去年の三木組が、今年の三木組のプレゼンテーションを観にやってきました。「やぁ、久しぶり!卒業制作、進んでる?」。「それが…」。「今日の三木組プレゼンテーション、どんな提案なのか見せていただきたいのですが…」。「いいよ。大歓迎!先輩として講評をしてやって…」。「はっ、はい」。というわけで、新旧相まっての三木組です。クラスに気持ちのいい緊張感が走ってきました。一人のプレゼンが終わると数人の学生に講評をしてもらいます。今回は、去年の三木組の3名と建築学科から参加してくれた1名(三木組奮闘記 前編の『横断歩道』でギターをひいていた男性)がゲストとして講評に参加してくれています。建築学科の学生の講評がなかなかユニークです。「建築的視点から見ると…環境的なことを配慮すると…」など、グラフィックデザインコースの学生とは違う発想や発言にクラス全員が聞き入っています。そして最後に僕が講評をして、次のプレゼンテーターへ。三木組『白熱教室』のような盛り上がりになってきました。
それでは、『◯+◯=行為と状況』の後編、はじまり、はじまり。
オオホリ食堂
「お母さんの味が好きな味」というステートメントのもと、『オオホリ食堂』という親しみやすい食堂を提案してきたOさん。「お母さんの作る料理はどうしておいしいの? ごはんを食べると元気になるのはなぜ? おいしいと会話が弾むのはどうして?」と、議論を重ねてきました。Oさんによると「おいしいと感じる時って、五感が笑うとでもいうのか、すごく幸せな気分になるでしょ。また、おいしい所って緊張がとれて居心地が良くて、ちょっとゆるくなれる自分がいるでしょ」。「お母さんの作る料理がおいしい訳って味はもちろんなんですが、安心や信頼がたっぷり詰まっていて、つまり『愛』なんじゃないかと…」。「そうですね。おいしいは本能が喜ぶこと。おいしいカタチは自然のカタチ。有機的でどこかプリミティブだよね」。「えぇ、それって表現にも関わる話しですよね!」。「そう、いいところに気づきましたね!」。
手作りの素朴なおいしさを表現するために版画によるヴィジュアルを作ってきた彼女。プリミティブな世界観が広がります。さあ、プレゼンがはじまりました。コンセプトの説明に続き、表現手法についての話です。「実は、鮭は木版画で作ったんですが、後は、時間がなくてゴム版削って手抜きになってしまいました。(笑)」。「そうなんですか、わざとかと思ってた!」。「鮭の精悍な荒々しいタッチと、たこさんウインナーのやわらかなタッチ。いい感じですよ。食材に合わせて表現を繊細に使い分けてきたのだと思ってました」。「あ〜ぁ、言わなきゃ良かった(笑)」。「実際のお弁当も作ってきました!カボチャ、ちょっと自信ありま〜す」。「ねぇ、みんな良かったら食べて!」。これはすごいです。お料理持参の食堂に仕上げてきました。実家を離れて下宿生活の彼女。将来、いいお母さんになりそうです。
散歩旅行者
「私、散歩が好きなんです」という話から始まった Iさんのプレゼンテーション。「散歩って、楽しいですよ!その日の気分で、いつもの道が違って見えることがあるんです」。「『散歩』という行為で『今まで気づかなかったものに出会う』という状況をつくることが私のコンセプト」。「名づけて『散歩旅行者』」。「散歩を旅行に見立てるんですね」。「はい。気づきや発見を旅行プランとして発信するつもりです」。「ところで『散歩旅行者』の『者』は、あえて『社』を使わないのですね」。「えぇ、人を表す『者』の方にしたいと思っています。気づきも発見も人が感じ、見つけることですから…」。「よく理解できました」。「実際の旅行プランなんですが、一つ目が『雨宇宙散歩旅行者』というプランです。都会の雨の日に道路に映る車やネオンの光って意外と綺麗なんです。透明のビニール傘を通してみると不思議な絵画のようにも見えます。その写真を惑星型のシールにして参加者にプレゼントします」。「 ほぅ〜。詩的な感性のツアーなんですね」。「二つ目は『道模様旅行者』というプランです。いつも何気に歩いている道の模様を採集するツアーです」。「街にあるタイルなどの図柄、よく見ると可愛いです。それをコラージュすると、パッチワークで絵を描くようでちょっとワクワクしてきます。その楽しさを体験してもらうワークショップ型のツアーです」。「ほぅ、ほぅ」。「三つ目は『喫茶店フォント旅行者』というプランです。散歩の時に見かけるお店のロゴタイプって、業種や業態によって特徴があるように思うんです。そこで、喫茶店のロゴマークばかりを集めるツアーを計画しました。私の集めたロゴタイプは、意外とノスタルジックな文字がたくさん集まりました」。見方を考える。編集をする。そこに何らかの気づきを発見する。『散歩旅行者』ユニークなアイデアです。
