KenMiki & Associates

文字

先日、欧文書体制作の第一人者、小林章さんの講演会にゲストとして参加しました。

小林さんは、ユニバースやフルティガー書体で有名なアドリアン・フルティガーさんやオプティマやパラティノ書体で有名なヘルマン・ツァップさんといったヨーロッパの文字の巨匠と一緒に欧文書体を創られている方。講演内容は、平筆を使った実演で文字の骨格やセリフのつき方など欧文書体の成り立ちや、ルール、組版についてなどです。僕の参加したトークショーでは、小林さんが関わったサントリーのロゴマークの監修や、専用タイプフェイスの選定についての話が中心に進められました。

小林さんの話をうかがいながら僕の脳裏に浮かんだのは、ブランディングを中心に活動をしているデンマークのコントラプンクト社のボー・リンネマンさんにうかがった興味深い話です。

V.I.を展開する際、以前は、1. Symbol 2. Name 3. Color 4. Typeという順に優先順位を持つ企業やデザイナーが多く見受けられ、シンボルマークに注力されていたが、昨今では、1. Name 2. Type 3. Symbol 4. Colorという順に移りつつあるという話です。その中でもオリジナルの専用タイプが企業イメージの構築に強い影響力を持ち、デンマークの国営の薬局では、個性のある専用タイプによって、明解なアイデンティティが築かれているとのことです。サントリーが新しいC.I.を導入するにあたり、ロゴマークの精度を高める作業や専用タイプフェイスの選定に小林さんのような文字の専門家を監修者として参加させていることの意義を強く感じました。

また、今月号のAXIS誌に掲載されていた『ドライバーのための新書体 それは、究極の「チラ見」フォント。』では、自動車メーカーにさまざまな機器を提供するデンソーが、安全な走行が最優先される運転席でドライバーに文章を読む余裕がないとし、「拾い読み」「チラ見」をキーワードに文字開発を進めているとあるではないですか。デザインの源を築く文字のデザインは、安全や安心といった眼には映らない暮らしの細部にまで大きく関与しはじめています。

文字。そのコミュニケーションの根源にある記号は、その個性と可読性によって強いアイデンティティが発揮されるのだと感じる今日この頃です。