KenMiki & Associates

借風、借水、すべて地球に借りています。

風や水の力で動く立体造形作品で活躍する新宮晋さんと久しぶりにお会いしました。フランスでの個展が終了して一時帰国されたとのことで、12月に渡仏する合間をぬって僕の事務所を訪ねてくれました。新宮さんの屋外作品は、建築家のレンゾピアノさんや安藤忠雄さんの建築などでも見受けることができ、世界中の美術館や公園に設置されています。室内作品で僕の好きなのは、三宅一生さんのパリコレで会場を埋め尽くした立体造形がモデルの動きにシンクロするように微妙な風に反応して静かに揺れるものです。
僕が新宮さんの作品を初めて知ったのは、17歳の頃だったように記憶しています。神戸の三宮に設置されていたものと兵庫県立美術館がコレクションしていたものでした。いずれも風の作品で、目には映らない風の動きをキャッチして自在に変化する造形に見とれていた覚えがあります。後で知るのですが大阪万博の時にも岡本太郎さんやイサムノグチさんをはじめ7人のアーチストの一人として参加されていたようです。当時僕も大阪万博には出かけましたが、パビリオンばかりに意識が注がれその作品の記憶はありません。その後、僕はデザインの道に入り修業時代を過ごしていたある日、家庭画報だったと思うのですがアートのニュース欄に新宮さんの風で動く作品が小品となって、セゾン美術館のミユージアムショップで販売されているという記事を見つけたのです。確か3種類あったと思います。僕は、なけなしの給料をもってその一点を買い求めに出かけました。
それからずいぶん時間が流れ、プロダクトデザイナーの喜多俊之さんにお花見に誘われた時、初めて新宮さんに出会ったのです。その後、僕の作品集をお送りしておいたら「三田のアトリエに遊びに来られませんか?」とご連絡をいただいたのです。アトリエは、新宮さんのマケット(実際の作品の何十分の一かのミニチュアで、作家が実際の作品を創る前に確認するプロトタイプ)がいっぱい。そのすべてが風や水で実際に動くのです。また、広い敷地のアトリエには現物の作品が何台も置かれていて、大きな池には水で動く作品もあります。このアトリエは、「三田マジック」と呼ばれていて多くのクリエイターが一度訪れるとみんな新宮さんのとりこになってしまいます。ここに掲載する写真、二人で写っているのは先日、僕の事務所で撮ったもの。アトリエのマケットは、半年ほど前に新宮アトリエにお伺いした時の写真です。そして、初めてアトリエを訪ねた時に新宮さんから「今度、アメリカから出版する予定の作品集のデザインをお願いできませんか」と、装幀の依頼を受けたのです。 光栄きわまりない話です。その後、何度も作品集を装幀させていただいたり、食事をしたりで親交を深めてきました。
先日もお食事をしながら2時間以上いろいろと話しました。その時、新宮さんが「しゃくふう、しゃくすい」という言葉を使われるのです。一瞬、僕の知らない言葉に何を話されているのかピンとこなかったのですが、よくよく聞いていると「借景があるように僕の作品は、風や水の力を借りて動くので借風(しゃくふう)、借水(しゃくすい)なんです。つまり、風景も風も水も光も全ては地球に借りているものです」とおっしゃるのです。いま、Breathing Earth(ブリージング・アース)「呼吸する大地」というプロジェクトを計画中とかで、自然エネルギーを生かした村のヴィジョンを描いているとのこと。確かに「自然の恩恵を授かっている」とよく言いますが、「授かったもの」は、ついつい自分のモノという発想になりがちです。「自然の恩恵を借りている」と発想すると「借りたもの」は、丁寧に使い、何らかのカタチで元に戻さねばと考えるように思います。「持続可能な暮らし」。エコロジーとエコノミーの2つの矛盾するエコの間でいかに生きるかが問われてきます。
ところで、新宮さんがいま連載中の神戸新聞の『わが心の自叙伝』、いろいろと考えさせられる話があり面白いですよ。