lml(エル・エム・エル)
「ライブハウスにいる50名にアンケートをとってきました」。と始まったUさんのプレゼンテーション。「『ライブハウスに何を求めますか?』の質問で、もっとも多い解答が『コミュニケーション』だったの…」。「ほ〜う」。「それで、音楽がガンガン演奏されている会場で、手を使ったオリジナルなコミュニケーションを提案するの…」。「それを『ハンドトーク』と呼び、そのコミュニケーションを取り入れるライブハウス&カフェを作ろうと思います」。「つまり、その空間における手の言葉『ハンドトーク』を交わす人々の『行為と状況』を設計しようと思います。みなさん『lml(エル・エム・エル)』メロイックサインは、ご存知ですね」。「う〜ん、知らない…」。「えぇ〜。先生、『lml(エル・エム・エル)』知らないんですか?」。「はい、なんですか、それ」。「ヘヴィメタルの音楽仲間が使ったり、スポーツ観戦の時にもやってるやつ。メロイックサインという呼び方は日本独自らしくって、海外ではコルナ (corna) って呼ばれているの」。「どんなサイン?」。「こうやって、人差し指と小指を立てて、中指と薬指をたたみ、そこへ親指を添えるの。ほら、英文字の『lml(エル・エム・エル)』のカタチになるでしょ」。といいながらサインポーズを指導してくれます。「どんな意味があるの?」。「悪運や邪視を祓う意味。地域によっては、屈辱を意味したりもするみたいなんだけど…。今では、いろんな解釈があって。私達は『めいっぱいロックしよう』という時に使うの…。それから、コルナは、イタリア語で角(つの)を意味するらしいの…。スポーツ観戦でHook ‘em Horns(角で掛けろ)って、やるやつ」。「ほ〜う」。「先生、やってみて!」。なかなか上手くできません。「ほら、こうやるの!」。「さあ、プレゼンを続けて…」。「はい!そこで、『lml(エル・エム・エル)』をこの店(ライブハウス&カフェ)のシンボルマークとします。そして、オリジナルの『ハンドトーク』を3つ準備します」。「1つ目が『友達になろう』。2つ目が『カッコいいね』。3つ目が『飲みに行こうぜ』」。それぞれの『ハンドトーク』に解説とポーズがつけられたシートが準備されています。自らがそのジェスチャーをしながら分かりやすく解説をしてくれます。振り付けがすごくチャーミングです。いま、話題の『マル・マル・モリ・モリ!』を彷彿とさせる、身体を使ったデザインになっています。楽しいコミュニケーションのとり方に三木組のみんなの顔がほころんでいます。さらに「ここでは、動物の権利を守る運動を立ち上げ、無謀な動物実験に抗議をしたり、その支援活動のための寄付を募ります」。「いま着ているTシャツも今日のプレゼンのためにデザインしてきたオリジナルです」。「ほんとだ!」。「可愛いでしょ!」。「いいデザインですね」。「それと、このポスターがライブハウスの中に貼られ、Tシャツなどのグッズがいっぱい売られます。もちろん売り上げ金の一部は、寄付する仕組みです」。これ以外にもカフェのメニューが、ヘヴィメタのファンなら「なるほど、なるほど」と思うミュージシャンの名前をもじったアイデアになっています。僕には、さっぱり分からない名前ですが、三木組の先輩でヘヴィメタのファンが「これ面白い!」と、僕に説明をしてくれます。「ユニークでしょ!」。「楽しそうでしょ!」。三木組の中で彼女の提案する『ハンドトーク』で会話をしている人達が現れました。まさに『行為と状況』が起き始めています。なんか、僕もヘヴィメタルのコンサートに行ってみたくなりました。
まずは、「『lml(エル・エム・エル)』のサインを練習しなきゃ!」。
色語(irogatari)
