KenMiki & Associates

「生きる」という創造への決意

事務所の打ち合わせ室の大きなタブローの作者で、僕のコラムでもおなじみの山本画伯。彼がイタリアの個展から一時帰国した翌日、不整脈で緊急入院したのが昨年の10月。地獄の三丁目から生還して、まだ3ヶ月しか経っていないというのに無謀にも個展を開くというから驚きです。会場は大阪の老舗画廊の番(Ban)。ちなみに番画廊のロゴタイプの作者は、昨年亡くなられた日本デザイン界の巨匠、早川良雄。いろんな作家の個性を受け止める画廊の本質を見抜き、デザインの痕跡をこれっぽっちも感じさせない長期の使用に耐える普遍のロゴタイプです。
その画廊の一年の始まりが、ここ数年画伯の個展で幕開けしています。それにしても信じられない回復ぶりです。というか、ずいぶん無理をして制作したに違いありません。オープニングパーティの開催された1月18日の前日には、「空白の一日」で江川と電撃トレードをされた投手の小林繁が急死して、学生時代によく聴いたアンダーグラウンドの「ブルースの女王」浅川マキが亡くなって、「死」についての意識が僕の中でいつも以上に広がっていました。生と死の間をここ数年で2回もさまよってきた画伯が描くのは、「もう一つの自然/Another Nature」。抽象化された自然の中で静かに生成を繰り返すかのような有機的な造形。僕の眼には、生きる喜びに満ちた「いのちのダンス」のように映ります。それは、闇の中で目を閉じ、光の方向に顔を向けた時に、まぶたの奥に微かにうごめく光の脈動のような、確かな「生」への息づかいにも似ているように思えます。死の淵をさまよう恐怖の中で見つけ出す光。そこに創造の原点があるように感じるのです。つまり、「生きる」という苦悩こそが創造に試練を与えてくれるのです。
僕は、幸いなことに肉体的には死の淵をさまよった経験はいまのところありませんが、先の見えない闇の恐怖に怯え、もがきながら光を探した経験が若い頃にあります。その光が僕にとってはデザインだったのです。途方に暮れていた青春時代、何もかもが見えなくなりかけていた時にデザインに出会い、すがるように生きた思いがあります。山本浩二の作品には、夜明け前の最も暗い時間のつらさをも受け入れるような魂の躍動が感じられます。作家の生きざまや理念が絵になって表れています。個展会場で何気に撮った二人の写真。「生きる」という創造への決意を表明しているようで気に入っています。