本が世界に誇れるものじゃないですか。Made in Japanって胸を張れるものを想像してみてください」。「メイド イン ジャパン?あっ!わかった。『メイド喫茶』って日本にしかないサブカルチャーとちゃうのん。私『メイド喫茶』でバイトしてました」。「えぇ!」。こんな会話から始まったIさんとUさんの二人組が提案してきたのは、日本のオタク文化を集合させたサブカルチャー満載の『美容スタジオ』。メイクスタジオ・コスチュームスタジオ・メイド喫茶・グッズ売り場が併設されているのだとか。日本を守るヒーローという設定で作られたキャラクターを前面に打ち出して物語化をはかるらしいのです。プレゼン途中に三木組の仲間から「かわいい〜。これ欲しい」と、声がかかります。コスプレやメイド喫茶の経験を持たない僕は、彼女達のすごいパワーに圧倒されています。
「先生っ、メイド喫茶いったことないんですか?」「あっぁ〜」。「ご主人様っていってもらえますよ」。「いったことないんですかって、普通いかないでしょ」。三木組女子の何人かが首を振ります。「えっ、みんなメイド喫茶でバイトしてるの?」。「いいえ、楽しそうなので遊びにいったの」ですって…。

この他にも『妖怪』をテーマに『日本』のバナキュラー(土着性)を提案してきたYさんや『日本』のモノやコトの対価をお金によって知らせることでリアルな『日本』を直視する『MONEY JAPAN』を提案してきたDさん、Eさん、Kさんのグループなどユニークな提案が続きました。
みなさんいかがですか?デザイナーの卵たちの発想。ビックリするほど自由で心配になるくらい無邪気でしょ。三木組では、[理解→観察→想像→分解→編集→可視化]のプロセスをしっかり考えながらデザインをすることを教えています。
1.理解(ここが疎かなケースが多い)
2.観察(知ってるつもりが最も危険)
3.想像(仮説を立てる)
4.分解(再構築する)
5.編集(物語化する)
6.可視化(理念が動き出す)
全てのプロセスで「気づき」を探す。
つまり「気づきに気づく」ことで新しい価値を見つけ出すデザイナーを育てたいと思っています。いつの日か彼らがデザインを通して「喜びをリレーする」ようになりますように…。

天神祭

毎年恒例の『天神祭』の集いを今年も7月25日に開催しました。僕の事務所は『天神橋』と『難波橋』のちょうど中間の川沿いにあり、事務所の前の『大川』には、水の祭にかかせない『船渡御(ふなとぎょ)』に参加する船や筏が並びます。道側には、この祭りのメインイベントの一つでもある『陸渡御(りくとぎょ)』の行列が通ります。総勢3,000人の行列は、まるで時代絵巻を観ているよう。毎年、これを肴に一杯交わそうと集う仲間のために事務所を開放します。宵宮の前日には提灯をつけ祭を祝います。宵宮には獅子舞が事務所にやって来て健康を祈願してくれます。祭、本番の午前中には『催太鼓(もよおしたいこ)』の衣装に身を包んだ氏子が町内会を巡ります。事務所に招いて祭が無事成功することを願い『大阪締め』で手打ち。こうやって地域に密着しながら祭の準備を進めていきます。夕方、5時過ぎには陸渡御(りくとぎょ)を目当てに仲間が集い始めます。毎年、事務所のスタッフは、朝から掃除にお料理の買い出しにと大わらわですが、今年は料理研究家の堀田裕介さんとgrafの川西万里さんにお料理を依頼することに…。というのも以前から彼らの「土から水から考える、食の源を見つめる姿」に共感をしていたので…。二人の提案は、こだわり野菜いっぱいのお食事。一階のスペースでは、ウエルカムドリンクにトマトとキュウリの新鮮なサラダのみで『陸渡御(りくとぎょ)』に集中してもらいます。場所を移動して二階のパーティ会場は、机全体を目の前の『大川』と『中之島公園』に見立て、自然たっぷりの野菜で彩る。川に見立てられた柔らかいブルーの紙。『経木舟皿(たこ焼きを入れる経木のお皿)』に野菜を取り分け、『オリジナルの提灯つまようじ』を添えると、まるで天神祭の『船渡御(ふなとぎょ)』のように見えてきます。デザインにうるさい仲間が一斉にカメラを取り出して「パシャ!パシャ!」。「きれい。すご〜い」と拍手が沸き起こりました。「いただきま〜す」と、食べた瞬間「おいし〜い!」と歓喜の声が響きます。「食の力は凄い!」とあらためて感心です。仲間のみんなも大喜びで笑顔の花が咲きほころんでいます。
みなさん、『おいしい』の語源が『美し=いし』というのをご存知でしたか?『素晴らしい』、『見事』という意味の古語がはじまりで、長い時間を経て『美し=いし』に『い』がつき、『いしい』となり、その後、接頭語の『お』がつき、今の『おいしい』になったのです。漢字で『美味しい』と当て字をするのは、そういう理由から…。『おいしい』を準備してくれた堀田さん、万里さんは、本当に『おいしい人』たち。「ありがとう!来年もよろしくね!」。