『色語(irogatari)』と題して、大阪芸術大学の校内のあらゆる色を採集してきたSさん。数メートルにおよぶ長い観察記録を準備してきました。「大阪芸術大学の校内を隈無く歩き、色という視点でこの学校が語れないかと考えました」。「日本の伝統色やフランスの伝統色という色見本帳のように『大阪芸術大学の創造色』とでもいうか色により校風が表現できないものかと…」。「大学にあるそれぞれのシーンに、クリエイティブの刺激を誘う名前をつけてきました…」。「『大阪芸術大学の創造色』に刺激を受けてクリエイティブの発想がより広がり『行為や状況』が生まれるのではないかと考えたのですが…」。
ここで紹介する『大阪芸術大学の創造色』は、ほんの一部。例えば、芸大の長い坂を登る時に見上げる空から選び出したのは、『はじまりの一歩』というブルーと『まっさらな気持ち』という白に近いブルー。歩道に敷き詰められた石から選び出されたのは『可能性のトルマリン』というブルーグレーと『クリスタルの心』という白。音楽学科の花壇にある花からは『かぐわしのトロンボーン』というムラサキや『花の踊り子』というピンクなどです。右脳を刺激するかのような『色語(irogatari)』。絵具や色見本帳や絵本となって使う人の心の中に創造力を宿らせるのでしょうか?Sさんが考えた『色語(irogatari)』=『大阪芸術大学の創造色』は、建学の精神から導かれる『自由の精神・国際的視野・創造性・実用的合理性など』を詩的に優しく意訳した『校風』という『カラー』なのかもしれない。『校歌』が『理念の声』であるとするならば、『創造色』は、理念を可視化させるという意味で『理念の目』と位置づけられるように思う。僕の想像力が少し広がりすぎたかもしれませんが、学生諸君に『理念なき所にデザインは生まれない』ということをあらためて噛みしめてもらいたいと思ったのです。
SLOWALK
「あなたの普段歩く速度はどうですか?」。「遅いですか?速いですか?」。「左右は?上下はどんな景色ですか?いつも前だけを見ていませんか?何か聞こえてきませんか?風はどんな香りがしますか?」。『SLOWALK(SLOWとWALKを合わせた造語)』。「いつもの道をいつもよりゆっくり。さらにゆっくりと歩いてみると…」。「見えなかったり感じなかった何かに出会うかも知れません」とプレゼンテーションを始めたOさん。締め切りを過ぎてのSLOW Presentationです。ゆっくり考えただけあってたくさんの気づきをもって来てくれました。
『SLOWALK』で見つけた『気づき』をファイルする『気づき手帳』とでも呼べるツールの提案です。『みつけてピクト』や『気づいて咲かせて』といったユニークな名前のついたコンテンツは、ゲーム感覚で何かの『気づき』に出会う度にシールを増やす遊び心を表現。また、『カラフルポケット』という色で『気づき』をファイルするコンテンツなどがあります。これ以外にもたくさんのコンテンツが用意されており、グッズとして楽しいデザインに仕上げてきました。Oさん曰く「いつもよりゆっくり歩くという『行為』の中から、いつもとは違う『状況』が起き、新しい『気づき』に出会うと思うのです」とのこと。視点を変えることで新しい価値に遭遇することがあると言っています。つまり『気づきへの出会い』を形状化するツールを作ることで『気づきを身体化』しようとしたのだと思われます。
みなさんいかがでしたか。ユニークでしょ。みんな自由な発想でしょ。この課題の製作期間が7週。今年の4月に出会った時は、与えられたものに解答を見つける習慣がついていた学生達は、何をどう考えて手をつけていいのか、頭の中が真っ白になった人もたくさんいたはず。「まだ、分からないで〜す」なんて人もいるかもしれませんね。でも、大丈夫!。あなたの意識が変われば見え方が変わる。すると、デザインの入り口に光が射してきます。『答えを考える前に問題の在処を探す』。これが、三木組のやり方。つまり、モノやコトの原理を探るとそのプロセスに『気づき』が潜んでいる。
『理解→観察→想像→分解→編集→可視化』。
「ここがポイント!」
1.理解(ここが疎かなケースが多い)
2.観察(知ってるつもりが最も危険)
3.想像(仮説を立てる)
4.分解(再構築する)
5.編集(物語化する)
6.可視化(理念が動き出す)
全てのプロセスで『気づき』を探す。
という訳で「三木組のみなさ〜ん、次の課題『日本』は進んでいますか?」。