KenMiki & Associates

講演

昨日に引き続き、香港からのコラム更新です。
10月から続いてきた海外での講演の4回目が昨日終了しました。いずれも主催者が異なり、こんなに慌ただしく世界を飛び回ったのは生まれて初めてです。その間の日本での講演を含むと3ヶ月で計6回もやっています。2週間に一度の割合で人前で話してきたことになります。長かった。そんな講演の今年の締めくくりが香港ビジネス・デザイン・ウィーク(BODW)です。講演前に2名の同時通訳の方との打ち合わせは約10分。事前に提出済みの原稿に変更内容を伝えただけでおしまい。と、いうのも原稿を読みながらの講演だと、どうしても相手にメッセージが届かないような気がして本番はアドリブで話すつもりです。ベテランの同時通訳の方は、いろんな講演者の話を通訳していて専門用語の意味とか話の中で登場する文化的背景などはすでに渡している原稿から予習済みとのことです。よって、僕の話がある程度広がったとしても大丈夫らしいのです。「頼もしい」。同時通訳の方のプロの仕事にひと安心です。
気合いが入ってきました。
その後、自分のコンピュータをBODWの係の方に渡したのですが担当者がいまいち頼りなさそうなのです。おとといのリハーサルの時から少し気にかかっていました。本番前にプロジェクターとコンピュータのラインを繋がずに映像が映らないと慌てているのです。あまりに初歩的なミスだと思いませんか。そして、僕のコンピュータのシステム環境を勝手に開き、何やら操作をしようとしているではありませんか。本番5分前ですよ。さすがに「さわらないで!」と叫び、ラインの繋がっていないことを指摘。「あぁ〜」といって照れ笑いしています。ヒヤヒヤしながらもこれで安心と思い僕は壇上へ。順調に講演が進みオーディエンスの視線が熱く感じられてきた頃、僕の計画では、ある仕事のためにオリジナルで創った音楽を会場に流す予定です。「それでは、この仕事のために創った音楽をみなさんにお聞きいただきたいと思います」。僕は、コンピュータのボタンをポンッと押します。「えぇ?」。「あれっ?、音が出ない」。リハーサルの際、会場内のすみずみにまで目を配り、映像の見え方や音のボリュームも全てチェックして担当者に指示しているのに…。最大級の「ウヘェ〜〜〜」です。後で知ったのですが、差し込んだプラグがリハーサルの物と違っていたらしいのです。僕の心中は、まるで紅白歌合戦の小林幸子の衣装の仕掛けが動かなかったような気分です。「いや、参りました」。今まで海外でたくさんのアクシデントにみまわれてきた経験があるのでリハーサルの際、念には念を入れてチェックしていたのですが…。今日の朝にもう一度やっておくべきでした。こうなったら気持ちをすぐに立て直し「先程、何があったの?」と、いった顔で話すしかありません。内心は慌てているのですが、こんな時は、できるだけゆっくりと話す事が大切です。「ゆっくり、ゆっくり、さらにゆっくり」と、自分に言い聞かせます。
話は、徐々に次の山場にさしかかります。そこに仕組んだ映像が今度は動くかどうかが心配です。ここは、僕のコンピュータがよほどのアクシデントに出会わないない限り上手く動くはずですが、数年前の名古屋の大学での悪夢が僕の頭をよぎります。その時は、事前のリハーサルで電源を足に引っかけ、講演前にコンピュータが落下したのです。いろんな経験を重ねてきました。ここは無事、映像が流れました。遅ればせながらですが、僕のエンジンも徐々にかかってきました。すると、今度は客席から残り時間を知らせるBODWのスタッフが「後、10分」と、伝えてきます。「お前ら、音が流れなかったトラブルの時間を差し引いて、時間ボードを上げてるのか」と、心で突っ込み、後は全くボードを無視して自分のペースで話を組み立てていきます。観客から「クスッ」と笑い声が聞こえ始めました。こうなればもう大丈夫。オーディエンスの中には、僕の話に身を乗り出している方が目立ってきました。そして、講演の最後に理解の巨匠、リチャード・ソールワーマンさんの言葉を借りてと伝え、「理解とは何か?」と話しました。「僕の講演を聞かれたあなたが、自分の目で見て、自分の耳で聴き、自分の心で感じたことを、自分の言葉にして他の誰かに僕の講演の内容を話してください」。「あなたの話を聴かれた方が、なるほど!と言った時、あなた自身が僕の講演の趣旨を理解したことになる」。といって締めくくりました。『話すようにデザインをする Design as We Talk』の講演タイトルが示すような滑らかな話にはなりませんでしたが、まずまずの講演といったところではなかったでしょうか。結果、10分以上の時間オーバーになりましたが、講演後のオーディエンスからは「全く長く感じなかった。面白かった。この話の続きをもっと聞きたい!」といっていただき、ちょっとホッとしました。その後のパーティで主催者から「コミュニケーション分野で学生から一番人気の講演でしたよ」とお褒めの言葉をいただきました。『喜喜』のDOUBLE HAPPINESSな気持ちです。講演後、4社のメディアからインタビューを受けました。今日の僕の仕事が全て終わって、いまからは僕のお目当ての建築家の講演を聞きにオーディエンスとして走ります。プログラムのタイムスケジュールからして「ほんの、少ししか聞けないだろうな」と会場に着くと、全体のスケジュールがずいぶん押していて前の方がまだ講演をしています。スピーカーのみなさん、自分の考えをしっかりとメッセージしようと、予定の時間をはるかにオーバーしている様子です。僕と一緒です。「そうだよな。自分のアイデンティティや考え方をしっかり伝えなきゃいけない講演で少々の時間オーバーなんて問題ありません。きっちりと伝えたい事が届くかどうかの方が大切です」。とんだアクシデントに見舞われた今回の講演。またひとつ打たれ強くなりました。10月から始まった海外での連続講演は、きっと今後の僕のデザイン活動や人生に大きな影響を与えてくれると信じています。それにしても長い3ヶ月でした。

P.S.
そうそう、ここに掲載した写真。すべて僕のデジカメを使って廣村正彰さんが撮ってくれました。さすが日本を代表するデザイナーです。構図がすばらしい。 
Photo by Masaaki Hiromura. ノントリミングで掲載しています。廣村さんありがとね。