KenMiki & Associates

「本気」の凄さ

ACA(アジア・クリエイティブ・アカデミー)の僕のワークショップで学生達の最終プレゼンテーションが8日のお昼から始まりました。僕が帰国するぎりぎりの時間まで講評が続きます。課題は「履歴書」。ここでいう履歴書は、自分の思考や生き方、そして、感性を存分に表現する「未来を語る履歴書」。自分のルーツやヴィジョンをしっかり見つめ、自分の言葉で語りかけるようにデザインをしてもらう。平面、立体、映像など表現の方法は自由。見る人がワクワクするようなデザインで、その人の理念がほとばしるような「履歴書」を期待しながら彼らのプレゼンを待ちます。彼らとのマンツーマンでのミーティングで本人のコンセプトとスキルを見つめながら、それぞれの解決方法を探ってきましたから課題を広義にとらえている作品に出会うこともあるように思います。いずれにしても楽しみです。
ある人は、映像による表現で自分の人生に影響を与えた人物が重なり合い、それぞれの人の顔に一定の法則で描いた小さなドットを重ね、最終的に自分の顔がさまざまなドットにより構成されるといったコンセプチュアルな作品を発表します。
また、ある人は自分の名前を一文字一文字に分解し、それぞれの文字の発音と同じ発音を持つ文字を集め、その意味の関係性を解き、そこに自分の名前のハングル文字のエレメントからヒントを得たデザインを重ねシンボルマークを創っていきます。表音文字のハングル文字に表意文字のような意味と形を表わそうとしているように映ります。
また、ある人は、ACAで創ってきた自分の作品をアーカイブするためにインタラクティブなウェブサイトを計画します。細胞のような有機的なフォルムのコンテンツが、ゆっくりとしたリズムで重なり合ったり離れたりしながら動いていきます。そのコンテンツにマウスを重ねるとエモーショナルな動きとともにそれぞれの作品へとジャンプしていきます。まるで作者の頭の中のカオスを泳ぐような動きがとても神秘的です。
また、写真家で集合住宅の窓ばかりを撮り続けミニブックでその作品を発表している人は、自分のアイデンティティともいえる窓をテーマに自分の名刺や封筒などV.I.を展開しようとしています。名刺に開けられた矩形の窓が裏面の集合住宅の作品の窓とピッタリと重なり、それはそれはセンスの良さが漲っています。
また、人生の中でのプラス要因とマイナス要因を小さなドットで左右に振り分け、そこに細い糸を張り、糸との関係性を意識したイラストレーションで未来の自分を語る物語性のある作品にも出会います。糸が人生の時間を表しているようにも映ります。その糸を飛び越えようとする人。その糸を摘もうとする人。その糸を引っ張ろうとする人。その糸を渡ろうとする人。チャーミングな表現に「すごい」や「うまい」とは違う、その先にある「にくい表現」に思わず笑顔がほころびます。これらの作品以外にも力量のある作品がたくさん集まりました。わずかな時間の中でも自分の全身全霊をかけてデザインに向き合う姿が手にとるように分かります。こんなにエネルギッシュな充実した時間を若いみんなと一緒に過ごせたことで僕の脳が逆立ちしながら喜んでいるのが自分でも感じられます。
真剣に向き合って、真剣に考え抜いた彼らと言葉を超えた友情のような強い絆が繋がっていきます。帰りの空港に向かう時間をぎりぎりまで延ばして、彼らと喜びを分かち合います。
その気になる。やる気になる。本気になる。そんな気持ちで繋がった韓国でのワークショップ。デザインの楽しさや奥深さを伝えようと思って出かけた韓国への訪問。彼らに「本気」の凄さについて、あらためて教えられた一日。とても印象深い日となりました。
みんな本当にありがとう。そして、お疲れさまでした。カムサハムニダ!