KenMiki & Associates

記憶

12月20日から25日まで、『太陽の塔』をスクリーンに見立て映像を映し出す『デジタル掛け軸』と題するイベントが、大阪府吹田市の万博記念公園で開催されています。『太陽の塔』に映像作家の長谷川章さんによるデジタルで制作された100万通りのパターンが映し出されていきます。日没に合わせて始まるこのイベントは、幻想的な光が『太陽の塔』に生命を宿らせていくようでとても神秘的です。
それにしても『太陽の塔』に光のアートを重ねる着眼点に感心します。『太陽の塔』といえば、岡本太郎の傑作。1970年の大阪万博で始めて見た時、当時15歳の僕は「なんじゃ、これ!」と驚かされたものです。お祭り広場にあった大屋根を突き破るように飛び出した上半身。ウルトラマンに登場する不思議な怪獣のようで凄いインパクトがありました。
お祭り広場は、計画段階で丹下健三が率いる建築家グループがすでに大屋根を作ることで決まっていたそうですが、そこに突如として70メートルもの塔を立てるから真ん中に穴を開けろと岡本太郎がいいだしたそうです。撤回を求める建築家たちが岡本太郎の自宅まで押しかけて直談判したそうですが、滔々と哲学を語り信念を曲げなかったとのことです。そのかいあって大阪にすごいランドマークが生まれたのです。確か、『太陽の塔』の内部は当時入ることが出来、真っ赤なパビリオンだったように記憶しています。その後、万博記念公園には幾度となく出向いていますが『太陽の塔』を見る度に、天に向かい凄いエネルギーを放出しているようで強い生命力を感じます。余談ですが、岡本太郎の信念を貫く強い意志と、その造形の生命力を見習いたいと、僕の携帯電話の待ち受け画面は『太陽の塔』にしています。
その『太陽の塔』に光のアートを重ねる。まるで昼間に蓄えられた光が日没と同時に『太陽の塔』の身体の中で踊り出すような感覚。限定期間や光というその時だけで消えていく存在。カタチに残すのではなく記憶に残す行為。ここにこのイベントの真価があるように思います。
記憶。このカタチではない、脳への彫刻。
そこにもう一つの『太陽の塔』が建てられていくように思います。