KenMiki & Associates

三木組奮闘記 2年目の春

東日本大震災と福島原発事故から一ヶ月が過ぎました。いまだ全容が見えない厳しい状況に不安が募るばかり…。それでも桜が開花して春がやって来ました。『三木組奮闘記』2年目の春。新三年生の前期の授業がはじまります。三木組のみんな大丈夫ですか?それでは、元気に授業を始めます。三木組の授業は、「◯◯のポスターを作りましょう」や「◯◯のブランディングを考えましょう」といった媒体を設定したり、方法論を設定するものではありません。一言でいうと「自分で課題を探す」授業です。たぶん、いままで多くの人が与えられた問題に答えを探すことで評価を得てきたことと思います。だから、はじめはみんな戸惑います。もちろん、媒体の特性を知ったり、方法論を教わるなど基本を学ぶことは、とても大切なこと。三木組の授業のやり方を旅に比喩して紹介するならば、海外への一人旅を計画するようなもの。団体ツアーで行く旅と違って交通手段から宿の手配まで、すべての計画を自分でたてなければなりません。でも、旅の途中で気が変われば、自由に計画を変えて行動ができます。違う国に行こうが、同じ場所に滞在しようが全てあなたの自由です。自由だから「はい、準備しておきましたよ」なんてお膳立ては一切なし。あなたの考えで旅を楽しむ。これが三木組の基本です。旅の計画を立てたことのない方にとっては、ちょっと不安ですよね。「でも、大丈夫です」。すぐに慣れます。慣れるどころか、自由になってものすごく楽しそうに羽ばたいていった君たちの先輩を、僕は昨年の一年間たくさん見てきました。自分の目で見て、自分の手で触れて、自分の頭で考える。この当たり前のことが三木組の授業の基本です。WEBから得る情報を簡単に鵜呑みにしてはいけません。しっかりと観察する。納得するまで調べる。現場に足を運び五感全てを奮い立たせて実感する。この『観察』を重要視します。そして、そこで見つけた発想のヒントを『想像』へと膨らませることを体験してもらいます。『観察と想像』がデザインの種となる『気づき』を生みます。それを見つけた人は、勝手に羽ばたいていきます。僕の教育方針は、「自分のコピーを作らない」こと。つまり、僕のデザインを写させるような授業はしない。みんなの自由な発想力をより大きくジャンプさせる『跳び板』になること。上手くジャンプするタイミングやコツはアドバイスしますが、走るのも、跳ぶのも、みなさんの勇気です。未知なる道を自分で切り開く。これがデザインの旅のはじまりです。
それでは、[テーマ]を発表します。

[テーマ]
◯+◯=行為と状況

自らが課題を探す『課題』です。この課題は、『1+1=?』といった単に回答を探すデザインを求めていません。『1+1』の部分に『◯+◯』を、『=?』の部分に『=行為と状況』をあてはめてください。数式にすると『◯+◯=行為と状況』となるようなデザインを考える課題です。つまり、考え方をデザインしたり、つくり方をデザインする課題だと考えてください。従来の解決方法を導くデザインとは少し違う、答えを導くまでのプロセスをいかに新しい視点で組立てていくかといった課題です。言い方を変えれば、決められた道をどれだけ楽しくデザインするかといった考え方ではなく、未知なる道を切り開くことで『行為と状況』を生み出す、新しいコミュニケーションの姿をデザインの価値と呼ぼうとする考え方です。「まどろこしいですね」。少し事例を出して課題の説明をします。例えば、ある町が景観を活かして観光について考えるといった課題をあなたが設定したとします。町にある樹木の中で「子どもが木に抱きつき、手をいっぱいに伸ばしても届かない太さの木は、伐ってはならない」というルール(=コンセプト)を決めたとします。そのルールを『子どもがハグして決める伐採禁止法令』という呼び方(=ネーミング)にします。『成長した樹木は、“町の財産”。 それをみんなで見守る』といった考え方が理念です。町の子ども達が木にハグをしながら、「これ、町の財産」といって景観を守っていく姿が想像できませんか?そのハグする『行為』が、ちょっとチャーミングだと思えませんか?観光にやって来る子ども達も、こぞって木にハグするような『状況』が思い浮かびませんか?メディアやニュースは、「◯◯町の町議会で『子どもがハグして決める伐採禁止法令』が採択されました。町中の子ども達が、『この木、町の財産』といってハグをしています。ユニークな光景ですね」と伝え始めます。もし、こんなユニークな法案が採択されたとしたら、あなたならどんなデザインをしますか?子ども達が手を一杯に広げて木にハグしている写真を撮りませんか?もしくは、一本の木にたくさんの子ども達が登って、上から下までコアラみたいにハグする写真を撮ろうなんて考えませんか?なんだかワクワクしてきて、どんどんアイデアが飛び出しそうな気分になりませんか?『◯+◯=行為と状況』。この『◯+◯』は、考え方をデザインするプロセスだと位置づけてください。『美しい景観を残す+子ども達が見守る=そこに観光という行為や状況が生み出される』。新しいコミュニケーションの道を切り開く考え方を提案してください。自由になって、真剣になって、あなたが楽しくて楽しくて仕方がないデザインを考えてください。

いかがでしたか。三木組、新三年生の一回目の授業。
授業の最後に、三木組のみんなと『子どもがハグして決める伐採禁止法令』をイメージしながら記念撮影。「みんな、子ども達の気分になって!」。「はい、ポーズ」。子どもが木にハグする。ハグされた木が子どもを抱きしめる。三木組のみんなが子どもになったり、木になったり『行為と状況』。三木組のみんな素敵な笑顔です。