KenMiki & Associates

三木組奮闘記 考現学百貨店「発想のジャンプ力」

三木組奮闘記、後期の課題『考現学百貨店』のプレゼンテーションが始まりました。三回生にとって就職活動が始まるこの時期、そわそわしている学生も目立ちますが、三木組は容赦なし。やり直し、追加デザインが、どんどん出されます。そんな繰り返しの中から、今日は、3人の学生の作品を紹介。後期、やっと、エンジンがかかってきました。
路上観察でインターホンを採集してきた I さんとのコンセプトミーティング。「インターホンってなんだろう?」という話からはじめます。「外部と内部を声でつなぐ装置。目には映らない声を一本の線でつなぐ糸電話のようなもの?」と、発想のきっかけについて話していたら、突然、「私、一本の線でクロッキーを描いてるんです」。「えっ!どういう意味?」。「電車の中でクロッキーを描きながら人間観察してるんです。描き始めたら仕上がるまで紙面からペン先を上げないの! 複雑な線だけど全て一本の線で繋がってるんです! このノート観てください」。「えっ!これって全て一本の線なの? 本当に? どのくらいの時間で描くの?」。「2~3分です。先生、描きましょうか?」と言い出すや否や、あっという間に僕の姿を描いてしまいます。あっけにとられながら、「それなら、来週までに人間観察50人以上を描けますか?」。「ぜんぜん大丈夫! いつもやってることだもの。学校の行き帰りで描けちゃう!」。こうしてインターホンの観察から『One Line(一本の線)』という手法で人間観察を行うことに変更。彼女の日常がまさに『考現学』ではありませんか。
次の授業には、通学の電車で観察した50人のクロッキーをベースに、誰もが一本の線と認識できるデザインにして、カードやポスターを作ってきたのです。眼鏡の人だけを『One Line』で繋いでみたり、メールする人、本を読む人、眠る人を『One Line』で繋いでみたりと、時間や空間を超えて彼女の中にある感性が見知らぬ者同士を繋いでいきます。少しのサジェスチョンで、みるみる作品にクオリティが増してきます。そして、先日のプレゼンでは、自分で撮った路上観察の写真と『One Line』をコラージュしてオリジナリティあふれる作品へと仕上げてきました。加えて、トレーシングペーパーに『One Line』のイラストレーションを刷り、路上観察の際に撮っていた別の写真と重ねて、アートブックへと展開しています。いやはや、どんどん彼女の世界が広がっていきます。「ここまで来たら、もっともっと自由になって、本人も出会ったことのない自分に出会おう!」と発破をかけます。インターホンの声から始まったこのプロジェクト。まるで血管に血液が流れ出すように生命力があふれてきました。みなさん『One Line』と写真のコラージュ、いかがですか? すごく素敵だと思いませんか? なんだか、すごい新人作家が登場してきたようで、僕はワクワクしてるんです。


