KenMiki & Associates

わかりやすさや伝わりやすさを装わない話の奥の奥

中国、深圳から香港を経由して関西国際空港へ、そして、そのまま事務所へ直行。スタッフと打ち合わせ後、翌日のdddで開催される矢萩喜從郎さんのトークショーに向けて彼の著書『多中心の思考』を自宅に持ち帰ります。厚さ5cm近くもある分厚い本です。出国前からの続きを読もうと思いますが、中国での疲れかページが一向に前に進みません。食事の際のお酒も手伝って気がついたら朝になっています。
論客、矢萩さんとのトークショーに「こんな状況で大丈夫だろうか?」と急に不安が募ります。とはいえ、東京のgggでのトークショーで進行を務められた澤田泰廣さんがご一緒。大船に乗った気分です。お昼に澤田さんと食事をしながら簡単に打ち合わせ。いざ本番です。矢萩さんは、デザイン、建築、アート、写真、評論と、その活動が多岐に亘っていてそれぞれが半端ではありません。澤田さんによると「一人、バウハウス」だとか。僕の眼には全てのジャンルの仕事が溶け合って、まるで「創造の溶岩」のように沸々と煮えたぎる強いエナジーとなり、それぞれを突き上げているかのように映ります。いいかえれば、あらゆる際(きわ)が溶け、ジャンルという言葉さえを死語とし、自らが混沌とした中に飛び込み、創造の因子を探し求めようとしているかのようにも映ります。トークショーの内容もその溶け合う創造の中から言葉を紡いで、視覚世界の不思議な成り立ちから「身体の話」へ。そして、舞踊家・勅使河原三郎との会話から気づきを覚えた「身体の中心は一つではなく、中心が点在する」という「多中心の話」へ。続いてトークショーの会場の直ぐ側にある南堀江のHYSTERIC GLAMOURの入っている建築物の構造から「空間の話」へと語られていきます。
引き出しの多さ、その引き出しから滲み出る言葉の高度さ、僕の脳は、いつの間にかオーバーヒート手前までフル回転をしています。わかりやすさや伝わりやすさを装わない話は、「わからない」という極めて創造の根源を突き動かす哲学へと進んでいきます。「わからないものを知りたい欲望」「立ち向かう目標に高い壁を設け、それを制覇しようとする癖」「創造の溶岩」は、「自爆」こそが創造だと僕たちに哲学の剣を突きつけてくる。質問に質問で切り返すしたたかさ。久しぶりに使った脳が、その後の食事会の鰭酒で溶けていくようです。その瞬間、僕は、「解放」という創造の入り口に導かれたような気持になっていきました。
それにしても、わかりやすさや伝わりやすさを装わない話の奥の奥に潜む矢萩さんの「良心」に触れたことが嬉しかった。澤田さん、モデレータお疲れさまでした。今度は東京で…。