大阪をテーマとした考現学で人の頭にある『つむじ』を観察してきたMさん。「どこが、大阪なの?」と尋ねると「この人たち大阪に住んでるの!」。
すごく広義にとらえた解釈ですが、彼女のユニークな視点を壊さないように、『つむじ』観察からアイデアをジャンプさせるようにと伝えます。コンセプトミーティングで、「『つむじ』って、なんだか宇宙のようにも見えるね。『つむじコスモス』なんてネーミングどう?」とたずねてみると、「それ、面白いです!」。急に何かに気づいた様子です。次の授業には、『つむじコスモス』をヒントに『つむじキノコ』、『つむじキャンディ』、『つむじ亀』、『つむじ藍染め』など、いろんなものを『つむじ』に見立ててデザインをしてきました。彼女曰く、「考現学百貨店に来られたお客さまの『つむじ』をその場で撮影して、事前に用意したビジュアルを選んでもらい、すぐに合成してオンリーワンのデザインを完成させる。あっ!という間にオリジナルの『つむじグッズ』ができるという訳!」だとか。みなさん、このユニークな発想をどう思われます? それと、何ともユニークなのが『つむじキノコ』。じっくりと観てやってください。「男のキノコと、女のキノコなの!」だって…。
プレゼン終了後、本人に感想を聞いてみると、「こんなふざけたアイデアで課題を進めていいのかと思ったけれど、先生に『いいよ。楽しい発想だから思いっきりジャンプして!』と、いわれ無茶苦茶、面白かったで〜す」と、語ってくれました。それにしても、この発想力とジャンプ力、すごいと思いませんか! 彼女の『つむじ』観察の視点、「闇雲に摘まなくって良かった」が、僕の感想。何となくだけど、こんなユニークな視点を持つ人だから『発想のジャンプ力』で化けるんじゃないかと、閃いたのです。課題を正確に理解して答えを導くことは、極めて重要です。しかし、時に直感の赴くままに走らせる事も重要なんです。理屈より先に身体が動く。理論通りスキャンされた退屈なモノよりエモーショナルなデザインの発想が人を引きつける。これが「やる気」や「その気」の原動力となるのです。人は、後付けでも意味をもたせようとしていきます。感覚が開く瞬間。これが、「本気」になる目覚めなのです。


町にあるいろんな地図を収集してきたKさん。はじめは「どうしましょ!」と悩んでいましたが、コンセプトミーティングで何を思いついたのか「私、ドーナツ屋さんをしたい!」と。「えぇ!…」。唐突すぎます。ショートカットされた言葉に僕の頭がついていきません。よくよく聞いてみると「町にある『ぐるっと』したもの採集して、それをアイデアにドーナツをデザインするの。味も食感もドーナツのカタチもそこから閃きをもらうの…。そして、そのアイデアの元になった『ぐるっと』したものを地図にして、お店の周辺にある『ぐるっと』をパッケージに展開するの!お客さまが、その『ぐるっと』を探す楽しみができるでしょ! 題して、『ぐるっとドーナツ』で〜す」だって…。「ほぅ!」。よくそんな突拍子もない発想が思いつくものです。しかし、お客さまとのコミュニケーションのカタチをその町のポテンシャルを生かした『ぐるっと』というキーワードで繋ごうとしているのですから、単にモノを作るだけでなく、コトへと展開をしようとしています。どんなドーナツになることやら、期待と不安が入り交じりますが「がんばってね!」と、応援します。「ハイ。がんばりま〜す!」といって、彼女、次の週はお休み。「えぇ〜、がんばるんじゃないの?」と、思っていたらプレゼンの日の授業の終わる頃、駆け込んできて「まだ間に合いますか?」と。「さっきまで、デザインしてたんですが、まだ作りたいもの全て出来てないんです。プレゼンどうしましょ?」。なにやら、いっぱい持ってきている様子。「まずは、出来上がっているところまで見せて!」。「おいおい、いっぱい出来てるじゃない!」。奥に秘めたすごい闘志が、30種類ものドーナツをデザインしてきました。「まだ、完成じゃないの!」という彼女。「来週、もう一度プレゼンさせてください」。えらいことになってきました。デザイナーズ・パティシエ の誕生です。本当に「がんばりま〜す」でした。感心しながら、彼女のプレゼンシートを観ていたら「ここのところ、いろんなドーナツいっぱい食べて、ちょっと、飽きてきちゃった!」だって…。
それにしても、すごいパワーです。それぞれのドーナツのシンボルもデザインしてきて、涼しい顔で「飽きてきちゃった!」ですよ。次回のプレゼン(いや、本日の午後の授業)どんな『ぐるっとドーナツ』を展開してくるのだろう? ちょっと楽しみ…。
というわけで、後期の三木組奮闘記。みんなの『発想のジャンプ力』に驚かされています。「すごいね!君たち!」。僕も「がんばりま〜す」。